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うめぼっち

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臣桜
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鷹槻れん/鷹槻うなの

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#恋愛
水無月 京
1,300
それ以降、緩やかな緊張感の中話題はズレていって。他のユニットのプロジェクト、大手クライアントの人事異動…私も少しだけ落ち着いて箸を進められるようになる。
伊藤さんの秘書さんは、テーブルに視線を落として静かに食事を進めている。年齢の割に少し細いと思える頬の線は、日頃の苦労が…なんて、勝手に同情していいものじゃないだろうけど。
「そういえば、お会いするのは昨年の全体研修以来でしたよね」
と話しかけてみれば、そっと視線が上がる。案外くりっとした目は可愛らしい。新卒2年目だったら、こんな場所に来るのは罰ゲームでしかないよね、と思いながら、パートナー2人の会話を横目に雑談をしてみる。
これまで担当してきたパートナーの話や、共通の知り合いの話。案外話が盛り上がり、それに気を良くした伊藤さんが私の前にワイングラスを置く。
「だからウチの秘書に飲ませすぎないでくださいよ」
「たまにの話なんだからいいじゃないですか」
過保護ですねぇ、と豪快に笑う彼に対して豆さんは少し眉を顰める。
「あんまり酔った姿を見せたくないんですよ」
そう言うなり、私の前に置かれたグラスを掴む。
「え」
私が何か言う前に、彼は半分ほど一気に飲み下して親指でグラスの飲み口を拭った。容量が減ったワイングラスが、トン、と私の目の前に戻ってくる。
「…なんで私のお酒飲んじゃうんですか」
「ほらもう酔ってるじゃない弓家さん」
仕事だからね、と軽くため息をつく豆さんに少しだけハッとする。なんだか話し込んで楽しくなっちゃったけど、確かに今は業務中…
「さすが大豆生田さん」
女性への優しい心配りはいつ見ても素晴らしい。
伊藤さんは豆さんを褒めながら、軽く拍手のようなジェスチャーを送り、自分もぐいっとグラスを空ける。
「大豆生田さんのその仕草は、過去の栄光から培われたもの?」
「…過去の栄光?」
なんのことですか、と首を傾げる豆さんに伊藤さんはニヤリとして言う。
「大豆生田さん、昔は結構派手に遊んでいたっていう噂じゃないですか」
その言葉に、なんとなく冷静でいられなくなってグラスの細い柄をを掴んで引き寄せる。紅い液体を迷いなく口に含めば、思った以上の渋味が舌を刺激して、アルコールが鼻を突き抜けていった。
「俺、遊んでたんですか」
「またまたぁ、昔は夜中まで仕事して、その後遊びに繰り出してたって有名な話じゃないですか」
「…そうなの?」
「若いねえ、ってパートナーのオッサンたちは羨ましがってましたよ」
ジジイにそんな体力は残ってないんでね、色んな意味で。
「…俺全然そんな記憶ないんですけど。お偉い人たちは随分下世話な話で盛り上がってたんですね」
「事実かはどうでもいい。そういう噂とタバコで息抜きするのがジジイの生態でしょうよ」
新たに運ばれてきた日本酒を、伊藤さんは律儀にお猪口に分けて、一つを私の方に押しやってくる。
すかさず止めようと豆さんが手を伸ばそうとしたけれど
「大丈夫です」
と微笑んで断り、手元に引き寄せる。
別に、彼の過去がどうであろうと。
遊んでいた話なんて、ごくありがちな話で。
それに、豆さんは違うって否定しているし…別に否定していなくたって…構わない…?
自分の頭の中がごちゃついていくのと比例して、口の中のタンニンの渋さが増すような気がする。
思わずその渋さを消したくて引き寄せたお猪口をそのまま口元に運べば
「秘書さん、良い飲みっぷりだね」
と伊藤さんが目を細める。
「こんだけ飲める若い女性は今時珍しいね」
「…そうでしょうかね」
少しだけ酔いが回ってきたけれど、それをここで出すわけにはいかないので、ゆるりと構えて言葉を紡ぐ。
「見ていて楽しいわ。また行きましょう」
「…ぜひ」
「もうウチの秘書に飲ませないでもらえます?」
軽く放り投げられた社交辞令に応じようとしていれば、横からつっけんどんな声が聞こえて。
「飲み過ぎだっつってんでしょうが」
ごくごく小さい声で私のことを叱ったかと思えば。
反論の隙もなく今度はお猪口が取り上げられて、中身が全て彼の喉奥へ消えていった。
「お水、飲みます?」
さらに、伊藤さんの秘書さんから絶妙なタイミングでお水を勧められ。
それを飲んでいるところに、ようやくデザートが届けられ、会食に終わりが見えてきた。