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ズキッ。あぁ~、痛い。こんなに体調が悪いなんてついてない。頭が割れるような痛みと体のだるさとともに、私はゆっくりと瞼を開けた。
「ここ…どこ?」
まず視界に入ったのは、まるで西洋ファンタジーの世界にあるような豪華な天蓋(てんがい)だった。
「西洋風の天蓋…なんで、こんなに豪華なんだろう」
夢だろうかと頬をつねってみる。
「痛っ!!」
しかもなんだか子供の頬のように、ふにふにとしていて柔らかい。よく考えると何だか体が小さいような…上に向かって手を伸ばしてみると、視界には小さな手があった。
「~~っ!?」
声にならない悲鳴をあげてしまった。
だんだんと最初に比べて思考がまわるようになってきた。確か、私…そう考えた瞬間、頭に強烈な痛みが走った。
「危ないっ!!」
頭より先に体が動いていた。どんっと女の子を突き飛ばした時にはもう遅かった。瞬間、目の前に迫るトラック。そこまでで、記憶はとぎれていた。
私の名前は、白崎真央。
医師という職業柄、中々とれない久しぶりの休日を満喫した帰り道。暴走したトラックに引かれそうになっている女の子を助けようとして死んだのだ。
一気に体に記憶が流れ込んできたせいか、とても気持ちが悪い。そうだ…私、死んだんだ。とたんに現実味が出てきた。
私が助けたあの女の子、きっと生きてるよね。人を救って死んだのなら、いい人生だったかもしれない。
けど…私の夢。果たせなかったなぁ~
『世界に認められる医師になる』
それが私の夢。 小さい頃からハーブや薬が大好きで、医師になってからは新薬開発のプロジェクトに携わっていた。
ずっと見てきた夢だったのに…
あの事故で死んでいなかったら、そのプロジェクトの一員として、世界的に注目される学会に出席することになっていた。夢に近づいていっていたのに。
いや、そんなことを考えている場合じゃないや。ここがどこか確かめないと。
コンコンッとノックの音が聞こえた
「お嬢様。失礼します」
誰…?と思った瞬間、また頭に直接流れ込んでくる不快感とともに、記憶が流れてきた。
ここはラーツァ国。魔法が存在する、ファンタジーな国だ。
どうやら私はクラウン公爵令嬢の三女、エナ・クラウンというらしい。今年で9歳のエナは生まれつき病弱体質だが、それは
「生まれつき持つ、強い魔法の力に体が耐えられないから」らしい。
そして、父は優しく国王の右腕とも言われる、有能な貴族。母は名家生まれで女神のように優しく、傾国の美女と呼ばれるほど美人。
親譲りの優しさと美貌を持っている兄が2人と姉が2人。今は全寮制の国立学園に通っていて家にいないらしい。
幸せで、誰もが羨むような家族構成。もちろん裕福で、生活に困ることはない。
だが、そのお金は自分達で運営している店の売り上げがほとんどであとは、領民のために使っているというから驚きだ。
さっきの声はたぶん、メイド長のアイアだろうか。
天蓋のカーテンを開けたアイアさんは、驚いた顔をして言う。
「お目覚めになられましたか…!いつにもまして高熱でしたから、とても心配しておりました」
エナの所作は体に染みついているようで、自然に口から言葉が出てくる。
「おはようございます、アイア。喉が乾いているので、水をくださる?汗をかいて気持ちが悪いので着替えもしたいのだけれど…」
「お水なら持ってきております。お嬢様、どうぞ。着替えはメイドを呼んできますね。私は旦那様と奥様に、お嬢様がお目覚めになられたことを、お伝えしなければならないのでこれで失礼します。ここでお待ちくださいませ。」
アイアさんは水の入ったコップを私に差し出しながら、そう言った。
「ありがとう、ではここで待っているわね。」
