コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
ヒスイの朝早い、夜明け直前。
太陽がテンガン山の上から顔を出すと、
一気に周りが明るくなる。
なんとなく早く目が覚めたノボリは、
オオニューラと共にテンガン山山中ベースに来ていた。
冷たい風と朝日の暖かさが体に染みる。
テンガン山の山頂に前まであった時空の裂け目は、
ついこの前誕生した『英雄』により、
キレイにあともなく閉じた。
自身もあそこから落ちて来たのか?
ノボリはぼーっと山頂を見つめ考える。
「にゃりん?」
オオニューラが突っ立って動かないノボリを
心配したのか、顔をのぞき込んでくる。
「…あぁ、すみません、
少し考え事をしておりました」
オオニューラの頭を軽く撫で、
白い息をはぁ、と吐き出す。
「寒いですね」
いつの間にか雪が舞うように降り始めており、
一層寒さを増させるが
朝日に反射して雪ひと粒ひと粒が輝いており
とても幻想的な景色があった。
「そろそろ訓練場に向かわなければいけませんね
オオニューラ、帰りましょう」
「にゃりん!」
オオニューラは乗れ、と言う様に自身が背負う籠を爪で叩くが、
「いえ、今日はなんとなく歩きたいのです
まだ時間があるので大丈夫でしょう」
オオニューラとノボリは白い景色の中を二人で歩いていく。
新しく積もり始めた雪が二人の足跡を残していく。
雪はだんだん激しくなり、山を下り終わる頃には
吹雪と言えるレベルになっていた。
「ふむ…少し激しくなって来ましたね
早い事帰りましょう」
吹雪の中進んで行くと、地吹雪と傘なり周りが白く少し先も見えない暗いになってきた。
二人はそのまま進むと、
遠くに何か人影があるのを見つけた。
いち早く気づいたオオニューラがノボリの肩を叩く。
「にゃりん、にゃん!」
それで気づいたノボリも目を細める。
「あれは…何でしょうか…?」
オオニューラがノボリを守るように先を歩く。
黒い影はこちらに向かってくる事も
逃げるわけでもなくただ立っている。
近づくと雪は少しだけ弱まり、
姿が少し見えた。
ノボリが目を凝らして見ると、
そこには「自分」がいた。
少し曲がった背、顎に生えた髭。
長いコートの裾と袖はボロボロで
目元は帽子の鍔でよく見えず、
だがその口角は上がってるように見えた。
「にゃりん!?」
オオニューラは驚いてノボリとそれを交互に見る。
だがノボリは操られたようにそれに近づく。
オオニューラが困惑している後ろで
ノボリはそれに触れる。
「……あなた、は」
それは驚いたような顔をして後ずさる。
ノボリがそれにさらに触れようとしたとき、
それは煙を立てて姿を変えて、
オヤブンのゾロアークの姿になった。
ノボリは呆然と立ち尽くし、
いつの間にか雪は止んでいて、
ゾロアークは洞窟の方へ帰ってゆく。
立ち尽くすノボリをオオニューラが心配するようにまた顔を覗き込む。
「…すみません、帰りましょうか」
「にゃり…」
二人はまた歩き出す。
ノボリの心のどこかにある突っかかりが、
さらに増えたような気がした。
───────────────────────