高校入学式の翌日、俺は、ぼんやりと曲のことなんかを考えながら教室へ向かう階段を降りていて、下から2段目くらいで踏み外し気がつくとそのまま格好悪く崩れ落ちてしまってた。
「いったぁ···」
痛さよりも恥ずかしくてしばらく動けない。高校生にもなって階段から落ちるなんて。
「君、大丈夫?痛かったよね、立てる?」
聞いたことのない声に顔を上げると見たことがない、上級生だろうか···が心配そうな顔で手を差し伸べてくれていた。
「はい、すみません···」
その手を取ると引っ張って俺を起こしてくれた。
この人、指長くて綺麗な手してる···。
まるでピアニストみたいな指だな、なんてぼんやりと手を握ってしまう。
「頭打ってない?ぼうっとする?」
さらに心配されてしまって、頭を繋いでいるとは反対のその綺麗な手でそっと撫でられてドキッとしてしまう。
俺は手に見惚れてた、なんて言えなくて慌てて返事をする。
「少しだけ···けどもう大丈夫です、ありがとうございました」
「びっくりしたよね、大丈夫だからね···僕もよくコケちゃうし···あ、肘から血が出てる」
その人は綺麗にアイロンされたハンカチを取り出すと躊躇いもせずそっと拭いてくれて一緒にポケットから取り出した絆創膏を貼ってくれた。
「すみません、ハンカチ。洗って返します」
そういってそのハンカチをそっと受け取った。
その人はにこり、と笑っている。
女性らしさを感じるわけではないし、小さくて可愛いというわけでもない、むしろ俺より背は高そうだ。
ただその人柄というか性格から滲み出るような笑顔に美しいひとだなと感じた。
「···ありがとう。僕、3年の藤澤涼架っていうんだ。えぇっと···1年かな?大森くん」
藤澤さんは俺のネームプレートを見て苗字を呼んでくれた。
「はい、ありがとうございました、また返しに行きます」
いそがないからね、と言って先輩は階段を登って3年の教室へと帰っていった。
藤澤さん、手だけじゃなく笑顔もとっても綺麗な人だった。
髪も男子にしては長くてひとつにギリギリくくれるくらいの長さで、纏めきれずに顔にかかる髪がなんだか大人っぽさを感じさせた。
俺は教室に戻ってもまだ藤澤さんの手の感触を思い出して自分の手を見つめていた。
そして家に帰って急いでハンカチを洗った。けれどどうしても汚れが落ちきらなくて。
俺は次の日の放課後、新しいハンカチを買いに行った。
貸してくれたハンカチに出来るだけ似た、薄いグリーンのハンカチを選んで綺麗にラッピングしてもらう。
それに色々見ていたら可愛いクッキーの瓶詰めを見つけて、一緒に袋に入れてもらった。
気づけば俺は早く藤澤さんに会いたいと彼のことばかり考えていた。
コメント
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♥️💛のお話も楽しみです🤭いつも更新ありがとうございます✨