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さすが、新宮電機の跡取りの結婚式というか、前回とは時期が違っているのにグランドホテルの大ホールに決まった。
会社の幹部は皆こちらに参加するし、経理部はもちろんだが営業部や広報部には招待状を送ることにした。
とにかく時間が無さすぎて色々な事柄を同時進行ですすめていくしかないが、どんなに忙しくても前回よりも楽しく感じる。前回は自分の意見を言えず、弥生に操られた海が主導で進めていた。でも今回は私が決められることは決めさせてもらった。
海は私が何かを主張してもそれに対して否定はせず尊重してくれている、それは前回の海智もそうだったんだろうか?
私が変わったことで海も変わったんだろうか?
「新婦様は美しいですが可愛らしさもありますのでお似合いになるデザインの幅が広いです」
歯の浮くようなお世辞は前回も今回も同じだった、前回は可愛らしいデザインを勧められるまま決めてしまったが、今回はマーメイドラインの大人っぽいデザインにした。
同じ場所、同じ相手で違うドレスを着るとか、ある意味贅沢だけど、このドレスは私にとての戦闘服にもなる。
経理ソフトに伝票を次々と入力していく。
前回の今頃は仕事を辞めて、何も知らず弥生や海のために食事を作り、家を綺麗に保つために頑張っていた。
「山口さんいます?」
足音を高らかと立てて女がフロアに入ってくる。
その剣幕に周りの同僚も見て見ぬふりをしているが意識は完全に私に向かっていた。
「どういうことよ」
手元にある伝票を目玉クリップで留めると内容が見えないように裏返しながらゆっくりと声の主に向き合う。
「何がですか?」
「披露宴に欠席の知らせばかり届いて不思議に思っていたら」
石井由貴が興奮気味に話している途中に、引き出しからハガキを一枚取り出す。
そこには“ご出席”に二本線を引き“欠席”に○をつけた岸と石井由貴の招待状を石井由貴の目の前に突き出す。
「ごめんなさい、私も出席できそうもないの。石井さんとは面識もないのに招待状を“わざわざ”手渡ししてくださったのに」
石井由貴はハガキを引ったくるように取るとくしゃくしゃに丸めて足元のゴミ箱に投げ捨てた。
「わざとでしょ、嫌な女ね」
聞こえよがしに言っているが、所詮は私はこの会社の専務と結婚する。ここで石井さんを庇う人はいないだろう。前回の私は、ただただ岸に裏切られたことですぐに会社を辞めてしまったが、私だけが言いたい放題言われるのは割に合わない。
あの時、言いたかったことを全て吐き出してしまおう。
ここで私にどんな醜聞が広がろうと海に対して私は誠実である必要はないのだから。
それに、海だって私がこっぴどく岸に捨てられたことも知っているし。
反撃開始だ
「嫌な女だなんて、あなたに言われたくないんだけど」
上から目線で大人しい私を糾弾する気満々だった石井由貴は私の一言に息をのみ次の言葉を言い出せずにいる。
言われたい放題だった惨めな女はもういない。
「あなたの結婚相手だけど、婚約者がいるのに何も知らない新人を騙して手を出して、一年以上も騙した上に別れ話も自分で出来ず、いきなり見ず知らずの女が現れて結婚式に呼んであげるとかまくし立てて招待状を郵送もせずに“わざわざ”手渡しするとか、そっちの方がよっぽど常識知らずで嫌な女じゃないの」
周りがざわつき始める。
慌てた石井由貴は分が悪いと感じたのか
「でも、婚約者のいる男と付き合うとかっ」
「私の親を食事に誘ってくれたり、誕生日に二人でお祝いとかしたら騙されてしまうわ。まさか、自分の誕生日を婚約者と過ごさないなんて思わないでしょ」
真っ赤になり全身を震わせる石井由貴をさらに追い込む。
