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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「空が青い――――元に戻った、か……」


戦いを終えると、俺の中での幸福な部分がごっそり削れてしまったのを認知する。晴れ渡った大空と反し、心がささくれ苛立つ。

どうして俺がこんな目に合わなきゃいけないのかとか、なんで憎悪する魔法少女としてアンチと戦わなければいけないのか、とか。もやもやとドス黒い感情が胸中で膨れ上がっていく。


今、俺が何より求めているものは『妹の夢来みらいの笑顔』だ。



「言われた通りルシフェルを倒したぞ。さぁ早く夢来みらいを治してくれ!」


両翼を駆使して空中より地面に着地を決める。すぐに詰問する勢いで星咲にどうにかしてくれと近付く。


「鈴木くん、慌てないで。今は鈴木くんの変身を解くのが先だよ」


確かにこんな恥ずかしい衣装姿なんて、誰にも見られたくない。今は女子然とした身体になっているからマシなものの、変身解除のシーンなんか人目に晒されたらとんでもない。

そもそも魔法少女が実は男でした、なんて事例が露見したなどメディアで一度もないのだ。


すぐさま【魔史書ヒストリカ】を解除して霧散させる。すると俺の身体も元通りになる。

やっぱり女子化の時はかなり身長が縮んでいたようだ。先程より数段、目線が高くなる。



「修復の件だけど、まだルシフェルから【欠望因子アンチズム】を回収してないからね。その辺はもう少し待ってくれないかな」


そろそろだと思う、と悠長に空を見上げながら呟く星咲。

そんな彼女もまた仰向けに倒れたまま、胸に穴が空き、右手が吹き飛び千切れている。俺とは違いボロボロなその姿に、何ともいえぬ罪悪感を覚え、これ以上は彼女を信用するとして言及はやめた。


それから数十秒。俺は時間がない、早く夢来をどうにかしろと激昂しそうになるのを必死に抑える。むせ返る血の匂いが充満する場で、互いに言葉を発さずに何かを待った。


全てが崩れ、静まり返った校舎を眺め、本当にこんな惨状が元通りになるのか? そんな疑問を持ちながら、遠くから響く救急車やパトカーのサイレンを聞く。

死体がうずたかく積まれ、倒壊した学校、トップアイドルと二人きり、妙に現実味のないシチュエーションだ。



読み解くはリード・約束の第一章プロメテア――【天下統破】」


不意に頭上より甲高い声が響く。

その声に反応して上を見れば、天空より七人の人間が降下してくるではないか。

遠目からして、小学生高学年の女児が一人、中学生女子が四人、女子高生が二人だ。


「魔法少女――――【織田信長】――――現界」


派手な輝きと共に、切継愛よりも派手な戦装束をはためかせた小学生女児。彼女は誰よりも早く俺達の前で着地した。


更に次々と決めポーズやらお決まりの台詞で、『幻想論者の変革礼装ドレス・オブ・チェンジ』を悠長に果たしていく魔法少女の面々。


今更かよ。

遅れて来ながらしっかりと決めポーズをかます少女たちに、イラッとなるが抑えておく。



「救援に来てやったぞ」


金と黒地を豪華にあしらった羽織、小学生女児には似つかわしくない日本鎧に身を包む少女が、居丈高いけたかだかと宣言する。

その姿にこいつは本当に戦う気があるのか? と疑問を呈したくなった。

なにせ上半身は甲冑姿だが、肝心の下半身はスカートみたいな感じになっている。下半身の守りはオーバーニーソックスのような形状に伸ばされた脛当すねあてのみで、戦国武将にしては薄着な印象が否めない。

