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ダインの追懐 「教授」
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学び。
俺という存在を形作る上で最も大切な要素。
俺という存在を認めさせるための最善の行為。
生まれ育った国や性別によっては学べない人間もいる。
面倒くさがり成果を出さず、学ばない人間もいる。
俺は恵まれていた。国籍に関係なく学習だって出来たし、自身の能力を伸ばすのだって好きだった。
その喜びも、絶望も、全てはあの人に教わった。教わったのに…
俺は…あの人にとってどんな生徒だっただろうか。
ー数年前
(…?手紙? あぁ、父さん達からか。)
両親の勧めで留学してまだ半年も経っていないのに。ほんと過保護だな。
『ダインへ。新生活はどうだ?飯はちゃんと食えてるか?俺たちは元気にやってるぞ。そうだこの前部屋を掃除してたらーー』
そんな俺を心配する文面から始まり、聞いても無い両親の日常が綴られている。
あ、と声が出ながら時計をみると午前二時を回っていた。
教授の側で直々に教わるようになってからは次の日に跨いで寝ることが多くなっていたが、ここまで遅いのは久しぶりだ。
急いで明日の準備をし、両親への返書を考えながら眠りについた。
「教授、おはようございま…あれ?」
「おおダインおはよう。教授殿なら午後から来るってよ。ほら、あのミドリムシの研究。」
教授はこういう人だ。突然予定を変更して、俺ら生徒をいじめる。だけど憎めないほどの思考力と義をもつ人だった。
「…分かった。ありがとう○○。」
今ではアイツの名前も思い出せない。いや、覚える気なんてあの時の俺には無かったのかもな。
(さてと。今日提出の課題も確認し切ったが…。やることがないな。)
いつもはアレやコレやと教授が命令してくるからやることが山積みなのに。午前中いないだけでここまで片付くとはな。
ふと、教授の本棚を見る。
数百…いや数千冊はある教授の本は、生物、歴史、地学、医療、天文、化学、神話、物理、哲学と種類もバラバラでパッと見ただけじゃ何を研究してるのか分からない。
今回もミドリムシなんかに希望を見出して、知識の無駄遣いだと感じる。
「気になるか、ダイン。」
「…っ⁉︎」
渋い声が耳を過ぎる。
ぼーっとしすぎて隣に教授が来ていたことに気づかなかった。
「おはよう。…いや、もうこんにちはかな?」
「…お疲れ様です、教授。」
コツコツと革靴を鳴らしながら机まで歩いていく。この人の足跡を聞くと、言葉では言い表せない緊張が走る。
きっと、この威圧感のせいだろうな。
教授はいつも部屋に着くと昼間からラム酒を飲む。見た目と圧に反して甘党だと前に別の先生から聞いたことがある。
だけど、アルコール度数も高いし、そもそも
昼間っから飲むなよな。生徒の前で。
「ダインも飲むか、?」
「未成年なので遠慮しときます。」
そして未成年に酒を勧める。他の国だと犯罪だぞと言いたくなる。
こんな気まぐれな人の世話をしながら、俺は勉強に励んでいた。
「教授。今日までの課題ですが、問題点があれば今直しま…」
「ダイン。お前はいつも私を教授と呼ぶよな。」
「え?あ、はい。」
意識もしてないことを聞かれて情けない声が出た。あの日は不思議な質問をされたので濃く覚えている。
「はは、すまんな。やっぱり慣れないなと思ってな。」
(慣れ…?)
と口にする前に俺の表情を読み取ったのか続ける。
「私の一番弟子、ほら覚えているか?両親に捨てられて私が育てた子供って話をした彼。」
「はい。確か俺と…九つ離れてるって」
「そうそう。あの子は私を先生と呼ぶからね。教授って呼ばれると位が高くなったみたいで面白いなってな。」
といつものお茶目さを出す。この人の話を真剣に聞くんじゃ無かった。
「けど、他の先生や教え子からも教授って呼ばれますよね。」
「それはそうだが、弟子に呼ばれるのとは違うだろ。」
その発言に俺は動きを止める。
「…俺は生徒ですよ?他のと同じ。弟子なんかじゃありませんよ。」
「いいや。ダイン、お前は私の二人目の弟子だよ。」
いつもの悪ふざけか?と思ったが急に変わった声のトーンでその疑惑を吹き飛ばされた。
だけど、なぜ俺なんだ…?
「何か、質問でもあるか」
そんな俺の疑問を察するように教授は問う
「…なんで、俺なんですか…。」
出た声は自分でも分かるほど震えていた。何を言われるか怖かったんだろう。
「似ているんだよ。昔の私に。」
予想もしていない言葉が返ってくる。
「お前はいつも、学びこそ正しい。みたいな姿勢で私に接してくる。常に真顔だし、私みたいに羽目を外すことも少ないだろう?」
教授は「そこだ」と言う代わりに人差し指を立てた。
「私もあの子を育てるまでずっとそんなだった。けどね、あの子が先生と笑顔で呼んでくれるのをみると、守りたいって強く願うようになったんだ。」
教授は俺の頬にそっと触れる。その手はいつもラム酒を飲むあの豪快な手とは違った。
「ダイン。お前は人から理解されない生活を今まで送ってきたとご両親から聞いたよ。それゆえに自分自身を正してきたのかもしれない。」
その手は次に俺の頭を撫でる。
「どうか、ここでは自分の好きなことを貫きなさい。私はそれも踏まえてお前をダイン・ソウルとして認めよう。」
その言葉に涙が溢れる。そして最後に一言質問する。
「…教授。あなたにとって俺は…どんな弟子ですか…。」
ふわっと包み込んでくれるような笑みを口角にあらわにして教えてくれた。
「私が今ミドリムシを研究しているのを知っているだろ?奴らは小さいが、様々な可能性を秘めている。」
「お前もだ、ダイン。見向きもされなかった小さい灯火はいつか絶対輝く。」
「…」
「ダインは私の誇りで、自慢の弟子だ。」
「…っ。」
「今までよく、頑張ったな。」
「っ、…っ。」
「改めてようこそ、私の教え子へ。」
「ありがとう…っございますっ…。」
「…でも、ダインはそれを、強みにした。」
「それって認めたくないけど…すごいことなんじゃない?…私には出来ないから」
アイツの言葉が刺さったのは偶然じゃない。
もうすでに教授に認められていたんだ。
それを、再確認したんだ。
教授。俺は重罪を犯した。
こんな俺でも先生は……。
いや、高望みだよな、。
「教授。待ってて下さい。」
俺もケジメをつけたらそっちに行きます。
はは、失望しますよね
「こんなのが弟子で。」