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桃彩学園SNS部

第1話

「4月 ~入部」

 

XやFacebook、TikTok等のSNSが頻繁に台頭する世の中、SNSによる生徒の自主性・自治を重視する改革派と旧態依然の体制を重視する保守派が交差・対立する桃彩学園高校。その桃彩学園はこの4月、新たに入学してきた生徒たちを迎える入学式を開催した。

校長「あ―…新入生の皆さん、まずは入学おめでとう。そして、我が校に入学してくれてありがとう…」

社「ふぁ~…」

校長のスピーチを欠伸を垂らして聞き流した新入生の男子生徒・緑原社は朝早くからせがまれて大層眠そうにしていた。校長のありきたりで退屈なスピーチを聞いて余計に眠気が増してきて、ついにはそのまま寝そうになった。が、その直前にスピーチが終わったため、その時の拍手で目が覚めた。

 

そして、教室に戻った社はホームルームを終えると、下校の帰路につく。

達矢「じゃっぴ!」

じゃっぴ「おーたっつん。」

下駄箱で社=じゃっぴに話しかけてきたのは黄色の髪と眼帯をした男子生徒・黄川田達矢。社の親友で、相性は「たっつん」。

たっつん「ん?すげー眠そうやな。」

じゃっぴ「そりゃあ、朝イチで叩き起こされたからな。加えて、校長(あのハゲ)のスピーチなんか聞いてたら眠気倍増だろ。」

たっつん「まーな。」

彼らはお互いをニックネームで呼び合う。社の愛称が「じゃっぴ」なのは彼のファーストネームの「社」を音読みで「じゃ」と読むことから。達矢の「たっつん」はそのまま彼のファーストネームから来ている。そんな彼らに横から1人の女子生徒が話しかけてきた。

乃愛「2人とも!」

じゃっぴ「乃愛!」 たっつん「のあちゃん!」

ピンクの髪にクッキー型の髪留めをした女子生徒・桃崎乃愛は2人に近寄ってきた。

のあ「これから帰るけど、どっか寄ってく?」

じゃっぴ「いや、どこで遊ぶかはもう決めてる。乃愛は?」

のあ「私ももう友達と遊びに行く約束あるけど、暇なら誘ってあげても良いよ。」

じゃっぴ「いや、止しとく。んじゃなー。」

のあ「あ、待って。じゃっぴ。」

ダッシュで帰って遊びに行こうとした社を乃愛は呼び止める。

じゃっぴ「んだよ?これから忙しいんだよ。」

たっつん「忙しいって、遊びに行くだけやろ。」

じゃっぴ「それで忙しいんだよ!で、何?」

のあ「入学早々、突飛なことしないでよ?」

じゃっぴ「は?何だよ突飛て?」

のあ「例えば、授業中に大音量で放送流したりとか、鉄パイプ伝って校舎の壁際を伝い歩きするとか。」

たっつん「ああ、あれは近年稀に見る放送事故やったな。」

じゃっぴ「そんなのしたっけか?」

のあ「…自覚ないの?」

たっつん「重症やな。」

乃愛は社の幼馴染であるが故に、彼のことをよく知っている。社は幼少時から悪戯が大好きで、近所で評判の悪戯小僧だった。そして、それは今でも同じだった。

のあ「とにかく、悪戯はやめて。幼馴染の私まで恥ずかしいんだから。」

乃愛は社のためを思って心配している。だが、社の返事はその気持ちを全く考えていないものだった。

じゃっぴ「バカ言え。人生を面白くすんのは悪戯とかのブッ飛んだことなんだ。大人しく誰かが書いたテンプレ通りにしてたら大損だろ。…て、んあ、もうこんな時間か!そんじゃな!待っててくれよー!俺の楽しい時間―!!」

社は全速力でダッシュしていく。その足はまるで韋駄天のように速かった。小さい頃よりピンポンダッシュ等の悪戯を働いてきた彼はダッシュ力も半端なく速く、中学時代は陸上部員でさえ彼に徒競走で勝てたことは一度もなかった。

のあ「…はあ…」

乃愛は頭を痛めた。結局、今日も社を説得することはできなかった。

たっつん「のあちゃん、大丈夫か?」

のあ「…うん、まあ…それより、社を止めてよ。」

乃愛は達矢に社を止めるよう頼む。だが、達矢も社寄りだ。

たっつん「…すまん。のあちゃんの気持ちも最もやけど、俺も今日はアイツと遊ぶ約束しとるんや。だから今日はこの辺でな!」

達矢は全速力でダッシュして社の後を追った。乃愛は思った。アイツに頼むんじゃなかった、と。

 

