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血の繋がり、家の繋がり、権力、他家への誇示牽制など婚姻理由は様々なもの。貴族家に生まれ育った者はその意をくんで未来の伴侶と添い遂げるのは当たり前のこと、想い想われるのは極少数、それでも相手への配慮や思いやりをもって接し、家のために後継を残し領地繁栄のため協力して盛り立てる。
なんてことは子供の頃から教えられることだ。それでも家格の合わない令嬢令息が恋に落ち、お互いの親を説得し婚姻をする、という数少ない例もあるにはあるけれど、あらゆるところに禍根を残す結果になる。満足しているのはその時の本人たちのみ。
家のためにはより良い未来を描ける婚姻をと幼い頃から婚約という形で将来を約束する家も多い中、婚約者がいるにも関わらず愛する人と添い遂げたいと願う若者がいることも事実ある。
最近の話ではこのシャルマイノス王国第二王子アンダル・フォン・シャルマイノスが学園で出会った下位貴族リリアン・スノー男爵令嬢と恋に落ち、自身の婚約者をないがしろにして廃嫡覚悟の上で既成事実を作り婚約解消をもぎとって想い人と婚姻をした、という実例があるのだ。
このシャルマイノス王国では元々ある貴族家を減らすことはあっても新たな貴族家を増やすことはない。よって王子でも廃嫡となれば平民落ち、それかどこかの貴族家に婿入りという形になる。アンダル・フォン・シャルマイノス第二王子はリリアン・スノー男爵令嬢のスノー男爵家へと婿入りすることになった。王族が男爵家への婿入りは前代未聞、平民には美談となり貴族たちには醜聞として話が流れる。元王子が婿入りするのだから男爵家にはそれなりの待遇や仕度金などがもたらされる、というわけでもなかった。アンダル・フォン・シャルマイノス第二王子には婚約者がいたのだ。それはもちろん高位貴族の令嬢であり、その家へ婿入り予定であった。それを反古にされた相手の貴族は抗議する。しかしもうどうしようもない既成事実を作ったことでこの婚約は解消、そして王家からは多額の賠償金が支払われることになった。
この元第二王子の物語は決して幸せには終わらないだろう。王族として傅かれ過ごしてきたのに行き着く先は男爵、領地も小さく財産も少ない。スノー男爵家としては優秀な子爵家の次男三男辺りを婿にもらい領地を盛り立てて欲しかったがきたのは元王子、苦労するのは当たり前なのだ。この物語はそんな元王子の物語ではなく、その友人カイラン・ゾルダーク公爵令息へ嫁ぐ少女キャスリン・ディーター侯爵令嬢の話だ。
「私には心に決めた人がいる。彼女への想いは決して消えはしない。彼女と添い遂げられないが、だからといって君を抱くなんてことはできない。子供は時間が経ったら養子を親族から連れてくる。それまでは公爵家の嫁として社交や内政をやってくれ」
そう言って彼は夫婦の部屋から出ていった。
今日婚姻をした相手カイラン・ゾルダークから初夜の場で言われた言葉だ。数年前からの婚約者として共に過ごし、愛情まではいかずともそれなりにわかり合っているつもりでいた相手。私の学園の卒業を待ち婚姻を結んだ。
なんて言われようだろうか、彼の頭を疑いたくなる。彼はまだ19歳だ、なのにこれから誰をも抱かず生きていこうと言うのか…そこは娼館などでお世話になる…いやそれでは彼女への想いなんとかは納得できない、ということはこれから清い身のまま生きていきますという宣言ということで理解してもいいのか。そして私は彼の親族の子を我が子とし育てよと。私はなんなのかしらって思ってしまっても仕方がないわよね。これからどうするか…