──やがて数日が過ぎ、電話で伝えた待ち合わせの日がやって来た。
当日になってもまだこれでよかったのかどうかの判断がつけられないまま、だからと言って土壇場ですっぽかすわけにもいかず、浮かない気持ちを抱えつつ指定された駅まで向かった。
駅前の待ち合わせ場所に突っ立って、何で来ちゃったんだろう……ともやもやと思い悩んでいると、あの男が来たのが遠目にもわかった。
大勢の人混みの中を、真っ直ぐにこちらへ向かってくる、長身の目立つ男──
夕闇の中でも相変わらずサングラスをかけていたけれど、ブルーグレイのスーツをスマートに着こなしたその姿は、周囲の人々の眼差しを一身に集めていた。
「……お待たせ」
迷うことなく私の前に歩いてくると、彼は初めて会った時のようにニッと軽く笑って見せた。
「久しぶり……」
出会いが出会いだったこともあり、少なからず気まずい思いで、ぼそりと一言だけを返した。
「ああ、久しぶりだな! でも、本当に来てくれるなんてな。けどお客から連絡があったって聞いた時に、絶対におまえのことなんだろうなって思ったんだよ」
「……あのさ、”おまえ”じゃないんだけど……」
口を開くと軽薄さが滲み出してくるみたいで、喋らなければカッコ良くも見えるのになと感じる。
「ああ、ワリぃ。それじゃ、名前なんていうんだよ?」
「……言わなきゃダメなの?」
まだ目の前の男への警戒心が拭えたわけでもなくて、名前を告げるのをためらう。
「名前教えてくれないと、なんて呼んでいいのかわからないだろ。それとも、おまえでいいんなら、そう呼ぶけど?」
ふふん…と軽く笑う顔に、言い負かされたような気がして、ちょっと悔しくなる。
あまり気を許してもいない男の人に、本当は名前を教えたくなんてなかったけれど、それ以上に”おまえ”と呼ばれたくもなかった。
「……理沙……理科の理に、さんずいに少ないの沙」
仕方なくそう答えると、
「理沙か、いい名前じゃん。俺は、知っての通り、銀河だから。改めてよろしくな」
銀河が言って軽く頭を下げると、スッと右手を差し出してきた。
「……よろしく……」
いい加減そうな雰囲気とはそぐわない、どこか人当たりが良さげにも感じられる振る舞いに、少しだけ戸惑いながら握手を交わすと、その手には不思議とあたたかな温もりが感じられるようだった。