テラーノベル
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6月だからか、最近、雨が多い。
気分も少し滅入る。
だけど、シャルムは相変わらず忙しかった。
悠人も、輝くんも、お客様と笑顔で接して、頑張ってる姿を見ると私も元気になれた。
昼下がりの時間帯、1人の男性がシャルムを訪れた。
自動ドアが開いて、その男性が入ってきた瞬間、女性のお客様達の視線が一気に集まった。
その清潔感ある爽やかな好青年に――
「恭吾さん!」
少し驚いたように名前を呼んだ後、私は数秒立ちすくんでしまった。
その態度に、近くにいた輝くんが反応して私に尋ねた。
「どうかしましたか? 穂乃果さん」
「え……ううん、大丈夫。知り合いなの」
「そうですか……」
輝くんは、少し怪訝そうな顔で目の前のその人を見てる。
「すみません、穂乃果ちゃん、突然来てしまって……。予約はしてないから無理だよね?」
「ごめんなさい。今日は予約でいっぱいなんです」
私は、軽く頭を下げた。
「こんな人気店だから当たり前だよ。僕が悪いんだ。また来るよ……。あの、今日、夜は空いてないかな? 終わってから少し話したいんだ」
「輝、綾野様、シャンプー頼む。穂乃果、お客様?」
突然、私達の間に入ってきた悠人が言った。
輝くんは急いでシャンプー台に向かった。
悠人……施術中なのに私達のやり取りを見てわざわざ来てくれたの?
「あの、こちらは……氷野 恭吾(ひの きょうご)さんです。両親の和菓子屋がお世話になっている……」
その言葉で全てを察してくれた悠人。
「初めまして。ここのオーナーの月城です。穂乃果がいつもお世話になっています」
「穂乃果……?」
私を呼び捨てにしたことに違和感を覚えたみたいだった。
「はい。私は、穂乃果の婚約者です。穂乃果から氷野さんのことは聞いています」
「婚約者……?」
かなり驚いた様子の恭吾さん。
「すみません、また改めてお話しします。ごめんなさい」
「ああ、わかったよ。穂乃果ちゃん、今夜、大丈夫?」
私はうなづいた。
「氷野さん、穂乃果と話すなら私も同席させて下さい。いいね? 穂乃果」
悠人さんの提案で、私達は夜に改めて3人で話すことになった。
まさか、お見合いを勧められてる恭吾さんがシャルムに来るなんて……
きっと、ここを両親に聞いたんだろう。
最近、メールでお見合いしなさいって、何度か連絡が来てたけど、忙しいからとやり過ごしていた。
恭吾さんにはちゃんと話してわかってもらわないと……
いつまでもこのままじゃ、恭吾さんに申し訳ない。
それに……
私は、そのために悠人と一緒に住み始めたんだから。
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