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練習試合 恒星高校戦 終了後3イニングで6-1。
完敗だった。
スコアボードを見上げながら、誰も言葉を発さなかった。
真琴はマウンドで最後まで投げきったけど、ストライクはほとんど入らず、
四球と長打の嵐。
それでもバッター陣は必死だった。
「真琴に勝ち星を……」
「守備でカバーしよう」
「どんな球でも喰らいついて点を取る」
アキとタクはベンチでずっと作戦を練っていた。
「内角を絞って打たせてアウトを取る」
「真琴の球が来なくても、俺たちがカバーする」
チームが、真琴のために動き始めていた。
監督はベンチの隅で静かに腕を組んでいた。
(……チームの皆んなはもう準備ができている。
あとはお前だけだ、椎名。
乗り越えろ)
試合開始15分前
大谷高校戦の直前。
グラウンドはすでに次の試合の準備でざわついていた。
翼がふと気づいた。
真琴の姿がない。
「真琴くん……?」
ベンチにもロッカールームにもいない。
翼は胸騒ぎを覚えて、応援席を離れた。
「真琴……どこいったんだ……」
数分後、球場裏の男子トイレの前で、
低く荒い声が聞こえてきた。
「なんでお前、俺に黙って高校変わったんだよ‼️
お前のために費やした3年間はなんだったんだよ‼️
おい、黙ってないでなんか言えよ、真琴‼️」
真琴……?
翼は慌ててトイレの中に駆け込んだ。
個室の前で、大きい体つきの坊主頭の男が真琴を壁に追い詰めていた。
真琴は震えながら蹲り、顔を伏せて動けない。
「何してるの⁉️」
翼の声に、男が振り返った。
「あ? 誰だお前」
「真琴の友達だけど」
「へー、悪いけど今こいつと喋ってるから、あっち行ってくんない?」
「いやだ。
喋ってるっていってるけど、真琴は全然話せてないじゃん」
「あ?」
「一方的に責めてるだけでしょ!」
男の目が険しくなった。
「うるせえな。
俺はこいつと中学一緒に野球やってたんだよ。
フィジカルが圧倒的に足りてないこいつを、
3年間レギュラーでいさせてやったのも俺の力があったからだ。
それなのにこいつ、黙って他のチームにいきやがったんだぞ」
翼は一歩も引かずに、はっきりと言った。
「そんなの、あんたの思い込みでしょ?
真琴がどうしたいか、一回でも聞いた?
どんなバッテリーでありたいか、確認した?」
「ごちゃごちゃ部外者がうるせえんだよ‼️」
「こんなのバッテリーじゃない‼️
あんたは捕手失格だ」
その言葉が決定的だった。
男の顔が真っ赤に染まり、拳を振り上げた。
その瞬間——
「翼!?」
後ろからアキの声が飛んだ。
アキはトイレの入り口に立っていた。
拳を向けられた翼を見て、驚きの表情を隠せなかった。
そして、床で震えて蹲る真琴の姿を見た瞬間——
アキの目が、静かに、しかし確かに“キレた”。
「お前、サイテーの捕手だよ」
低く、冷たい声だった。
アキはそれ以上何も言わず、
真琴の体を優しく抱き起こし、
もう片方の手で翼の腕を掴んで、
二人を両脇に抱えるようにしてその場を後にした。
男は何か叫んでいたけど、
アキは振り返りもしなかった。
廊下に出て少し歩いたところで、
アキは真琴を壁に寄りかからせ、
翼の肩を抱いたまま、低く言った。
「……大丈夫か? 二人とも」
真琴はまだ震えていて、言葉が出ない。
翼はアキの腕の中で小さく頷いた。
アキは真琴の頭を優しく撫でて、
静かに、でも力強く言った。
「もう大丈夫だ。
俺がいるから。
……絶対に、守るから」