第9話 月夜の力と異界滅殺
3兄妹は妖怪に襲われているという町に案内され
足を踏み入れた。
一見静かな平和そうな雰囲気の町だが、
そこにいた町人たちは、
なぜか恐怖の目でこちらを見ている。
彼らの連れである猫
——月夜を見て、顔を青ざめていた。
前回の妖怪の襲撃で恐怖の真っ只中なのだ。
町人A
「お、おい……まさか!?
お前ら、その猫と喋ってるのか……!?」
町人B
「しゃ、喋る猫……! ひいいっ!!
また妖怪が現れたのか!?
俺たちはもうイヤだ!!」
人々の怯えた声が広がる。
千姫
「ちょっと! 月夜は妖怪じゃないわ!」
千姫が声を上げるが、
月夜がそのまま喋ってしまう。
月夜
「けっ!!
化け猫?
そんな言い方ないでしょ! 失礼ね!」
その瞬間、町人たちの恐怖は決定的なものになった。
「ひゃあっ!!
やっぱり妖怪だぁああ!!」
3兄妹が、
月夜は「善魔族」であることを説明する間もなく、
町人たちは彼らを危険な存在と見なしてしまう。
その時、静かに
黒い着物をまとった一人の男が近づいて来る。
謎の男
「……人間が妖怪と仲良くしているとはな」
案内人僧侶
「か、神威さん?」
冷たい眼差しを向けているのは、
剣士・神威蓮司(かむい れんじ)。
3兄妹とは別に
密教 護法蓮華(ごほうれんげ)で
修行を積んだ守護者の精鋭の1人だった。
蓮司
「異界滅殺。それが俺の信念だ。
妖怪も魔族も、人間以外の異界の者は全て害悪。
貴様らも同類なら、滅すべきだ」
竜之介が苛立ちをあらわにする。
竜之介
「ふざけるな!
俺たちは妖怪の味方なんかじゃない!」
だが、蓮司は鋭く問い詰めた。
蓮司
「ならば、そいつ(猫の月夜)を今ここで斬れるか?」
千姫
「なんで月夜を?
この子は…」
蓮司
「ふっ!ほらな、
妖怪をかばうとはやはり、お前たちは異界側だ」
静かに剣を抜く神威。緊張が走ったその瞬間——
不吉な太鼓の音が遠くで響く。
ドン……ドン……ドドドン……!
それはまるで、地獄の門が開かれる合図のようだった。
町人たち
「き、き、きたあああ…ひいいい…」
皆、慌てて家に入る。
同時に町の門が轟音とともに吹き飛び、
暗闇の中から無数の悪妖怪、百鬼兵が雪崩れ込んでくる。
ズズズ……!
黒い影がうねるように広がり、赤い瞳が無数に光る。
悪妖怪
「人間どもよ、貴様らの時代は終わった……!」
先頭に立つのは、
炎を纏う鬼将軍・朱厭(しゅえん)。
彼が妖刀・**鬼炎剣(きえんけん)**を掲げると、周囲の空気が揺れ、
ゴウウウウ!!
地を這うような業火が燃え上がる。
しかし、その炎の向こうに、
男が立ちはだかっている。
シュッ……!
黒い着物がなびき、銀色の刃が輝く。
蓮司
「……異界滅殺」
神威蓮司が静かに呟く。
蓮司
「異界の者は、例外なく斬る」
そう言った次の瞬間——
ギィン!!
剣を抜く音と同時に、彼の姿が掻き消えた。
「速い……!!」
百鬼兵の一体が驚愕の声を上げた刹那——
ザンッ!!
一閃。
妖怪の首が宙を舞う。
シュバッ! ザシュッ!
次々と繰り出される神速の斬撃。
その一撃ごとに、百鬼兵が両断され、
血のような妖気が地面を染めていく。
「チッ……!」
朱厭が苛立ちを滲ませる。
朱厭
「こやつ……ただの人間ではない……!」
しかし、百鬼兵の真の恐ろしさはここからだった。
倒されたはずの妖怪たちが、
ズズズ……と黒い霧となって再生していく。
ジュワアアア……!
蓮司が眉をひそめる。
蓮司
「チッ!……再生するか」
隙を狙い、百鬼兵の一体が背後から跳躍した。
ヒュンッ!!
