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練習試合 恒星高校戦 1回表グラウンドに「プレイボール」の声が響いた。
竜皇高校の初の公式戦。
ベンチの雰囲気は固く、誰もが息を潜めていた。
先発は真琴。
マウンドに上がった赤髪の華奢な姿は、いつもの練習より明らかに小さく見えた。
初球。
ストレートが大きく外角に外れた。
ボール。
2球目も、3球目も、コントロールが定まらない。
キャッチャーのアキがミットを構え直しても、球はミットに収まらない。
カウントはあっという間に2ボール2ストライク。
4球目も大きく外れて、フルカウント。
ベンチがざわついた。
翼はスコアブックを握る手に力が入った。
(真琴くん……)
アキがマスク越しに真琴の顔を覗き込み、思わず立ち上がった。
マウンドに向かって一歩踏み出す。
その瞬間、真琴の声がグラウンドに響いた。
「アキ、こ、こないで‼️」
掠れた、必死な声だった。
真琴の肩が激しく震えている。
アキはハッとして、すぐにその場に立ち止まった。
「……あ、すまん……!」
アキは自分の胸を押さえ、悔しそうにミットに拳を打ちつけた。
それでもマウンドには行かない。
真琴が望まないことを、絶対にしないと決めていた。
内野の全員が、息を殺してマウンドを見守っていた。
タクはセンターから、みとらはセカンドから、井上はショートから、
ただ静かに、真琴の小さな背中を見つめていることしかできなかった。
真琴はマウンドの土を強く踏みしめ、
震える腕で次の球を投げた。
ボール……またボール。
でも、彼は逃げなかった。
一球一球、歯を食いしばって投げ続けた。
翼はベンチの端で、胸が締め付けられるのを感じていた。
真琴の震える肩、青ざめた横顔、必死にミットを狙う姿。
すべてが、昔の自分と重なって見えた。
(真琴くん……頑張ってる……)
観客席はシンと静まり返っていた。
まだ人数は少ない練習試合なのに、
真琴の苦しみが伝わってしまったのだろう。
誰も声を出せない。
でも、翼は立ち上がった。
メガホンを握りしめ、
精一杯の声を振り絞った。
「真琴くん!! 大丈夫だ!!
俺たちがいるから!!」
その声に続いて、勇人が大声で叫んだ。
「真琴ー!! お前ならできる!!」
タクも、センターから力強い声で送った。
「真琴! 俺たちを信じろ!」
少しずつ、ベンチからも、観客席からも声が上がり始めた。
まだ小さく、ぎこちないけれど、
確かに、真琴に向けられた温かい声援。
翼はメガホンを強く握り、
心の中で何度も繰り返した。
(がんばれ、真琴くん。
大丈夫。俺たちがいるから)
マウンドの真琴は、
一瞬だけ、翼の方を見た気がした。
その瞳に、わずかだけど、
光が戻ったような気がした。