TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

本当に一瞬の隙だった。宮本の驚異的な反射神経の素早さに、女が気づいたときには、インプのボンネットの鼻先がワンエイティを追い抜いていた。


「「行けーっ!!」」


橋本と宮本が車内で大はしゃぎながら、無邪気な子供のように笑い合った。

勢いよくアクセルを踏み込んでも、すぐに急コーナーが目の前に迫る。それに伴ってインプのスピードが落ちるのを、ワンエイティが背後から虎視眈々と狙い澄ました。


「雅輝、地元よりも早く走れるってところを、思う存分に見せてやれ。今まで我慢して、女のケツを追い回していたんだ。フラストレーションを発散させろ。間違いなく、いい走りになるだろうさ」

「陽さんが惚れ直すくらいの、いい走りをしてみせるよ!」


(おいおい、これ以上惚れさせて、どうするんだか……)


「キラキラに光り輝く、ピンク色のラインをなぞって走れば、いつも以上に早く走ることができる!」


そう断言した宮本の走りは、橋本が失神する手前のレベルと、称するに値するくらいに凄かった。気がつけば、背後にいるはずのワンエイティのライトが遠くに見えていて、女が戦意を消失したのが明らかだった。

鼻息荒くしながら、颯爽と走行し終えた宮本は、峠の入り口にある駐車場にインプを停めて、女がやって来るのを待つ。

ワンエイティが横付けされたのをきっかけに、橋本が助手席から降りると、バトル後でぼんやりしていた宮本も、慌てて運転席から降り立った。


「まーくん、お待たせ♡」


泣き真似した女が、宮本に抱きつこうとしたので、橋本は無言のまま襟首を掴んで、素早くそれを引き留めた。


「おじさんってば、ちょっとくらいいいじゃない。私の完敗だったんだし、まーくんに慰められたいんだってば」

「余計な刺激を与えるな。バトルしたあとで、雅輝は疲れてるんだから」

「とかなんとか言っちゃって。本当は恋人のまーくんに、触れられたくないだけでしょ?」


女が告げたセリフに橋本はたじろぎ、女を掴んでいた襟首から手を放すと、すかさず腕を掴まれて、豊満な胸に挟まれた。


「あっ!」


その行為にいち早く反応した宮本が、橋本の反対の腕を引っ張って、女から引き離そうとした。


「雅輝っ」

「だって!」

「まーくんってば、おじさんにぞっこんなんだ。へえ」


橋本はしたり顔する女を無視して、自力で腕を奪取し、宮本の隣に並んだ。


「ねえねぇ、どっちが下になってるの? おじさんがまーくんを抱いてるの?」

「そんなこと関係ねぇだろ。それよりもこのこと――」

「陽さんには、もう手を出さないでください! 俺のなんですから!!」


宮本の爆弾発言に、橋本はその場で頭を抱えたくなった。嫉妬心に駆られた恋人を止める術がわからず、白目を剥いて失神しそうになる。


「まーくんはおじさんにぞっこんだけど、おじさんてば最初逢ったときに、私の躰をじろじろ見てたよ。やっぱり男よりも、女のほうがいいんじゃない?」


メガネの赤いフレームを上げながら指摘した言葉をきっかけに、宮本は橋本に鋭い視線を飛ばした。場の空気は最悪を極めていて、とっとと帰りたくなった。


「陽さん、見てたんですか?」

「目の前にいたんだから、普通に見るだろ……」

「おじさんってば、絶対に普通じゃなかったぁ。エッチな目で見てたもん。揺れるおっぱいを物欲しそうに、じーっと見てた!」

「陽さんっ!」

「見てねぇよ。この女の自意識過剰に、まんまと踊らされるんじゃねぇって」


(雅輝の持ってる、美少女フィギュアに似てるから見てただけなのに、なんでこうなっちまうんだ)


「だからまーくん、おじさんと別れて」

「へっ?」


宮本は食ってかかっていた橋本から、女に視線を移す。橋本は恋人の様子を、ドキドキしながら横目で眺めた。なにを言いだすかわからなくて、さっきから動悸が止まらない。


「私、おじさんのこと気に入っちゃった。ワンエイティの助手席に乗ってもらいたいなと思って。そしたらまーくんみたいに、私も走りに磨きがかかりそうだし」


女の告げたセリフを聞いた宮本は、がらりと表情を変えた。それを目の当たりにした橋本は、慌てて会話に割って入る。名誉の挽回をする機会を逃すまいと、それはそれは必死だった。


「雅輝とは絶対に別れない。なんで、おまえの車の隣に乗らなきゃならねぇんだ。都合のいい道具として俺を使おうとしてるのが、見え見えなんだよ」

「とかなんとか言っちゃって。おじさんの腕をおっぱいで挟んだとき、嬉しさのあまりに体温が上がったこと、すぐにわかったんだからぁ」

「嬉しさなんて、これっぽちもなかったって。余計なことして雅輝を怒らせたら、めんどくせぇ展開になるから、それで――」

「陽さん、やっぱり女を抱きたくなったんですか?」

「ほらみろ、言わんこっちゃない……」

loading

この作品はいかがでしたか?

34

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