百鬼兵
「死ねぇええ!!」
爪が蓮司の背を裂こうとした瞬間——
カキンッ!!
振り向きざまに繰り出された剣が、
妖怪の腕を弾き飛ばす。
蓮司
「——遅い」
ギュンッ!!
風を切る音とともに、
妖怪の胴体が真っ二つに裂ける。
「ぐはっ……!!」
しかし、蓮司はすぐに異変に気づいた。
ズズズ……!
倒したはずの妖怪が、黒い霧となり、
またしても復活する。
朱厭
「ククク……無駄だ、人間」
朱厭が不敵に笑う。
「ははは!
俺たちは、いくらでも蘇る」
神威は冷静に剣を握り直す。
蓮司
「……ならば、全てを灰にするまでだ」
次の瞬間——
バシュウウウッ!!
神威の全身から、凄まじい殺気が放たれる。
百鬼兵たちが、一瞬怯んだ。
蓮司
「……異界滅殺、『雷刃閃(らいじんせん)』」
彼の剣が青白い光を帯びる。
ビリ……バリバリバリッ!!
空間を切り裂くような電撃が剣に纏わりつき、
稲妻のような斬撃が一閃する。
ズバババッ!!
一瞬のうちに、五体の百鬼兵が斬られた。
だが——
朱厭
「ガハハ!!バカめ!言ったろう……
人間の剣技では、俺たちは滅びん!!」
朱厭が高らかに吼えると、
倒れた百鬼兵たちがまたもや霧となり、
再生する。
「……クッ」
蓮司は一瞬、歯を食いしばる。
さらに百鬼兵が四方から襲いかかる。
だが、蓮司は助けを求めることもなく、
一人で戦おうとする。
その結果——致命的な一撃を受け、
膝をついた。
朱厭
「死ねぇ!!」
朱厭が鬼炎剣を振り下ろす——!
その瞬間、
月夜が蓮司の背後に飛び込み、
魔力でバリアを張った!
月夜
「ダメえええええ!!!」
バシュウウウウッ!!
妖気の斬撃がバリアに弾かれ、蓮司の命を救う。
蓮司の目が驚きに見開かれる。
蓮司
「な……ぜ……?」
彼は動揺しながら、月夜を見つめた。
蓮司
「貴様……
妖怪が、なぜ俺を助ける……?」
月夜は静かに答える。
月夜
「私は魔族よ。
しかも善魔族!!
私はあなたを見捨てたりしない」
その言葉に、蓮司の心に小さな揺らぎが生じる。
これまで絶対の信念としていた**「異界滅殺」**に、
ほんのわずかだが、迷いが生まれた。
蓮司
「馬鹿な……俺は、
お前たちを滅ぼすつもりだったんだぞ」
竜之介が苦笑しながら口を開く。
竜之介
「なあ、蓮司……異界の者たちにも、
善悪があるってことが、少しはわかったか?」
蓮司
「……今は考える時ではない」
蓮司は迷いを振り払うように立ち上がり、
剣を握り直す。
怒りをあらわにする朱厭。
朱厭
「ククク……小賢しい。だが、勘違いするな。
俺は決して負けぬ。
貴様らすべて、この地と共に燃え尽きるがいい!!」
竜之介
「やるぞ!!千姫、晃平、一気に片を付けるぞ!」
千姫
「わかったわ! 任せて!」
晃平
「了解! 見せつけてやる!」
三兄妹が構え、声をそろえる。
三兄妹
「観自在菩薩 行深般若波羅蜜多時 照見五蘊皆空 度一切苦厄——ええい!!」
バシュウウウ…!!
三兄妹にそれぞれ武将霊が憑依し、一気に力を解放する。
竜之介
「天地斬破(てんちざんぱ)!!」
ズバババババ!!
巨大な斬撃が発動し、
次々と百鬼兵が黒い霧に変わって消えていく。
千姫
「雷迅轟弾(らいじんごうだん)!!」
ボン! ボン! ボボン!!
雷を帯びた弾丸が百鬼兵たちを超高速で撃ち抜き、
瞬く間に地に伏せさせる。
晃平
「槍神貫破(そうじんかんぱ)!!」
ズゴゴゴッッ!!!
