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映像が途切れると、セノは涙を流しながら、何も言わずに膝から崩れ落ち、ドロドロと身体が溶け始めた。
「おい! 逃げるなよ、セノ!!」
慌てて、エルは手を伸ばすが、セノはそのまま地面に吸い込まれるように消えてしまった。
「セノ……」
唖然とし続けるキルロンド生に、セノを悲しそうな目で見逃してしまったセノの部下たち。
教会の中は、途端に静寂と化した。
アダム、アザミへの対抗策を講じる中、リリアの暴走によりキルロンド王国の崩壊、恐らく避けられないであろう魔族との戦争。そして、裏切りなのか何が起きたか理解が及ばないディアブロによるラス・グレイマンの惨殺。
全てが異常事態、セノはどうやら、耐え難い辛辣な未来を想定し、身を隠してしまったのだろう。
誰もが絶望の二文字が脳裏に巡る中、ただ一人、涙を溢しながらも、背筋を伸ばす男が前に出た。
「まだ……まだだ……!! まだ諦める時じゃない!!」
そう声を荒げたのは、リオン・キルロンドだった。
「「 リオン…… 」」
ヒノトとレオは、同時に細い声を溢す。
「まだ僕たちがいる!! 今の戦士たちでは成せなかった技術や能力を獲得した!! 僕たちは何の為に強くなったんだ!! 僕たちは何の為にここにいる!!」
必死に、全員の前で声を上げ続ける。
「僕たちは……何者だ!!!」
叫びすぎて、貧血気味に頭を下げた瞬間、もう一人の男が、リオンの背を支えた。
「私たちは……戦士だ。ここにいる者、全員が勇者に憧れた、まだ戦える者たちだ」
そう告げたのは、レオ・キルロンドだった。
「レオ……」
「ふっ、愚兄よ。先を越されてしまうとはな」
そう言うと、レオは静かに微笑む。
「我ら王族は、こんな状態だろうと引き下がる気はない。民を守り、そして、弱き者を守る……!」
今まで不穏な動きをしていたレオ、キルロンド生全員が、その言葉で今までのことを確信した。
レオは、何も変わってなどいなかったのだと。
魔族の集落へと連れて行かれ、そこで目にしたのは平穏に暮らす、自分たちとまるで変わらない人々。
戦争相手は、魔族ではなかったという真実。
その為に、真実を追求し、弱き者を守る為に、自身を強くさせ続ける唯我独尊の王子。
それが、魔族の力を得て、キルロンドに何の音沙汰もなくセノと組んでいた、レオの全てなのだと。
その言葉に、キラとキースは同時に立ち上がる。
「ガッハッハ! それでこそ我がライバル!! 俺もこんなことで退いたりはしない!! ここまで強くなったのだ!! 最後まで戦い続けよう!!」
「ふん。家のことや貴族院のことなど、もうとっくに吹っ切れている。俺たちも魔族の人々の様子は見た。守るべき存在は、戦士として見据えている」
貴族院のトップ二人に続き、徐々に声が上がる。
「私たちだって負けないよねー!」
「その通りだ、姉さん! 僕たちの力を見せてやろう!」
キースの貴族院パーティ、イーシャン・ブロンドと、リューシェン・ブロンド姉弟。
「僕も……きっとキルさんは守る為に戦っている……。キラさんに着いて行きます……! 守る為に……!」
ニア・スロートル。
「ここで僕たちが出なきゃ、ウォーカー家の名折れですよねぇ、兄さん?」
「家系など関係ない。私たちは成すべき事をするだけだ」
「風紀委員に所属してから、想いは変わらないっす!」
クラウド・ウォーカー、キャンディス・ウォーカー。
そして、シャマ・グレア。
「君たちの先輩として、まだまだ見せつけなければならないからね。ふふ、まだ強くなるぞ」
倭国遠征で、ヒノトと一悶着あった、ユス・アクス。
