テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
私がしっかりしなければ…………。
小さい頃に、兄上に絶望した。
諦め癖があり、王家の長男にしてチャラチャラと女の尻ばかり追いかける兄上。
遠くに住んでおり、エルフとのハーフの兄上。
もう、国を納める世継ぎになるのは、私だけだ……。
「ねえ、貴方、どうしてそんなに苦しい顔をしていつも剣を振るっているの?」
「お前は……どこから来た……!」
いつも一人で使っている王城内の裏庭に、黒髪の長い女が木の上から声を掛けてきた。
「ふふふ、お散歩してたら迷っちゃったんだけど、ここの木を登れば貴方の練習が見られて面白いの」
その木をよく見てみると、子供でも届きそうな枝が、王城の外にまで伸びていて、侵入経路は直ぐに分かった。
「貴様……王城への立ち入りは許可がなければ捕まるんだぞ……。分かっているのか……?」
「あはは! だからこうして、地面には降りていないじゃない! 貴方が降りてもいいよ、って言ってくれたのなら、それは許可を得たことになるでしょうけど」
そう言うと、女はニコニコと笑みを浮かべさせた。
緊張感のない奴だ……。
一人寂しく鍛錬の日々が続いていたからか、誰かにこの心の奥にあるモヤモヤを打ち明けたかったのか、よく分からなかったが、私は先程の質問に答えることにした。
「先程の質問だが、強くなる理由は私が王だからだ。この国の民を守る為、強くなり、この身を盾に守る。それが、王としてのあるべき姿だからだ」
腑に落ちなかったのか、女は目を丸く、私のことをじーっと眺めていた。
「貴方、王様なの?」
「次代の王だ。王になってから鍛えたんじゃ遅い」
「へぇ。私もね、お姫様なんだよ!」
そう言うと、女はぱあっと明るく微笑んだ。
既に、キルロンドが一国の王として収めた後だと言うのに、何を言っているのかとも思ったが、まだ自分を王家だと思い込んでいる元王族……つまりは貴族院の子供なのだと理解した。
「そうか、貴様も王家の者か。ならば、私と同じ、次代の国を納める責務を全うしているのだろうな?」
私はニヤリと微笑み、意地悪をしようと、話に乗っかったフリをして、自分との覚悟の差を思い知らせようと、性悪い質問を投げかけた。
だが、女は依然としてニコニコと微笑んでいる。
「ねぇ、私たち、立場は同じなんだし、そろそろ地面に降りてもいいかしら?」
いつまでもふわふわと喋る女に、多少の苛立ちを覚えたが、そんなことでは一国の王など到底先のことだ。
仕方がない、王の寛大な器を見せてやろう……。
「いいだろう……。私が許可をしたと認めよう」
「ありがとう」
再び、にこりと微笑むと、スルリと地面に降りた。
4,425
988
#挿絵
KEY-STU
26,394
「貴方、短剣使い? なら、ソードマンね?」
「貴様、話をすり替えるな。次代の王になる責務を問うているのだ」
「うーん。そうだなぁ……」
すると、顎に人差し指を立てると、口を曲げる。
やはり、何の覚悟もしていない、みんな口だけなのだ。
そう、思っていた。
「私、国の人たちが笑っていればいいの」
「だから、その為に強くならねば……」
「貴方一人が強くなれば、国は守れるの?」
純粋な瞳に、私は何も答えられなかった。
確かに、戦争が起きれば、私一人で戦うなんてことには決してなることはない。
むしろ……私の独断が首を絞める恐れも……。
「ふふ、貴方、私と勝負しましょうよ」
「は……? 女と勝負だと……?」
「あら、私、こう見えて強いのよ?」
そう言うと、何も持っていなかった女の手には、魔法で創られた短剣が現れた。
この歳で属性の創造魔法……かなりの使い手だな……。
しかし、元王族の魔力なら、それのみに絞って鍛錬していれば、有り得ない話でもないが……。
「さあ、かかってきなさい」
剣を構えると、女はまた、余裕の笑みで微笑んだ。
舐めやがって……。
怪我さえさせなければ良い。直ぐに圧倒して、格の違いを思い知らせてやる。
しかし、どれだけ剣を振るっても、私の剣はするりするりと交わされ、全く当てられなかった。
「ふふ……やっぱり」
「クソッ……何故だ……! どうして貴様に全く剣が当たらないのだ!!」
「練習も見ていたけど、貴方の動きって固いのよ。信念がそのまま剣術にも反映されてるって感じ。一国を治める王なら、時には柔軟さも大切なのよ」
言っていることは頷ける。
だが……認めたくなかった。
「私は……神童と呼ばれ、雷帝と恐れられるまでに未来を期待されているんだ……! 貴様なんかに……!」
しかし、私の言葉は制され、目を見張らされる。
きっとこのことは、生涯忘れないだろう。
女は、同じ笑みを浮かべさせていた。
「なんだ……その魔法は……」
女の周囲には、女を囲うように、剣が360度に地面から何本も生えていて、まるで手出しが出来なかった。
岩魔法……? いや、風……水か……?