一突きで大きな風の渦が発生し、
百鬼兵を巻き込みながら粉々に砕いていく。
その様子を見て、蓮司が思わず呟く。
蓮司
「……コレがコイツらの実力……」
百鬼兵の大軍は、一掃された。
残るはただ一人——鬼将軍・朱厭のみ。
朱厭の怒りが頂点に達し、全身が震え始める。
朱厭
「こざかしい!?人間如きが……!」
グオオオオオオ……!!
瞳が血のように赤く燃え、筋肉が膨れ上がる。
同時に、彼の体から漆黒の炎が噴き出した。
《鬼炎極滅(きえんごくめつ)》!!!
ズオオオオオオオッ!!!
凄まじい衝撃波が広がり、
周囲の建物が崩れ落ちる。
空が一瞬、暗黒に染まり、
黒い炎が竜巻のように渦巻いた。
千姫
「な、何これ……!? こんな力、
今までとは桁違いよ!」
竜之介
「……マズイな、コイツ!
本気でやるつもりだ!」
晃平
「朱厭の体から膨大な妖気が放出されている……まるで、自分自身を炎そのものに変えようとしているみたいだ!」
朱厭は高笑いを響かせる。
朱厭
「クハハハ!! 人間ども、
まとめて燃え尽きるがいい……!!」
——このままでは、町ごと焼き尽くされる!
蓮司が剣を構えるが、その時——
月夜が彼の前に飛び出した!
蓮司
「……下がれ、妖怪」
月夜
「ちょっと、私を妖怪呼ばわりするのやめてよ!
善魔族って言ってるでしょ!善・魔・族!!」
蓮司
「俺の戦いに口を出すな」
月夜
「バッカじゃないの!?
そんなくだらないプライドのせいで、
あなた……死にたいの?
あいつの炎は、あなたの剣だけじゃ消せない。
私と組めば、勝てるかもしれないのに!!」
蓮司は言葉を失った。
しかし、月夜の真剣な眼差しを見て、
静かに剣を握り直す。
蓮司
「……いいだろう。だが、俺の邪魔はするな」
月夜
「フフ、了解!」
朱厭が咆哮する。
朱厭
「無駄だ!! 人間も魔族も、
俺の炎に飲み込まれるがいい!!」
ズオオオオオオオオオッ!!!
炎の塊が膨張し、
町がまるごと焼き尽くされる寸前——
月夜が蓮司の剣に向かって手をかざす!
《月影転生(げつえいてんせい)》!!
青白い月の光が月夜の体から放たれ、
蓮司の剣に流れ込む。
蓮司の剣が蒼白く輝き、
夜空の月光を宿したように美しく光る。
それは、異界の力を完全に滅する
**“浄化の剣”**へと変貌した——!
蓮司
「……これなら、あの炎を断ち切れるか」
蓮司
「月夜、力を貸せ!!」
月夜
「いっくわよ!!」
バシュウウウウウウ!!!
蓮司の剣が月光を帯び、巨大な斬撃が発動する!
《雷刃閃・月影滅尽(らいじんせん・げつえいめつじん)》!!!
ズバアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!
青白い雷光をまとった一閃が、
朱厭の黒炎を貫く——!
朱厭
「グアア!!人間如きに!!」
——朱厭、完全消滅!!
静寂が訪れた。
辺りにはもう、朱厭の気配すらない。
3兄妹が安堵の表情を浮かべる。
竜之介
「終わった、のか……?」
千姫
「うん……やったわ!」
晃平
「月夜の魔力と蓮司の雷……
最強の組み合わせだったな」
蓮司は剣を納め、ふっと息を吐いた。
蓮司
「……まさか、魔族と共に戦うとはな。
今の俺が言うのも皮肉だが……
お前がいなければ、俺は死んでいたな。」
月夜が不敵に笑う。
月夜
「ねえ、これで私たちを
”異界の者は全て滅すべき”って
思えなくなったでしょ?」
蓮司は少し黙った後、静かに答える。
蓮司
「……考える時間が必要だな」
月夜がクスクスと笑う。
月夜
「ふふっ、じゃあ、ゆっくり考えなさいな!」
こうして、町に再び平和が訪れた。
蓮司の信念は、確実に揺らぎ始めていた。
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