「私は騙されたの、これ以上言いがかりをつけるなら岸課長のことをもっと大ぴらに言ってもいいのよ。写真だって、今見ると胸糞の悪くなるようなLINEの甘い言葉の数々も公表してもいいけど?そこには、自分はフリーだから君のただ一人の男になりたいとかいう言葉も残ってるけど」
周りは水を打ったように誰も何も音を立てない。
「私は、あなたに傷つけられて岸課長に連絡をしようとしたのに電話もLINEもブロックされて、謝罪を受けてないの、あなたか騒がなければ私も大人だしクズ男を見分けるための授業料だと思って黙っていようと思ったのに、でもいい加減、石井さんが騒ぎ立ててうるさいからこれでおしまいにするために、岸課長に今ここにきて謝罪してくれたら全てを水に流すけど、もしそれができないならLINEの内容を上司に提出するわ。私の婚約者に言ってもいいけど、岸課長に遊ばれて捨てられたって」
私の婚約者はこの会社の専務だ。
私の言葉で石井由貴はガタガタと震え出す。
まさかここまで私が反撃するとは思っていなかったんだろう。
もうこれで十分だ、もう私に何かを言ってくることはないだろうし、結婚したら仕事を辞めるんだから。
もう結構です。と言って終わらせようと思っていたところに息を切らせて岸課長が入ってきた。
きっと誰かが連絡したんだろう。
はやく婚約者を連れて行ってほしい。
伝票からクリップを外して、入力を開始しようとした時ポロポロと涙をこぼす岸課長が私の前に立っていた。
「奈緒ちゃんこんなことになってごめん。本当はちゃんと話さないとダメだってわかってたんだ。でも、奈緒ちゃんといると癒されて、どうしても離れたくなかったんだ」
え?何を言っているの?
周りにいる人たちも、石井由貴も魂が抜けたような表情で固まっている。
ツッコミどころが多すぎて言葉も出ないでいると岸課長は必死に話を続ける。
「由貴に別れ話を切り出すにも婚約までしてしまっているから俺から言い出すわけにもいかず悩んでいたら由貴にバレて、だからその時ちゃんと別れ話をしたんだよ。本当だ」
今度は一斉に石井由貴に視線が集まる。
「でも、由貴が妊娠して別れることができなくなったんだ」
ここでそんなことを言うの?
そうか、岸課長は自分の保身に走ったんだ。
最低、こんな男を好きだったんだ。
私って男運無いな・・・
流石に石井由貴はこの場にいられなくなり走って出ていいた。
「あなたがあの時、ブロックなんかしないでちゃんと話をすることが出来たらこんな事にならなかったかもしれない。石井さんが妊娠しているのなら早くいって慰めないと、身体によくないと思いますよ」
慌てて石井由貴を追いかけていく岸課長の後ろ姿を見送りながら気持ちが沈んでいくのがわかる。
岸課長に騙されたことも、あんな風に傷つけられた石井由貴のことも仕返しをしたいと思っていた。だから、このくだらない結婚を承諾したのに全然スッキリしない。
むしろ自分自身に嫌悪した。
それでも、あの日の惨めな死を忘れるわけにはいかない。
また、あんな死が待っていていたとしてもあの女を道連れにしないければ私がこの世界に戻ってきた意味がなくなってしまう。
長月~kugatu~
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コメント
1件
第4話、読み終えたわ!奈緒が前回の自分とは違うって決意して、ドレス選びから仕事場での反撃まで、自分の意志で動いてるのがすごく気持ちよかった。石井由貴を論破するシーンは特に胸がスカッとしたんだけど、岸課長が突然現れて「離れたくなかった」って泣き出す展開には「は?」ってなったわ…。自分の保身しか考えてないクズっぷりが透けて見える。でも、仕返しできたはずなのに全然スッキリしないで自己嫌悪に陥る奈緒の心情がリアルで、ただの復讐成功話で終わらせない深さを感じた。死戻りの意味を問い直すラスト、続きが気になる!