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もうそろそろ、いい時ではないか。
そんなタイミングで、久しぶりに彼に連絡をした。メッセージを送るとすぐに返事がきた。
『かしこまりました。いつでも大丈夫です』
昔からクールな彼は、メッセージ上でも簡潔かつ無駄がない。続いて都合のいい日時をいくつか送られてきた。つくづく君には敵わないね。
指定された店に着くと、もうすでに彼は待ち構えていた。あの頃よりもずっと大人びた顔。背も高くなって、飄々とした顔がなんだか懐かしい。
「久しぶり、ドンス」
声をかけると、微かに顔を綻ばせて頭を下げた。嬉しそうに微笑むその顔は昔の面影と重なる。
「元気にしてた?」
「はい。ジヨンヒョンこそお元気そうで」
「まあね。連絡遅くなってごめん」
「本当ですよ、待ちくたびれました」
ズバッと言われ思わず苦笑いが零れた。大人しそうに見えて自分の意見ははっきりと述べる芯の強さは変わっていない。なんだか安心する。
気のきく彼は言わずとも喫煙の個室を選んでくれて、俺が座るとともに端に置いてあった灰皿をすっと差し出してきた。
「……あれ、俺が喫煙者だって知ってたっけ」
「はい、ジヨンヒョンのマネージャーさんから」
「ああ、そうか」
「………と、いうより」
「?」
「スンヒョンヒョンが吸ってるのに、ジヨンヒョンが吸ってないわけないと思ったので」
言われた言葉に、思わずライターの着火をミスった。まじまじとドンスの顔を見つめてしまう。
「……あはっ、やっぱりすごいね」
笑いが漏れる。たまらず手を伸ばして彼の頭をわしゃわしゃと撫でれば、照れくさそうに「やめてくださいよ」と言われた。
「……やっぱり君にお願いして正解だった」
火をつけて息を吸う。口から上がった仄暗い煙がゆっくりと上っていった。
「…まあ、情けないヒョンからのお願いですからね。聞かないわけにはいきませんでしたよ」
「…………言うようになったね…」
「これくらい言わせてください。もうほんと、今まで僕がどんな気持ちで…」
「あーあーもうわかってるよドンスヤ〜それ以上言わないで!ごめんてぇ…」
言葉のトゲが心にグサグサと刺さっていく。慌てて謝ると、彼は楽しそうに笑った。
「でも、約束は守ってくれたので。全部チャラです」
「……うん、ありがとうね」
とりあえずなにか食べよう、とメニューを開いた。これから話すことはたくさんある。夜は長い。
もう何杯目かになる空になったグラスを置く。ときどき昔話をしながら、たまに今のドンスの話を交えつつ、俺が計画していたものを伝えた。2人でデビューする夢は諦めていない。コラボのオファーというかたちで、2人で曲を出す。俺からと言ってしまうともしかしたらスンヒョンは迷ってしまう可能性があるから、直接会うまでは秘密で。会って話せば必ずYesを言わせる自信があったから、会うまでが勝負だと思った。
「はい、いいと思います。さっそく日程調整を」
「ありがとう」
「いいえ」
「あー…なんか緊張するな。まさかヒョン……拒否すること、ないよね、?」
なんだか急に不安になってきた。やると決めたからには絶対やり通す、けど。なんか不安。あんなにずっと一緒にいたのに、その何倍もの年数離れてしまったから。言いようのない不安がじわじわと項あたりに張り付く。
「……なに弱気なこと言ってるんですか」
「うぅ…」
「大丈夫です。そこは僕がうまくやりますから」
車で来たからと烏龍茶を飲みながら彼が言った。彼に大丈夫だと言われると、芽生え始めていた不安が消えていく。可愛い弟なのに、本当に頼り甲斐がある。つくづく敵わないなあ。
「そうだよね、ありがとう。俺が頑張らないと」
「その意気です」
「あ、あとさ…もう1つやりたいことがあって…」
「なんでしょう?」
「少しの間だけでいいから…ヒョンと一緒に住みたいんだよね」
「ぇ?」
「俺の家でもいいし、彼の家でもいいし、ヒョンの都合のいい方で……あのころみたいに、一緒にいたくて」
たった数年だったけど、同じ寮部屋で一緒に暮らしてたときのように。彼の匂い、温もり、音、呼吸。全てを隣で感じていたかった。
「……いいと思います。スンヒョンヒョンに提案しましょう。仕事の都合を考えても、場所的に家はどちらでもいいですし、いっそマンスリーマンションのようなものでもいいかもしれないですね。そちらの方も候補を探しておきます」
「ありがとう、助かる」
頼んでいたお酒が運ばれてくる。そろそろ酔いも回ってきて脳がふわふわしてきた。
「……あの、僕からも聞きたいことがあって」
「うん?なに?」
「G-DRAGONっていう名前は……もしかしてスンヒョンヒョンと考えたんですか?」
言われた言葉に驚いた。
「そう。厳密に言えばヒョンが考えてくれたの。ちなみにT.O.Pは俺が考えたんだよ」
「そうだったんですね。お互いの名前を」
「なんで?」
「いや、実は昔…」
ドンスが話し出したのは、俺がデビューをしてから少し経った頃。初めて出演した歌番組、たまたまそれをドンスとスンヒョンで見たとき。
「G-DRAGON…って、スンヒョンヒョンがぽつりと呟いたあと突然…泣き出して……慌ててトイレに向かうヒョンに、それ以上聞けなくて、そのままになってたんです」
「……そうだったんだ」