俺の衣装もそうだったが、魔法少女の服装は戦闘向きってより見栄え重視の機能美が優先されているのだなと思う。



認識シグナルコード、【暁の明星みょうじょう】ルシフェルはいずこ……もしやあの氷中か?」


やけに高圧的な雰囲気で、倒れ伏した星咲に質問を浴びせる小学生女児。この子には見覚えがある。たしか、かなり有名で人気な魔法少女アイドルだったはず。

ちなみに彼女は星咲の隣で突っ立ている俺には視線すら向けず、いない者として扱っているようだ。


「滅茶苦茶ですね……」

「被害が甚大じゃない……」

「さすがは【伝承持ちネームド】のアンチね……」


次々と降り立ち、周囲の絶望的状況を見渡して囁き合う魔法少女たち。女子高生二人と、女子中学生一人が呻く。それをつまらなそうに一瞥し、代表の如きふるまう小学生女児。


「星咲ぃ。【姫階級プリンセスタ】もいながら、この醜態は無様だな」


吐き捨てるようにして言葉を紡ぐ小学生女児は、明らかに星咲を非難している様子だ。


「これでトップ10に入る我と同じ【不死姫プレリュード】の一柱なのだから笑えない」


そんな小学生女児に追従するかのように三人の女子中学生が、口々に嫌味な感じで倒れ伏したままの星咲に言葉を落としていく。



「序列8位も大したことないってわけね」

「これだから【魔史書ヒストリカ】の性能に頼ったアイドルはダメだねー」

「いい気味よ」


女子中学生たちからは、星咲に対する劣等感や妬みが入り混じった感情が窺えた。

そんな彼女らに対し、星咲はヘラヘラと笑っている。

何かがチクリと胸に刺さり、俺は彼女たちに向かって抗議の声を上げる。


「おい、この人は必死になって戦ってくれたんだ。遅れてやって来たお前らがとやかく言える立場じゃないだろ」


は? とアイドルにあるまじき態度で俺に向き直る女子中学生たち。その目は俺を完全に見下す態度で、まるで虫けらでも眺めているような嫌悪感に満ちた視線だった。


「誰、こいつー」

「あのね、うちらはここの管轄外なの。遅れてきたとか、そーいうのないから」


「君こそアイドルのお仕事に口出しできる立場じゃないでしょ。私達に守られて平穏を味わうゴミのくせに、しゃしゃり出ないでよ」


「ちょっと、千秋ちあきちゃん。こんなのにムキになっちゃダメだよ。この人は庶民で、どうせ記憶除去されちゃうんだし」

「相手にするだけ時間の無駄ね」


なんて態度の悪い奴らなんだ。

腸が煮えかえる思いで彼女たちを睨みつける。

千秋とか言ったな、名前は覚えたぞ。お前らの性悪をネットの掲示板で書きこんでやるからな……。


いや。

それじゃあ、俺を理不尽にいじめてた奴らと変わらない……人を貶めようとするなら影で何でもする、そんな奴らと一緒にはなりたくはない。

中学時代のクラスメイトは俺の弱い立場を把握し、報復できないとみて行動に移していた。ネットの匿名性を利用し、ノーリスクだと自覚しながら悪口を書き込むなんて、性根の腐った卑怯な奴らと同じじゃないか。


