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「おじゃましまーす」
悠真が靴を脱いで上がると、リビングから兄が顔を出した。
「ようやく来たか、悠真! 今日は一緒に飯な」
亮はにかっと笑い、片手でソファをポンポン叩いて座る場所を示す。
「勝手に決めんなよ。でも助かる、腹減ってたとこ」
悠真は苦笑しながら言い、咲の方へとちらりと目を向ける。
「なぁ、妹ちゃん。手伝ってんのか?」
その言葉に、咲の心臓は小さく跳ねた。
いつもと変わらない調子のはずなのに、“妹ちゃん”と呼ばれるだけで、胸の奥がざわつく。
「……まあ、はい」
なるべく平静を装いながら返すと、亮がすかさず口をはさんだ。
「だろ? 咲は気がきくからな!」
わざとらしく自慢げに言う兄に、咲は「やめてよ」と小声で抗議する。
リビングに笑い声が広がる。
にぎやかな兄と、自然体で笑う悠真。
二人の空気感に、咲はほんの少しだけ置いていかれるような感覚を覚えた。