本日も晴天なり、本日も晴天なり。
……って、あれ?
こっちの世界にきてから、雨って降ったことあったっけ……?
「雨ですか? 今年は確かに少ないですけど、そもそもこの辺りはあまり降らないんですよ」
それが当然のように、何気なく答えるエミリアさん。
「クレントスから王都に来るまで、畑は結構ありましたけど……作物は大丈夫なんですか?」
「はい、この大陸は神様の加護を受けているので大丈夫なんです!
……まぁ、伝説上の話ではあるんですけど。
でも実際のところ、あまり雨が降らなくても作物はしっかり育つんですよね」
へー……?
そんなことも有り得るんだ……。何だか信じられないけど、魔法とかもある世界だしね……。
「そうなんですか。うーん、凄いですね」
「その関係で、この国ではルーンセラフィス教が手厚く保護されているんですよ。
……さて。それでは今日は、どこに行きますか?」
「ちょっと私、作ってもらってた服を受け取りに行きたいんですけど、大丈夫ですか?」
「あ、そういえば以前そんなことを言ってましたね。
えーっと、ふりふりの服でしたっけ?」
「いえ、それはしっかり断ったので。
いつもの服ですよ。『循環の迷宮』でダメにしちゃったやつの替えです」
「ふりふりの服も良いと思うんですけど……。
それではまず、その服屋さんに行ってみましょう♪」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
『服屋・白兎堂』
ここに来るのは2週間振りになるかな。
場所を少し忘れかけていたけど、何とか無事に着くことができた。
「へー、こんなところに服屋さんがあったんですね」
「ちょっと分かりにくい場所ですよね。中もあまり広くないんですけど、素敵なお店ですよ。
……扱っているものは、少し特殊ですけど」
「わたし、こういうお店が結構好きなんです。
隠れ家っていうか、自分だけのお店っていうか……」
それは何となく分かるかも。
自分だけのお店……うん、何とも心惹かれる響きだ。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ。あら? アイナさん、こんにちは。
それじゃ、バーバラを呼んできますね」
「はい、よろしくお願いします」
店番をしていたお婆さんはそう言うと、お店の奥に引っ込んでいった。
「バーバラさんって、どなたですか?」
「このお店は錬金術師ギルドのテレーゼさんから紹介してもらったんですけど、彼女の幼馴染が働いているんですよ。
その子がバーバラさんといって、私の服を作ってくれているんです」
「おー。ここはテレーゼさんの紹介だったんですか!」
「テレーゼさんも、ここの服を持っているみたいですよ。
えっと、ここら辺のハンガーラックに掛かってるような感じの――」
ひとまずそこら辺の1着を手に取って、エミリアさんに見せてみる。
適当には取ったものの、しっかりがっつり、ふりふりとしていた。
「おぉ……。わぁ、とっても可愛いですね!
わたし、欲しいです!!」
「えぇ……? こういうのって、どこで着るんですか……?」
「大聖堂では着れないので……、アイナさんのお屋敷で!」
ふりふりの服を着たエミリアさん。
そんな彼女がお屋敷で、何かをしているところを想像してみると――
「……うーん。まぁ、可愛くて良いかもしれませんね」
そんな結論に終わった。
いや、エミリアさんが着たら絶対に可愛いし! それはそれで見てみたいし!
「でも、こういう服ってお値段が張りますからね……。うーん……」
「ああ、それならミラエルツで出したボーナスがあるじゃないですか。
忘れてるかもしれませんけど」
「ボーナス……?
……ああ! アイナさんが『なんちゃって神器』の剣を買う口実にしたアレですね!」
「ぐふっ、そういう風に思ってたんですね……。まぁ、合ってますけど」
「あはは♪ ですよね!
それじゃ、そのお金で買っちゃおうかなぁ……」
そんなやり取りをしていると、バーバラさんがやってきた。
「アイナさん、いらっしゃいませ!
お隣の方は、お友達の方ですか?」
「あ、はい! アイナさんのお友達の方です!」
突然振られたエミリアさんは、どこかおかしな返事をしていた。
「こちらは、私とずっと一緒に旅をしてきたエミリアさんです」
「うふふ、初めまして。私はバーバラといいます。よろしくお願いしますね」
「はい、よろしくお願いします!」
「それではアイナさん。ご注文の服は出来上がっていますので、早速ご試着してみますか?