のあ(…頭痛い…)

入学から1カ月近く、4月ももうすぐ終わろうとしていた。乃愛は教室の自席で頭を悩ませていた。彼女の心労は増すばかりだった。

原因はもちろん社だ。入学して1カ月中、社は学校に慣れたことで学校中を好き放題荒らし回った。以前、乃愛が言っていたように鉄パイプを伝って学校の壁を伝い歩きしたり、放送室に無断で入ってアニソン等の放送事故を流したり、廊下にバナナの皮や油をばら撒いて誰かが滑って転ぶところをスマホに収めたり、仲良くなった男子生徒たちと一緒に学校の一室を占領して屯したり、挙句の果てには女子生徒のお尻をさり気なく触ったり、他の男子生徒と共謀して女子生徒のスカートの中身をスマホに収めたり、とまるでとどまるところを知らなかった。そして、その行いは日を追う毎にエスカレートしていく。

教師「こらー!またお前らかー!」

教師のこういう怒声を聞く度に乃愛は心がズキズキしてきた。そんな彼女の隣に、窓ガラスを軽く叩く音が聞こえてきた。

じゃっぴ「よっ!」

のあ「!?」

窓ガラスの向こうには社がいた。今日もまた教室を抜け出して乃愛を訪ねてきた。授業中にもかかわらず、だ。

のあ「授業中でしょ!」

じゃっぴ「気にすんな!」

授業中だと注意する乃愛に対し、社は歯牙にもかけずにヘラヘラしている。そこに教師がやってきた。

教師「こら!何をやっとるか!」

じゃっぴ「やべっ!」

教師が来ると社はほいそれと逃げて行った。

のあ(もう嫌…)

社はやりたい放題だった。乃愛はそんな社を見る度に増々心労が出てきて、ついには眩暈で倒れそうになった。

 

のあ「…はあ…」

保健室から出てきた乃愛はため息をついた。胃薬を飲んだことで少し落ち着いたが、どうすればアイツは悪戯を止めるだろう、そればかり考えていた。そんな彼女が廊下を歩いていたとき、目に映ったのが生徒会室だった。

のあ「…そうだ!ここなら!」

乃愛は勇気を出して、初めて入る部屋に入った。だが、生徒会室にはおよそ生徒会とは思えないような生徒たちがいた。

のあ「…?」

?「ん?」

?「誰?」

?「何か用かな?お嬢さん。」

乃愛は一瞬、たじろいでしまった。生徒会室にいた生徒たちは制服を着崩した風貌をした、いわば不良(ヤンキー)のような感じだった。そのうちの1人である青髪の男子生徒・青峰直切が飲んでいたカフェオレを置いて乃愛に話しかけてきた。

なおきり「どうした?彼女。」

のあ「あの…ここって生徒会室じゃないんですか?」

なおきり「そうだけど?」

のあ「…ちょっとお願いしたいことがあるんです。」

乃愛はもう何でもいいやと言った感じで見ず知らず、生徒会なのかどうかも分からない人たちに頼み事をすることにした。

のあ「1年A組の緑原社っていう生徒を知ってますか?」

えと「知ってるよ。」

ヒロ「ていうか、1年で知らないヤツいないんじゃないかな。」

いちごオ・レを飲んでいたオレンジ髪の女子生徒・橙野枝美と隣の謎の雰囲気(オーラ)を放つグレー髪の男子生徒・灰沢博文も興味をそそられ、乃愛の話を聞いてみることにした。

実際、社は既に有名人だった。学校内であれほど騒動を起こしている生徒はおらず、その存在を知られる理由には事欠かない。まさに話題沸騰だった。

えと「で、何?」

ヒロ「お願いって?」

のあ「実は…」

 

~かくかくしかじか~

 

なおきり「ふーん、なるほどねえ…」

えと「それで、アタシらに頼んでみたってワケか。」

のあ「はい…」

乃愛の話を聞いて直切、枝美、博文の3人は納得した。

なおきり「そりゃあ、ちょいとお灸を据える必要があるわな。」

えと「言っても聞かないんじゃ、少々キツいのが必要だよね。」

ヒロ「大丈夫。僕らに任せなさい。」

のあ「じゃあ…」

乃愛は目を少し輝かせた。見ず知らずの人たちは協力してくれることとなった。これでようやく、社が大人しくなるかもしれない。だが、現実(リアル)はそう生易しいモノではない。

