夜になって、私達は悠人の知り合いが経営するイタリア料理店に集まった。若い店長さんが個室を用意してくれ、パスタやピザを出してくれた。ここのピザは、本格的な窯で焼いてあってとても美味しそうだ。
私達はお互いにごく簡単な自己紹介をして、まず食事をした。
悠人が恭吾さんと仕事の話をしたりして、大人の落ち着いた会話で場を和ませてくれた。28歳の恭吾さんを、3つ年上の悠人がリードしてるようにみえた。
そのおかげで、私の緊張も少しずつ溶けていった。
1時間くらい経った頃、「氷野さんの髪、私にカットさせてもらえませんか?」、突然、悠人が言った。
「え? 月城さんみたいなカリスマ美容師さんにカットしてもらうなんて……申し訳ないです」
あまりのことに驚いた顔をする恭吾さん。
「今日、せっかく来ていただいたのに、カットできなかったので。明日……ご都合が良ければ閉店後に来て下さい」
「お気遣いありがとうございます。本当にいいんですか?」
恭吾さんは、悠人の誘いにとても恐縮してるようだった。
「もちろんです。2人でゆっくり話したいこともありますし」
悠人が優しく笑った。
「……そうですね、わかりました。ありがとうございます。よろしくお願いします」
あっという間に、悠人と恭吾さんが2人で話すことになって、しかも、カットまで……
男同士のやり取りに私の入る隙は無かったけど、でも……それで良かったと思った。悠人なら、ちゃんとしてくれるって、すごく安心だったから。何も心配せず、明日は悠人に全て任せよう。
「今日は、氷野さんとお話しできて良かったです」
「僕もです」
「では、私は先に失礼するので、後は2人で話して下さい。穂乃果の気持ち、聞いてあげて下さい。明日、お待ちしてます」
悠人はそう言ってスっと立ち上がった。
「悠人さん、先に帰るの?」
「ああ、2人でゆっくり話すといいよ。氷野さんはそうしたいはずだから」
「あ……うん」
私は、悠人の行動に少し驚いた。
でも確かに、私も恭吾さんとちゃんと話した方がいいのかも知れないと思った。
悠人は、丁寧に氷野さんに挨拶をして、先に店を出た。
「本当にびっくりしたけど、月城さんは素晴らしい人だね。僕なんて足元にも及ばない」
恭吾さん……
「足元にも及ばないなんて、そんなことないです。恭吾さんは本当に素敵です。背が高くて、眼鏡が良く似合うイケメンさんで、優しくて穏やかで……。でも、どうしてこんな素敵な人が、私なんかとお見合いしたいって思ってくれてるんだろうって……ずっと不思議で」
疑問に思っていたことが、スルスルと自分の口からこぼれた。
「嬉しいな。眼鏡が良く似合うイケメンさんなんて。言われたことないから」
ニコッと笑う顔が、ふんわりとその場を温かくする。
「そんな……きっと、恭吾さんのことを想ってる人はたくさんいると思います。なのに、私なんかに……」
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