「なぁ、駅から店までってけっこう距離があるんだけど、タクシーで行くのと、俺とデートがてら歩くのと……」
「タクシー」
最後まで言い終わらないうちに、即答をする。
「なんだ、残念だな。店まで歩きながらゆっくりとデートでもして、愛を育もうかと思ってたのに」
口先で甘いセリフを吐いて、片手で髪を軽くサイドへ流す銀河に、
「本当に、残念よね……」
そうやっていつも女の子を口説いているんだろうなと、ちょっと皮肉混じりに言い返した私に、
「この俺が、振られるなんてな」
銀河は苦笑いを浮かべて見せた。
──タクシーを拾い運転手に行き先を告げると、銀河はリラックスした風で後部座席に深々ともたれかかった。
「……ねぇ、お店ってどこにあるの?」
運転手に伝えた行き先がよく聞き取れなかったこともあり、そう尋ねてみると、
距離を空けてシートに座る私の方へ顔を向けて、「ないしょ」と、いたずらっぽく唇に指をあてた。
「……ないしょとか、そういうの好きじゃないんだけど……」
ついイラッとして口にする。
「まぁ、そんなに遠くはないけどな。それより、おまえもっと笑ってた方がいいぜ? 今も眉間にしわ寄ってたし」
そう指摘されて、思わず指先でおでこをこすった。
「……。……そういうのってあんまり言われたくないし……。それに、おまえじゃないって言ったでしょ……」
自分でもあまり良くない態度を取ったことはわかっているのに、いざ言われると素直に受け入れられなくて意地を張った。
「悪いな、これからは、理沙って呼ぶから」
なのに銀河は、私の不機嫌さを咎めたりはせずに、あっさりと謝ってきて、自分でも大人気なくつっかかったことが申し訳なくも感じられて、「ごめんなさい、私の方こそ」と、口ごもると、
銀河が気にするなとばかりに、ふっと口元に笑みを浮かべた。
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