ヒロ「ああ、ただし、交換条件があるよ。」

のあ「へ…?」

博文はそういって、乃愛にある紙を1枚差し出した。

 

その頃、社と達矢はグラウンドの隅でスマホを開いていた。少し調べものをしつつ、次はどんな悪戯をしてやろうかと模索中だった。

じゃっぴ「あー今日もドッキリ大成功だな!」

たっつん「やな!」

社と達矢は今日も悪戯の成果を挙げていた。今回仕掛けた悪戯も相当なモノだった。ゾンビやピエロの面を被っていきなり突拍子もないところから出て来ては通行する生徒をビックリさせていた。そんなとき、社のスマホに乃愛から連絡が入った。

じゃっぴ「はあ!?何だこりゃ?」

たっつん「ん?どしたん?」

社は目を疑った。彼のスマホには拘束された乃愛の画像が送られてきた。その画像は早速、達矢にも見せた。スマホにはさらに「彼女を預かった。返してほしかったら生徒会室まで来い。」とも送られてきた。

たっつん「何やこりゃ?」

さすがの達矢も目を疑った。こんな誘拐犯みたいなことをするヤツらがいるのか、と。これは自分たちがしてきた悪戯より遥かにタチが悪い、と思わざるを得なかった。

たっつん「じゃっぴ、どうすんや?」

じゃっぴ「決まってんだろ!生徒会室行くぞ!」

達矢の質問に社は即答で生徒会室へ行くと言った。乃愛が誘拐されたとなると、社は居ても立っても居られなかった。社は全速力で生徒会室へ向かった。

 

生徒会室についた社と達矢は早速そのドアを開けた。その先には手足を縛られ、椅子に拘束された乃愛がいた。その両横には直切、枝美、博文の3人がいた。

えと「へえ、意外と早いじゃん。」

じゃっぴ「学校中を1ヵ月走り回ってたからな。大体把握した。」

枝美は社と達矢が意外と早く生徒会室に到着したことを軽く称賛する。彼女らは社が学校中を1カ月荒らし回っていたおかげで校内を大体把握していたことを知らなかった。

じゃっぴ「それより乃愛を放せ!」

なおきり「もちろんだ。ただし、お前が誓約書を書いてからな。」

達矢「誓約書?」

ヒロ「言い換えれば反省文だ。」

社は乃愛を放せと要求するが、直切たちは彼女を解放する前に社に反省文を書くのが先だと言う。だが、社は理解できない。

じゃっぴ「はあ?それと乃愛と何の関係があんだよ?」

なおきり「お前、色々悪さして学校中を引っ掻き回してるだろ。」

えと「おイタが過ぎたね。だからウチらが呼ばれたんだよ。」

ヒロ「ていうか、学校側もよく1ヵ月も放置してたよね。さ、反省文書いてよ。」

博文は反省文用の紙をかざす。だが、社は否定する。

じゃっぴ「関係ねえだろ!乃愛を放せ!」

なおきり「そうはいかない。彼女はお前の幼馴染て聞いたからな。人質には効果てきめんてワケだ。」

直切はそう言ってカッターナイフを取り出し、拘束されている乃愛の顔の近くにかざす。乃愛はたまらずビクっとした。その隣で枝美がライターを取り出し、乃愛の顔元に近づけた。