「ふふっ、魔族に連れ去られた奴らはそう言う事情だったんだね……。なら、目的は変えないでよさそうだ。いずれ俺はソルを超える。その為に強くなり続けるさ」
笑みを浮かべながら、ロス・アドミネ。
「こんな時でも変わらないな、お前は。頼りになるようで危なかっしい奴だ」
そう笑いながら横に並ぶ、グロス・ラドリエ。
「勝手に置いて行くんじゃないわよ。アンタに勧誘されてここまで来た事、忘れてないでしょうね!?」
アズール・ウォール。
「さあ、行きましょう。みんな」
そう言って二人の手を取る、ララ・フレア。
「守るべきものはわかってる……!」
「私も……こんなところで負けたりしないよ……!」
「はぁ……いつまでもお転婆だな。仕方ない姉妹だ」
ルル・フレア、モモ・フレア、ゴヴ・ドウズ。
「ヒノトくん、僕はまだ、君に負ける気はない」
ヒノトを横目に立ち上がる、アイク・ランド。
まだ座っているのは、ヒノト・グレイマン、リリム・サトゥヌシア、グラム・ディオール、リゲル・スコーン、そして、元レオのパーティにいた、ファイ・ソルファ。
他のみんなが決起して立ち上がる中、この五人は、まだ暗い顔を浮かべ、声を発せないでいた。
「レオくん、一つ聞いてもいいですか?」
暗い雰囲気に口を開いたのは、ファイだった。
「私は……誰を信じ、誰を守れば良いのでしょうか……? 最初は、貴族院として、落ちこぼれの私が結果を残す為に貴方のパーティへ加入しました。でも、今はそんな小さな事を気にしている戦いじゃない。私は……」
レオは、そっとファイに近寄ると、片膝を地に着ける。
「お前は、お前自身の為に戦え。私の為でも、国の為でも、ましてや、家系の為に戦う必要はない。強くなりたいのであれば、立ち上がれ」
ファイは、レオの変わりない言葉に、涙を溢して静かに立ち上がった。
「ヒノト……俺はさ」
静かに、リゲルは口を開く。
「義賊の息子で、魔族との取引があって紅眼なんて力も目覚めて、正直、灰人のヒノトの気持ちが分からないでもない……と思う。でもね……」
涙が溢れそうなヒノトの目を、真っ直ぐに見遣る。
「俺はまだ、守るべき人の為に戦いたい」
そして、リゲルはそっと立ち上がった。
「俺もだ、ヒノト。こんな形で、認めてくれたのはお前たちだけだった。でも、魔族との共闘で、俺は色々なことを知った。俺の力は、守る為にあるんだ」
グラムもまた、立ち上がる。
「妹がいたなんて、正直驚いたけど……。もうここまで来て、呆然としちゃうことなんて起きない。何が起きてもおかしくないんだもん。今の私からしたら、ヒノトがそんな顔してることの方がおかしいわよ。妹の不始末は、お姉ちゃんが付けなきゃよね。勇者になりたいなら……!」
ゆっくりと笑みを浮かべながら、歯を食いしばり、リリムは立ち上がった。
「ヒノト」
「ヒノト!」
「ヒノトくん!」
みんなが声を揃える中で、レオはゆっくり前に出る。
「よう、愚民」
「レオ……」
そして、剣先を静かにヒノトに向けた。
「公式戦で、お前を潰す」
「……!」
それは、キルロンド王国でのプレイバーゲームの公式戦が始まる前に、レオと同時に言い放った言葉だった。
「公式戦っつっても……もうキルロンド王国は……」
「ならば、お前だけ退くといい。ここから先は、誰にも強制させることのできない戦争になる。だが……」
「……?」
「その前に、俺と戦え」
「……!?」
誰も、レオの言葉を制することはなかった。
「この教会の裏には、セノが鍛錬で使えと言われている広い荒野がある。そこで、私と戦え」
「んなこと……するわけ……」
「怖いのか?」
「そんなガキみたいな挑発に誰が乗るかよ……。こんな状況で、そんなことしてる暇……」
「ヒノト、戦って」
ヒノトの言葉を遮ったのは、リリム。
その真っ直ぐな瞳に、ヒノトは静かに、頷いた。