きっと君も、思ってたよね。俺がT.O.Pと名乗る君を見たときと同じく。どんな気持ちでそれを背負ってるのか。酷い言葉で傷つけて突き放してしまったと思ってる君が、君の名付けた名前で活動する俺を見たら、きっといろいろ思ったに違いない。
「きっとヒョンは、自分の言葉のせいで、俺がヒョンのことをもう嫌になってしまったって思ってるだろうから…俺がこの名前で活動してると知ったときは、すごい混乱しただろうね」
「…そうですね」
「もちろん痛みがなかったと言えば嘘になる、けど…どうしても彼がくれたこの名前が良かったから。大切にするって約束したし。ずっと想いながら名乗ってた。だからヒョンもT.O.Pって名前で活動してるって知ったときは、実はすっごい嬉しかった」
グッとグラスを煽る。溶けた氷がカランと音を立てた。
「……じゃあきっと、スンヒョンヒョンも嬉しいと思いますよ」
「…あは、そうだといいな。せっかくだし、次会うときはタプヒョンて呼ぼうかな」
「いいですね」
ドンスは嬉しそうに微笑んだ後、さっそくスケジュール帳を開いて都合のいい日程をいくつか上げた。一緒に住む家がどちらになってもいいように仕事も調整すると言われ、もしマンスリーマンションになったとき用に今夜中にいくつかピックアップして明日には送ってくれるそうだ。敏腕すぎて頭が上がらない。
「あー楽しみだなあ」
また彼の手料理が食べたいな。今でもお願いしたら作ってくれるかな。未だに読みかけの雑誌とか本をそのままにしてしまう癖、直さないと。あ、そういえば彼は朝にめっぽう弱かったな。
「朝起こすのだけはちょっと不安だけど…ヒョン、まだ寝起き悪いよね?」
「はい。毎回本当に大変です」
「だよね〜」
「昔はジヨンヒョン、これを毎日してたのかって思ってました。何回も電話して、それでも出ないときは家まで突撃して…起こす用に渡されていたスペアキーで。何度も近くで名前呼んで身体揺すって…もう本当頭抱えてました」
「……」
自分から聞いておいて、愚痴が溢れ出す彼の言葉にだんだんともやもやしたものが心を巣食った。だってなんだか……妬けてしまう。とんでもない理不尽な感情なことはわかってる。でも、でもさ…俺がいない間ずっとそれを彼がやってたのかと思うと…俺じゃない人がそれを…。
(……え、まさか)
キスしてないよね?
(…………いやいやいや、)
ありえないだろ。いや俺たちだってありえないんだけどさ。だって別に恋人同士だったわけじゃないし…好きだったけど、今も好きだけど。ドンスがするわけない…てか普通しない。たまたまあのときはそういう流れになっただけで、俺たちだってあのときだけだったし。今思えば彼もちょっと乗り気だったよな…あのときすっごいドキドキしたなぁ…ってあれ、なんの話だったっけ。
「……ジヨンヒョン?」
「ぅえ、?」
わけのわからない思考がぐるぐると脳内を渦巻く中、突然呼ばれて変な声が出てしまった。
「な、なに?」
「いや、どういう表情だろうって思って…突然黙るし…」
「ぅっ」
そんな顔に出てただろうか。訝しげに彼がこちらを見つめる。
「うー……だってさぁ」
「……だって?」
だめだ、アルコールのせいで脳がぐらぐらだ。ふわふわして全然思考が纏まらない。それでいて溢れ出す感情が止まらない。
「その…ドンスの話聞いてたら……少し…や、妬けちゃって」
「……はい?」
「わ、わかってる!わかってるよ?とんでもないこと言ってるって、こんなこと思うのなんて君に失礼だって…俺が頼んで、ドンスは忠実にそれを守って、ヒョンの傍に居て支えてくれてたわけだし…」
「……」
「で、でも…でもさ、ずっと俺がやってきたこと、今はドンスが隣でやってるんだなぁって改めて思って、そしたら………………ちょっと、嫉妬してましたごめんなさい」
諦めたように早口で締めくくりながら頭を下げる。なんだか顔が熱いのは、酒のせいにしていいかな。今更だけど俺なに言ってんだろ。あー恥ずかしい…っ!
「……ぷっ、あはは!」
彼の声を上げて笑う。ドンスのこんな屈託のない笑顔、初めて見たかもしれない。
「なんですかそれ、面白すぎます」
「ちょっと笑いすぎ…」
「だってあのG-DRAGONが嫉妬って…ふふっ」
「あーあーもううるさいな!いいでしょ別に!」
「大丈夫ですよ、ヒョンが考えるようなことはなにもありません。ヒョンたちみたいに抱きしめ合ったり、ましてやキスなんてしてませんから」
「え!なんで知ってんの!?」
「…え?」
「………え?」
あれ?なんかまずいこと言った?語るに落ちるってやつ?使い方合ってんのかな。
「え、ごめんなさい。適当に言ったんですけど…え、まじですか」
「ち、ちがう!」
「ちょっと詳しく、」
「〜〜っ、お会計!」
「まだ!もう一杯頼みますよ!すみませーん!」
「ああああ…っ」
………今夜はまだまだ長くなるらしい。
コメント
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みぅです🤍 久しぶりの再会、すごく切なくて温かかったです。昔話を交えながら、お互いの成長を感じさせる会話がいいなと思いました。特に「G-DRAGON」の名前の由来を聞いたシーン、スンヒョンヒョンが泣いたって話…胸がぎゅっとなりました。名前を背負うって、そういうことなんだなって。 最後の嫉妬シーン、思わず笑っちゃいました😂 照れて慌てるジヨンヒョンと、それをからかうドンスの関係性がすごく好き。今夜はまだまだ長そうですね…続きが気になります!