なおきり「反省文を書かないと、かわいい彼女の顔に切り傷か火傷ができるぞ?」

じゃっぴ「やめろ!乃愛に手ェ出すな!」

えと「じゃあ反省文書きな。」

3人は脅迫するように社に反省文を書くよう促す。しかし、そこに達矢があることを提案する。

たっつん「生徒会のクセにこんなことして…先公にチクるで?」

ヒロ「あいにく様。学校側の許可は取ってあるよ。」

じゃっぴ・たっつん「な!?」

達矢の提案を博文が覆す。枝美がさらに付け加える。

えと「あんたがそれだけ問題視されてるってことだよ。さ、早く反省文書きなよ。」

なおきり「書かないんなら、分かるよな?」

枝美と直切は各々手に持ったライターとカッターナイフを交差させて乃愛の顎にかざす。乃愛は思わず顔を背けた。

ヒロ「学校の門限までそう時間がないんだ。さっさと書かないと、かわいい彼女がどうなっても知らないよ?」

博文はさらに事を急がす。それに応えるように、直切と枝美もカッターとライターをさらに乃愛に近づける。乃愛もこれには涙を流した。

じゃっぴ「…分かった!分かったよ!反省文だろ!書きゃ良いんだろ!」

さすがの社もこれには観念した。社は博文から紙を受け取り、速攻で誓紙を書いた。

じゃっぴ「ほらよ!これで良いか?」

社は書いた誓紙を直切にかざして渡した。だが、その直後に全員がクククと笑い出した。

一同「クククク…ははははははは!」

じゃっぴ「な!?」

直切、枝美、博文はもちろんのこと、社の横にいた達矢までもが笑い出した。社は当然、理解できない。

じゃっぴ「何なんだよ一体?」

たっつん「いやーすまんwこうも上手くいくとは思わんかってんwww」

じゃっぴ「はあ!?」

たっつん「さ、もうええやろww」

なおきり「だなw」 えと「だねw」

ヒロ「のあちゃん、お疲れw」

状況を読めない社を尻目に、博文は乃愛の拘束を解く。

のあ「…こんなのやるなんて思わなかったですよ。もう…」

ヒロ「ごめん。敵を欺くには、てヤツだよwww」

なおきり「まさに迫真だったね、のあちゃんwww」

えと「女優なれるかもよwww」

たっつん「せやな。1番効果あったと思うでw」

のあ「えへへw」

拘束を解かれた乃愛は涙を拭いつつも、少し笑った。一方で、社に詰め寄る。

のあ「さ、じゃっぴ。もういいよ。反省文書いてくれたから。今後は制約守ってね。」

じゃっぴ「だから何なんだよ?」

たっつん「ニブいヤツやな。お前のおイタが過ぎたから、それを止めるのに俺らで一芝居打ったんや。」

のあ「あのまま行くと、下手したら退学だよ?」

じゃっぴ「ぐ…」

乃愛の言葉に社は危機感を覚えた。高校は義務教育と異なり停学・退学があるのだ。

なおきり「さて、退学を回避する条件として1つ提案があるんだ。」

じゃっぴ「は?提案?」

ヒロ「僕たちSNS部に入らない?」

直切と博文が社を自分たちが所属するSNS部へと勧誘する。だが、社は当然すんなりウンとは言わない。そこに、乃愛、達矢、枝美が付け加える。

じゃっぴ「面倒くせえな!何で部活なんか…」

のあ「単位入るよ。」

たっつん「立場危ういんやろ?退学んなっても良いんか?」

えと「あんたみたいな面白いヤツ大歓迎だよ?」

じゃっぴ「ぐぐ…」

社はこれにも観念して、SNS部への入部届を書いて出した。

直切「OK。んじゃ、SNS部の詳細についてはまた話すから、今日はこの辺でな。」

ヒロ「ま、僕はこの部が守れるなら何でも良いけどね。」

えと「また明日ね~♪」

6人はその後、生徒会室から出て学校を後にした。

 

帰路についた社、乃愛、達矢の3人は何気ない会話をしていた。そこに、乃愛があることを社に聞く。

のあ「そういえば、私が拘束されてたあの画像どうしたの?」

じゃっぴ「ああ、あれならPCに送って永久保存しといた。」

のあ「ええ!?何で?」

じゃっぴ「お前の弱み握るのに丁度だからな。これネットに流すぞってwww」

のあ「バカ!今すぐ消して!」

じゃっぴ「嫌―だね♪消してほしかったらここで脱いでみる?ぎゃははははwww」

のあ「最低!」

じゃっぴ「痛え!?」

社の悪態に乃愛は思わず張り手をかました。その様子を見ていた達矢は2人をからかってみた。

たっつん「お前ら、もう彼氏彼女でええやんか。」

じゃっぴ「違え!彼女じゃねえ!」 のあ「違います!彼氏じゃありません!」

たっつん「んじゃ何や?」

じゃっぴ「ただの幼馴染だ!」 のあ「ただの幼馴染です!」

たっつん「カカカwお似合いやww」

達矢は息ピッタシの社と乃愛のやり取りを見てニヤニヤとし、2人をまた応援したくなった。


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