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ジェラードが帰ったあと、私は錬金術師ギルドへ買い物に向かった。
王国軍からの依頼を確認したところ、やはり素材が足りなかったためだ。
いつもは気ままにアイテムを作っているけど、これはアイテムボックスの中に素材があるからできる芸当。
素材は買えるときに、しっかりたくさん買っておかないとね。
そんなわけでダグラスさんにも手伝ってもらいながら、色々と買い漁っていたんだけど――
「……全部、買うのか?」
その一言で、何となく私の買いっぷりも想像できるというものだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
お屋敷に戻ったあとは、一息ついてから工房へ。
せっかく工房があるのだから、少しでも使わないともったいないからね。
「さて。それじゃ、どんどん作っていきますか!」
はい、れんきーんっ。
バチッ
もいっちょ、れんきーんっ。
バチッ
かんてーっ。
──────────────────
【初級爆弾(S+級)】
物理属性、火属性
攻撃力:30、範囲:7
※追加効果:攻撃力×2.0
──────────────────
【中級爆弾(S+級)】
物理属性、火属性
攻撃力:50、範囲:10
※追加効果:攻撃力×2.0
──────────────────
……うん、問題なく出来てるね!
爆弾は久し振りに作ったけど、そういえば追加効果で攻撃力が倍になっちゃうんだっけ。
これよりもランクが上の爆弾を作ると、さすがにバランスブレイカーになっちゃうよね?
「……参考までに、高級爆弾も作ってみよ、っと」
れんきーんっ。
バチッ
かんてーっ。
──────────────────
【高級爆弾(S+級)】
物理属性、火属性
攻撃力:100、範囲:15
※追加効果:攻撃力×2.0
──────────────────
私の作った『中級爆弾』が、一般的な『高級爆弾』くらいの威力……に、なるのか。
……うん、ひとまず依頼を中級爆弾までにしておいて良かったかな。
「さて、それはそれとして。どんどん作っていこー」
1回思い切り伸びをしたあと、次々に爆弾を作っていく。
完成品はどんどんアイテムボックスに入れるから、身体はあまり動かさないんだけど――
……爆弾の重さがいちいち腕に掛かってくるのは、少ししんどいかもしれない。
いや、そこに文句を言うのは怠け過ぎか……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「アイナさーん♪」
「ふぇっ?」
爆弾を作り終わったあと、少しぼーっと座っているとエミリアさんが突然工房に入ってきた。
「お菓子を買ってきたんです! 一緒に食べましょう♪」
「あ、良いですね! っていうかお帰りなさい、今日は早かったですね」
「えへへ♪ 今日はとっても良いことがあったので! 片付けも途中で切り上げてきたんですよー」
「良いこと、ですか? えー、何だろう?」
「アイナさんにとっては、別に……って感じなんですけどね!」
そう言いながら、エミリアさんは缶に入ったクッキーを出してきた。
うん、とっても美味しそう!
「でも、エミリアさんが嬉しいことなら、私も嬉しいと思いますよ?」
私は私で、お茶を淹れ始める。
ここら辺の連携は、サマになっているよね。
「それでは頂きましょう!」
「はい、そうしましょう!」
サクッ
クッキーを口に運ぶと、軽やかな音と共に、品の良い甘さが口に広がる。
うーん、美味しい! しあわせって、さりげないところにあるものだね!
「それで、ですね!
今日、レオノーラ様から聞いたのですが――」
「ふむふむ?」
「何と! オティーリエ様が、しばらく旅に出たそうなんです!」
オティーリエ様……というのは、エミリアさんにとっての大聖堂での天敵。
王位継承順位が第22位の王族にして、何故かルークの追っかけをしていた女性。
……とはいっても私、彼女をまだ見たことが無いんだよね。
いや、王様と謁見したときに視界に入ったはずなんだけど、全然記憶に無いっていうか――
「それにしても、旅……ですか? 急に、何でまた?」
「レオノーラ様の話によれば、王族に伝わる試練を受けに行ったそうな?
それが何かまでは分からないんですけど、しばらくはオティーリエ様の影に怯えなくて済むんです! やったぁー!!」
その気持ち、よく分かる!
嫌な上司が、有給休暇を連続で取ったときの解放感たるや! ……みたいな感じだよね?
少し後ろ向きなしあわせではあるものの、しかし、それだって立派なしあわせだ。
このしあわせの意味が分からない人は……いや、むしろそっちの方がしあわせだから、分からない人は分からないままで良いとは思う。
「それは良かったですね! 心の重さが、ぐっと減りそう……!」
「はい! 数日前に大聖堂でお会いしたのですが、そのときも相変わらずの|圧《あつ》で……。
そこらの魔物よりも存在感が強いので、性質が悪いんですよね。……あっ、これは内緒ですよ!?」
「そんなこと、わざわざ言いませんよ! それじゃ、しばらくは平穏な日が続きますね。
……うーん、それにしても王族の試練、ですか」
「下々の者には分からないシキタリなんでしょうね、きっと。
ところでアイナさん、工房で何かやってたんですか? また、何か考え事です?」
「ああ、エミリアさんはいませんでしたもんね。
昼前に王国軍の……第二装備調達局? っていうところの人が訪ねてきまして、仕事をもらったんですよ。
それで、その依頼品を作っていたんです」
「ははぁ、王国軍ですか……。
第二装備調達局というと、消耗品を扱うところでしたっけ?」
「それはよく分かりませんけど、爆弾の依頼を頂きました」
「おっと、わたしの記憶は正しかったですね。
……ふーむ。それにしても、爆弾ですか」
「実はあまり乗り気じゃなかったので、弱めの爆弾しか受けなかったんです。
依頼に来た人は、少し不満そうでしたけど」
「なるほど、その爆弾を作っていたんですね。お疲れ様です!」
「ありがとうございます。納期は1週間後なので、余裕でした♪」
「……ということは、少しはお時間できますか?」
「え?」
「ここのところアイナさん、ぼーっとしてたから……あんまり、お話をしていなかったじゃないですか。
明日にでも、そこら辺に遊びに行きませんか?」
……確かにこの1週間、あまり何もできていなかったから……。
しっかり息抜きをするのも、きっと良いかもしれない。
「そうですね。それでは明日、遊びに行きましょう!
ルークがいないから、街の外には行けないですけど」
「はい、決まりですね!
わたしも最近は片付けばかりで……あ、そうだ。ついに、奥の部屋も4歩入れるようになったんですよ!」
「おお、1歩増えましたね……!」
……まぁ、それはそれとして。
明日は久し振りに、思いっきり息抜きをすることにしよう。
ぼーっとするのと息抜きするのとでは、また少し違うものだからね。