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ハンカチを買った翌日、俺は先輩に会うために3年生の教室へと向かった。


昼休みの時間だったのでたくさんの生徒が教室と廊下を出入りしている。

クラスを聞き忘れた俺はひとクラスずつ覗いて見る。



「あれ?大森くん、だよね?」


聞き覚えのある声に振り向くと、藤澤さんが手を振りながら近寄って来てくれた。

俺はぺこりと頭を下げる。



「藤澤先輩、この前はありがとうございました。あのっ、明日ってお昼時間ありますか?」


「僕は全然なにも···明日のお昼?時間あるよ、どうしたの」


「一緒に学食でご飯食べたいなって···だめですか?」


「えっ、嬉しい!楽しみにしてるね、じゃあ授業終わったら学食で待ち合わせしよう」


嬉しそうににっこり笑ってくれた藤澤さんはそろそろ授業始まるから戻りなさいね、と手を降って教室へ入っていった。

その姿を見送ってから俺は顔がにやけないように頬を押さえて1年の教室へと戻った。



嬉しい、めちゃくちゃ楽しみ。

俺は絶対あの人と仲良くなりたい。



全ての授業が終わって家に帰ってもまた明日のことを思ってソワソワしてしまった。



翌日、 俺は午前中の授業が終わった瞬間に急いで学食へと向かう。

もちろんハンカチとお菓子が入った袋は忘れないように持って来た。


なんだろう、なんであの人を待っているだけで楽しみで少し緊張してしまう。



生徒たちがお昼のためにだんだんと集まってきた。待っている人の姿を探していると、先に俺より背の高いが見つけてくれたようで手を振っている。



「ごめん、お待たせしちゃったね」


「俺が早すぎただけなんで、えっと、注文しにいきますか?」


「うん、僕もうお腹空いちゃったぁ」


この人はやっぱり、いちいち言動も可愛らしい。

注文したものを受け取って俺たちはテーブルに向かい合わせて座った。


「いただきまーす」


「いただきます、って藤澤先輩ほんとにそんなに食べるんですか···?」


「うん、お腹空いてたから」


ほっそりした体からは想像できない量···カツ丼大盛りと普通サイズのうどんを早速頬張っている。


「逆に大森くんはそれで足りる?」


「はい、大丈夫です」


「足りなかったら僕のあげるからね」


俺は別に本当は食べなくてもいいくらいだった、少しでも藤澤さんと話をしたいしこの人を見ていたいから。

なのですぐ食べ終わるうどんだけを注文した。


途中で髪が邪魔になったのか、藤澤さんはヘアゴムでさっと纏めた。あらわになる首筋が白くて器用に髪をまとめたその指先はやっぱり繊細さを感じるほど細くて長くて、綺麗だった。



俺はさっさと食べ終えて藤澤さんが食べ終えるのを見ていた。

綺麗に食べるのに気持ちいい食べっぷりだし、とにかく美味しそうに食べているから見飽きない。


「ご馳走様でした、美味しかったぁ」


「ご馳走様でした、本当に藤澤先輩は美味しそうに食べますね」


「そうかなぁ、けど今日は大森くんと一緒だったからいつもより美味しく感じたかも」



にこっと微笑まれてまた俺はドキッとしてしまう。


「あっ、今日はこれ渡そうと思って」


いけない、忘れるところだった。

隣の席に置いていたハンカチとクッキーの入った袋を手渡す。


「え?これって?」


「ハンカチ汚れが落ちきらなくて、出来るだけ似たものを選んだんですが、ごめんなさい」


「わざわざ買ってくれたの?そんな良かったのに···けど嬉しい、ありがたく使わせてもらうね」


先輩は受け取ってくれた袋の覗き込んでクッキーの瓶を持ち上げて中を見ている。


「これは???」


「クッキーです。お礼に···甘い物大丈夫ですか?」


「えぇっ、これも僕に?嬉しい!···いま食べてもいいかな?」


さっきあれだけ食べたのにこの体のどこにそれだけ入るんだろう。


「もちろん、どうぞ」


藤澤さんは瓶の蓋を開けて可愛いアイシングクッキーをひとつ口に放り込む。


「美味しい〜!」


頬に手を当ててむふ、と笑っている。

これだけ喜んで貰えるとこちらまでとっても嬉しくなる。


「大森くんもひとつ食べてみて!」


はいっ、とクッキーを俺の口にもってきてくれる。

これは、そのまま食べて良いのだろうか。悩みながらも 口を開けてそれを先輩の手から貰う。


「···おいしいです」


「ね〜」


本当は味なんてほとんどわからなくって。先輩の手から口に···という事実だけが俺の鼓動を速めていく。



そして気づいてしまった。


これってまるで恋する乙女じゃないか、ということに。

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