バトルサブウェイ、シングルトレイン。
トウコは順調に勝ち進み、
ついにクダリの元までたどり着いた。
「クダリさん、来ましたよ」
トウコはそっとドアを開ける。
『いらっしゃいトウコ!よくきたね』
笑顔で出迎えるクダリに険しい顔をするトウコ。
「…クダリさん」
『どうしたの?』
トウコは小さく息を吸ってから言った。
「…ノボリさんの事、何で忘れちゃったんですか」
そう言うとクダリの顔が一瞬固まり、
またいつもの顔に戻る。
『だからノボリってだれ?ぼく、しらない』
「…ノボリさんは、あなたにとって大事な人だったんじゃないんですか!?」
少し強めに問い詰めるトウコにクダリは顔色を変えずに返す。
『でもぼく知らない。』
「知らないじゃないですよ!!」
『だからぼく、わからない。その人のこと』
「ノボさんはっ!!サブウェイマスターで、
あなたの双子の…っ!!」
『トウコ』
トウコの言葉を遮りクダリが名前を読んだ。
その声はとても暗く、
クダリの顔はいつもと変わらないのに、
クダリの目の奥からあふれる計り知れない闇を、
トウコは感じた。
まるで、それ以上何も言うな。
絶対に。
そう言うかのように。
クダリは無言でトウコを見つめる。
「…ごめんなさい」
『いいよ。じゃあ、はじめよう。
目指すは勝利!出発進行ー!!』
すぐ切り替えて楽しそうにバトルをするクダリに、
トウコはそれ以上問い詰めることをやめた。
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無事にクダリに勝利し、トウコはトレインを降りた。
するとそこには駅員のカズマサが。
「すまんな、色々見てたんやが…」
どうやらカメラで見ていたらしい。
トウコもカズマサも暗い顔をして下を向く。
「…あいつな、急に忘れたん。ノボリの事。
演技にもとても見えないし
あいつがそんな事すると思えん。」
「ですよね…あんなに、仲良しだったから」
トウコは暗い顔をしたままカズマサを見つめる。
「…でも、分かっちゃったんです」
「なにが?」
聞き返すカズマサに、
トウコは一筋の涙を頬に伝わせ、呟いた。
「きっと私達じゃ、クダリさんを救えない」
カズマサは一瞬困惑した顔をしたが、
すぐ暗い顔をして俯いた。
だがトウコは続ける。
「私達じゃ、救えない…でも」
「…でも?」
トウコは真っ直ぐな目をして言った。
「ノボリさんなら…きっと…」
「…ノボリか、たしかにな。でも、あいつは…」
カズマサが何かを言いかけたのを遮りトウコは続ける。
「私、信じてるんです
絶対にノボリさんは帰ってくるって」
「…でも」
「だってあのノボリさんだから、
こんな状態のクダリさんを放っておくわけ無いと思うんです」
トウコの真っ直ぐな瞳にカズマサは眩しがるように目を瞑る。
だがふっ、と笑い
「…せやな、あいつクダリとバトルの事になると
意外とアホになるからな」
「そうです、だから絶対に…!」
トウコの強い思いに反応した様に、
外の星空の目立って大きな星が、
強く光ったように見えた。
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電気の付かないマンションの一室。
しぃん、と静まり返っていた室内に、
クダリがふらふらと帰ってきた。
電気をつけず玄関で座り込む。
『…ちがう、ちがう』
クダリは頭を抱える。
冷や汗が止まらず、体の震えが止まらない。
『ノボリ、しらない
サブウェイマスターは、ぼくだけ』
体が拒絶するように酷くクダリの神経を逆立てる。
『ぼく……クダリ
サブウェイマスター』
小さな声でそう呟く。
2つあるベッド、
2人がけのソファー、
2つずつある皿、食器、カップ。
その全てをまるで拒絶するように、
クダリは震える。
『ぼくは……』
クダリ声は暗い部屋の中に吸い込まれていった。
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