くそっ、自分が嫌悪する思考になりかけるなんて……これだから魔法少女アイドルと関わるとロクなことにならない。

ならばこそ、面と向かって魔法少女の機嫌を損ねる覚悟で発言するか。もしかしたら暴力に訴えられるかもしれない、そんなリスクを冒しても彼女らの言動は注意すべきだ。



「おい。一生懸命やりきった奴に悪口言うとかダサいよ。自分達の序列が低いのを気にした妬みにしか聞こえないぞ」


これは効いたのか、女子中学生三人が顔をしかめる。

しかし小学生女児はフンと鼻を鳴らして、ここで初めて俺を見た。


「部外者が。その首切り落とすぞ?」


とても小学生とは思えない、底冷えするような瞳で睨みつけてくる。異常ともいえる濃密な殺気をぶつけられ、思わず後ずさりそうになるけど何とか踏ん張る。


「せっかく序列6位のわれが参じてやったというのに、【幸福因子サイリウム】は自腹とな?」


こいつ、かなり有名な部類のアイドルだったとは思っていたが、まさか序列8位の星咲より上だとは……。

小学生女児が呆れたように呟けば、それを耳にした女子中学生たちが勢いを取り戻す。



「このレベルのアンチを下手に氷から出したら、どうなるかわからないし……一度、事務所に運ぶしかないってことね」


「アンチは未討滅、【欠望因子アンチズム】を取り込んでの【幸福因子サイリウム】吸収ができない」


「この人数の身体再生と記憶除去、それに建築物の再生もあるのね」


「星咲さんと……切継さんは気を失ってるのね。とにかく、貴方がた二人の失態から緊急招集をかけられた私達は大損」


「【不死姫プレリュード】の降格願い届けを事務所に提出するから、覚悟しておいてね」


つらつらと攻め立てる女子中学生たちだったけど、それを制止したのは意外にも女子小学生だった。



「貴様……」


幼女は驚愕に満ちた表情でジッと星咲を見つめ、数秒後に視線を逸らした。


「うぬらは、【不死姫プレリュード】の降格願いの提出は捨て置け」

「えっ」

「識別コード『暁の明星』を事務所に届ければ、その功績で【幸福因子サイリウム】の分配はされよう。これだけ大物なのだからな」

「で、でもっ」


幼女の決定に異を唱えようとした女子中学生の一人だったが、幼女が腰にさした刀を抜き放ったことで黙りこんだ。


「星咲ぃ……貴様、【幸福因子サイリウム】が……」

「はははっ……あとはよろしくね、明智あけちちゃん」


星咲に明智ちゃんと呼ばれた女子小学生が、ほんの一瞬だけ辛そうな表情をする。



「っち……貴様のことは気に入らなかったが……」


さっきまでの傲岸不遜な態度から一変して、明智ちゃんとやらの瞳がかすかに揺れている。


「御苦労……大義であった。せいぜいのちの世を謳歌するのだな……」


意味深な言葉を残し、俺達をその場で放置した。その後、テキパキと他の魔法少女たちに指示を出し始める。彼女たちは例の虹色に輝く粒子を散布し、破壊し尽くされた人を、物を、この場の異常を全て修復してしまったのだ。

たった数分間の奇跡、まるで破壊動画を逆再生されるような光景に見入ってしまう。


「生意気なあなたの記憶も除去っと――」


女子中学生が俺にも虹色の輝きを浴びせ、アイドル研修生の時と同じように記憶操作を施した様子だが……俺には何ら影響がない。

しかし今度は記憶がなくなったフリを演じることにする。また装甲車に連行されるなど勘弁だ。


ものの数分で全てが元通り、いや回復した生徒たちの視線はうつろで意識がないようにボーっとしている者ばかり。

そんな中、魔法少女たちは星咲と切継を担ぎ……俺が生み出した氷塊、ルシフェルが封じられた氷を何らかの魔法で宙に浮かせ、どこかへ去って行ってしまう。



お、おい……、こんな夢遊病者みたいな状態で本当に生徒たちは回復してるのか?