少し狭くて申し訳ないのですが、この奥に試着室がありますので」
「そうですね、それではお邪魔しまーす」
渡された服を試着室で着てみると、丁度良い具合に仕立てられていた。
全身を鏡で確認したあと、試着室から出てバーバラさんにその旨を伝える。
「直しは要りませんね、ぴったりです!」
「それは良かったです。
もう1着も同じ寸法で作りましたので、こちらもお試しください」
そう言いながら、バーバラさんからもう1着を受け取る。
この服は、デザインと監修がバーバラさん……ということで、完全にお任せで作った服だ。
改めて試着室に入って、もらった服を広げてみる。
……むむ? これは何だか見覚えるのある服っていうか――
いやいや、これは……。えぇー!?
……まぁ、一応は着てみるけど!!
「おぉー、アイナさん可愛いーっ!!」
「わぁ、お似合いですっ!」
試着室から出ると、とりあえずエミリアさんとバーバラさんから褒められた。
「あの……バーバラさん?
ふりふりの服にはしないように、言ってませんでしたっけ……?」
「はい、しっかりとフリルは抑えました!!」
えぇ……?
たしかにフリルのふりふりは少ないけど……えぇ、そういう意味だったの……?
改めて、お店にある全身鏡で自分の姿を映してみる。
明るい水色の服に、白いエプロン。
いわゆるエプロンドレスというやつなんだけど、このカラーリングとデザインって――
「……私の国に、『不思議の国のアリス』って物語がありましてね……」
まさに、そんな印象だ。
いかにもこれから、どこか不思議の国に旅立ちそうな装いに見えてしまう……。
……いや、既に元の世界からこっちの世界に転生しているから、ある意味ではここが不思議の国なんだけど。
「このデザインは、アイナさんを見て……何ていうかこう、インスピレーションを受けて作ったんです。
もしかしたら、その物語が関係しているのかもしれませんね!」
バーバラさんは満足げに、何となく納得いったような感じで言った。
いやいや……。
それにしても、やっぱりお金は払わなきゃいけない……よね。
……ま、まぁ、好きっちゃ好きなデザインだし……。私には可愛すぎるとは思うけど……。
「ちなみに、その物語ってどういうお話なんですか?」
「えーっと、アリスっていう女の子がウサギを追いかけて、不思議な世界に迷い込むっていうお話で……。
ちょっと詳しいことは忘れましたけど、そこの女王様に死刑宣告を受ける……んだったかな?」
「……何だか殺伐とした物語ですね。
でもウサギを追いかけるだなんて、このお店の名前にぴったりですよね♪」
確かに、このお店の名前は『服屋・白兎堂』。
何かの縁は感じることはできるけど――
「……それはそれとして。
サイズはぴったりだったので、もう着替えちゃいます!」
「はい、分かりました。
アイナさん、その服はいかがでしたか? 細かいところにもこだわっていて、かなりの自信作なんですよ♪」
バーバラさんが、キラキラした目で見てくる。
確かにシンプルに見えながら、各所に細やかな気配りが感じられる。これは良い仕事だ……!
「とっても素敵だと思いますが……、着る場所を選びますね」
「はい! 着る場所を選んで、ぜひお楽しみください!」
……私の返事は、前向きに捉えられてしまった。
その後、バーバラさんとのやり取りを終えたところでお婆さんが声を掛けてきた。
「アイナさん、バーバラの用事は済みましたか?」
「はい、今終わったところです」
「それでは、ぬいぐるみの方はどうしますか? ご自宅までお届けもできますよ」
「あ、ぬいぐるみもできているんですか?
アイテムボックスを持っているので、受け取っていきたいです!」
ぬいぐるみ――
……前回、勢い余って作成をお願いしたガルルンのぬいぐるみの話だ。
その大きさ、なんと2メートル!
「あら……あんな大きいものも入るだなんて、収納スキルがとても高レベルなのね。
さすがに大き過ぎてこのお店には入らないから、少し離れた倉庫に置いているんですよ」
ちらっとエミリアさんを見てみれば、バーバラさんと服の話をしているようだ。
エミリアさんはどうやら、ふりふりの服を作ることにしたらしい。
……それじゃ、その話を進めている間にぬいぐるみを取りにいくことにしようかな。
「分かりました、今からでも大丈夫です!」
バーバラさんとエミリアさんに声を掛けてから、私はお婆さんと一緒にお店の外に出た。
――間もなく、2メートルのガルルンと感動の対面!
このあと、すぐ!!
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