うーん、なれない。所作が体に染み付いてるとはいえ、この喋り方は練習が必要かな。ポロッと真央の喋り方が出たら大変だ。このお屋敷の旦那様と奥様は、お父様とお母様って呼ぶべきだよね。前世の記憶があるせいか、躊躇ってしまう。
まぁ真央時代は読書と、ハーブ栽培を趣味としていたし、異世界転生の本も色々読んだ。お嬢様口調もきっとできるよね。お父様とお母様呼びもなれるはず。
そう考えていると、「失礼致します」とメイドさん達が入ってきた。アイアさんに、着替えたいと頼んだからだろう。
簡素ながらも品のあるドレスで、とても私好みだなぁと思う。このドレス選んだ方、マジ天才。
「お嬢様、こちらに。」そう言われたらエナの体に染み付いた所作が、勝手に動いてくれる。あれよあれよと言ううちに、着替えが終わった。その後、これまた綺麗なドレッサーの前で髪を結ってもらった。
メイドさん達が部屋から出ていくと、入れ替わるように、お父様とお母様が入ってきた。
「私の大切なエナ、目が覚めたのね。とても心配だったわ。」
そう言うとお母様は優しく私のことを抱きしめた。女性に抱き締められるなんて真央時代はお母さんにしかなかったから少し緊張してしまう。しかも、とっても綺麗だから余計に。
そして、お母様はチュッと頬にキスをした。さすがにこれは恥ずかしいですよぉ~お母様~!!
「エナ、目覚めてよかったよ。心配で夜も眠れないほどにね。」
「エナ~、大好きよ。まだ一緒にいたいのだけど国王様に呼び出されていてね。これから行かなくてはならないの。今日は早めに休みなさいね。」
「わかりました、お母様。お父様もお気をつけて」
「ありがとう、行ってくるよ。」
お父様とお母様が部屋を出た後は、夜まで部屋の本棚にあった小説を読んですごした。
精霊の恋物語で、さすが魔法のある国だなと思う。
そろそろ、お腹もすいたし、お風呂に入りたいなと思っているとメイド長のアイアがノックしてから、部屋に入ってきた。
「失礼致します。お嬢様、お食事はこちらでお召し上がりになりますか?準備はできております。」
「えぇ、まだ体調がよくないからここで食べるわ。」
そう言うと、すぐに食事が運ばれてきた。
さすが貴族の食事。とても豪華だし、品質も一級だろう。けれど、病人には少し重すぎる。これは改善の余地がありそうだ。
食べられそうな物だけ食べて、無理なものは申し訳ないけど残させてもらうことにした。和食って病気でも食べやすい優しい味という素晴らしいものだったんだなと今になって実感する。
けれど毎日食べていると和食が恋しくなっちゃうだろうな。味噌や醤油、材料を探してもらって作ったりできないかな。
食事が終わるとアイアが、
「入浴はいかが致しましょうか?準備はできております」
と声をかけてきた。ちょうど入りたいなと思っていたのでぜひ、お願いしたい。
「ちょうど入浴したいと思っていたところなの。ぜひお願いしたいわ。」
「では、浴場に参りましょうか。」
うわぁ~!とっても、広い。貴族のお風呂ってこんなに広いんだ。
女性の入浴はメイドさん達が手伝ってくれるらしい。私としては一人で入りたいものだけど、この世界ではこれが普通らしい。常識の違いに驚いた。
髪はアイアが洗ってくれた。高級そうなシャンプーやオイルなどでメイドさん達がお手入れしてくれるおかげで、エナの綺麗な髪は保たれているんだとつくづく思った。
お風呂に浸かっている時に、浴場をじっくりと見ると壁にお洒落な模様があったり、メイドさん達が主人の入浴を手伝いやすいようにしてあったりと、工夫してあることに気づいた。きっと、とんでもないお金がかかっているにちがいない。
お風呂からあがると、寝巻きに着替えた。布地はシルクだそうだ。シンプルだけど、とっても着心地がいい。
部屋に戻るとアイアが持ってきてくれたハーブティーを飲んで私はベッドに入った。
「お嬢様、おやすみなさい。」
「アイアもゆっくり休んでくださいね。おやすみ、アイア」