完全に置いてけぼりをくらい、焦る俺が辺りを見渡すこと数十秒。


「あれ? おにぃ?」


すっかり胸の穴が塞がった妹の夢来みらいが俺を呼ぶ。

静止した世界が再び動き出したことに心底ほっとする。


「おー! 切継きりつぐちゃんのライブは最高だったなぁ!」


腐れ縁の優一も元気な雄叫びを上げる。それに続いて、次々と切継のライブを讃える歓声がわき上がり、こと切れていた生徒たちは息を吹き返すように騒ぎ立てた。

どうやら切継のライブはすごかった、という記憶しか残されていないようで、みんなは平和にはしゃぎ回っている。


そんな景色を見せられれば、どうしても感じてしまう。



「なぁ鈴木、最高のパフォーマンスライブだったろ?」


「ははは……最悪のライブだったよ」


この世界は狂っている。



「おにいがアイドルを嫌う理由はわかるけど、ちょっとは素直にならなくちゃダメだよ?」


夢来みらいが呆れたような笑みを浮かべて注意をしてくる。

この世界は狂っている。けれど、今……目の前には俺が望んだ夢来みらいの笑顔があって。


……それさえあれば、もういい。

そう思ってしまう俺も狂っているのかもしれない。





平凡な日常。

繰り返される日々。


毎日、毎日、足しげく退屈な学校に通うのが俺たち若者の宿命。

毎日、毎日、満員電車に揺られて通勤するサラリーマンは、俺たち若者の未来図。


あんな地獄を見せられた後じゃ、そんな日々も悪くないと感じてしまう。



「おう、おはよー鈴木ぃ」


「おう、優一。今日もブサイクだな」


「お前に言われたくねー」


旧友とのこんなやり取りも悪くはない。


「おにい! またおべんと忘れてる!」


クラスまで弁当を届けてくれる可愛すぎる最愛の妹、夢来みらい

うん、わざと忘れたんだとは口に出さずに礼を言う。


「また夢来ちゃんが来てくれてんな! ほんとあんな妹がいて羨ましいわ!」

「だろう。俺の夢来は世界一可愛いからな」


「おにい……ほんと、そういうのだけはキモいから……」


魔法少女アイドルとか気に食わない存在が跳梁跋扈してる世間だけど、なんだかんだ俺の日常はこれでいい。

そう、あんな非日常はたまたまで。

あんなのはもう二度とない。


いつも通りのつまらない、小さな幸せの詰まった生活に戻ったんだ。



そう安心したのが悪かったのだろうか。



「おーい、みんな静まれー。今日は転校生を紹介するぞー」


平和を噛み締めていた俺は、担任の先生が口にした不穏な台詞を聞き逃していた。


「じゃあー星咲・・、入ってこいー」


先生が扉の外で待つ生徒へと呼びかければ、クラスが騒然とした。その後、爆発的な歓声と叫び、熱狂の嵐が教室内を駆け巡る。


俺は何事かと教卓の方に目を向けて、硬直してしまう。



「うおおおお可愛いいいい!」

「ホッシーじゃん!」

「おれ、ずっとファンだったんです!」

「わたしも! ホッシーのファンクラブに入会してます!」


星咲ほしざきさんと切継きりつぐさんがこのクラスにいるとか夢かよ……」

「もう死んでもいい!」

「トップアイドルがクラスに二人とか奇跡!」



……なぜ、おまえがここにいる?

俺の疑問に答えるように、奴はお決まりのポーズと決め台詞を放つ。


「君の一番星の登場だよッ☆」


腹立つほどに清々しい笑みを向け、俺を指差す星咲。

そんな彼女にクラスは全力で沸騰し始める。対する俺は急激に自分のテンションが氷点下になる。


「星咲永留ながるです。今日から、みなさんと同じ学校に通うことになりました。よろしくお願いします」


ぺこりと律義に頭を下げる星咲。

というかあれだけボロボロだったのに、昨日の今日で彼女の怪我が完治しているのに驚きだ。やはり魔法少女は理不尽な存在だ。



「えー、そういうわけだ。お前ら静かにしろ! 国民的アイドルの星咲だが、しばらくは仕事を休むらしくてだな。今日からこの学校に転校してきたそうだ! って話を聞け!」


担任がいくら沈めようとも、雄叫びと悲鳴、狂喜乱舞が収まるはずもない。しかし、いつまでも続くかのように思えたお祭り騒ぎだったが、これに終止符を打ったのは意外にも担任の言葉だ。



「えー、星咲ほしざきは! 切継きりつぐと同様、特待生扱いでな! 席は本人の指名制となっている!」


ちなみにもう一人のアイドル、切継きりつぐは窓際の一番後ろの席になっている。理由は不明。


余談だが席替えの度に、切継の隣の席争奪戦は苛烈を極めている。ただのくじ引きなのに、クラスの連中が込める願いやエネルギーの熱さといったら辟易するほどだ。週に一度も学校に来ない奴の隣とか、そんなにいいかねぇ……なんて傍観していた俺だけど、やはりと言うべきか。


クラスの連中の反応は劇的だった。

誰もがそわそわとし、自分の隣を指名されるのを切に願っている。


俺の隣の席にして腐れ縁である優一にいたっては、目を白眼にしながら神に祈りを捧げるようにブツブツと何事か呟いている。

異様な雰囲気を醸し出す旧友の豹変ぶりに、ドン引きしながらも俺は嫌な予感をぬぐいきれない。





「あ、席は鈴木くんの隣がいいです」



何言っちゃってんのお前。

わざわざ名指しとか、初対面じゃないって勘付く奴は勘付くだろ?

これに教室内の温度が絶対凍土へと変わってゆく。いや、これは刺すような視線が集中した俺だけが錯覚した空気だろう。



「おい、鈴木ぃ……ちょっとつら貸せや」


一昔前のヤンキーみたいに睨みを利かす優一。

正直、似合わないしダサい。

さらにその背後から、何人かのクラスメイト達が物騒な表情で詰め寄って来る。男子だけでなく女子までもが、口元だけの笑みを張り付けて迫る始末。


「ちょこーっと俺らに詳しい話を聞かせてくれや?」

「トップアイドルの星咲さんとはどういった知り合いなのかな?」



俺の平和な日常は――再び魔法少女アイドルによって砕かれたのであった。


魔法少女アイドルの鈴木くん~実は俺だけ男です~

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