「ほら、魔法を使ってもいいのよ? 雷帝……だったっけ? 雷魔法なら、当てられるんじゃない?」
「な、舐めるな……!!」
”雷魔法・雷弾”
バチッ……! と、左手から雷の弾を放出する。
キィン!
「なっ……」
しかし、雷の弾は女の剣によって裂かれた。
「ざんね〜ん! 当たらなかったね! 当たり前じゃん! 魔法で創った剣なんだから、魔法じゃ壊せないよ! 貴方がもっと高火力な魔法を使えたなら、話はまた違っていたかもだけどね」
そう言うと、ニシシと笑っていた。
戦意喪失、いや、私は悟ったのだ。
この女は、私よりも強い。認めることもまた大切なことだ。
私は、そっと剣を降ろした。
「貴様、何故そんなに強いのだ……?」
「そうね。強いて言うなら、私は姫だから、かな」
「それは……私が言ったことだろう……!」
「あははっ! 貴方の言葉とは意味が違うのよ」
そう言うと、魔法を解きながら、静かに私に近付く。
そして、ポンと、私の頭に手を置いた。
「肩の力を抜きなさい。全てを守れる人なんていないの。でもね、一人一人と向き合うことなら、努力で叶うはず」
「向き合う……? 誰と……?」
「貴方が、これから守りたい人たちよ。王だから、仕方なく守るわけじゃないでしょ? それが理由なら、貴方はこれから先、強くはなれないわ」
頭から静かに手を下ろすと、再びニコッと微笑む。
その笑顔に、私はいつの間にか、苛立ちは消え去り、胸の鼓動が早まっているものを感じていた。
「大切だから守るの。大切だから、強くなれるのよ」
そう言いながら、私を通り過ぎ、静かに歩く。
なんだか恥ずかしくて、目で後を追えなかった。
「あ、あの……名前は……?」
振り向かずに、私はボソッと名を尋ねる。
「私? もう会えないかも知れないけど、いつか会えた時のために教えておこうかな。私は……」
振り向いた時には、女の姿はいなくなっていた。
まるで、幻を見ていたかのような、不思議な感覚に襲われたのを強く覚えている。
それから私は、何の為に強くなるのか、王になるとはどう言うことなのか、考えるようになっていた。
大切なもの……王だから守る責務があるのではない。
王であるから、国民が大切なのだ。
「私の名は……」
また会えたら、礼が言いたかった。
もう会えないかもと言っていたその女とは、この先のどこかで、なんとなく会える気がしていたから。
そしてまた剣を交わし、強くなったと認めてもらいたかったから。
「リリア・サトゥヌシア」
奴が魔王の娘と分かったのは、魔族共に魔族の集落へと連れて来られた後のことだった。
女は、嘘偽りなく、紛れもない姫だった。
――――――――
戦況
◆キルロンド生(魔族領 在中)
レオ / リオン・キルロンド 兄弟 / ファイ・ソルファ
キラ・ドラゴレオ / ニア・スロートル
キース・グランデ / ユス・アクス
イーシャン / リューシェン・ブロンド 姉弟
ロス・アドミネ / グロス・ラドリエ
キャンディス / クラウド・ウォーカー 兄弟
ララ / ルル / モモ・フレア 三姉妹 / ゴヴ・ドウズ
アイク・ランド / アズール・ウォール
リゲル・スコーン / シャマ・グレア
リリム・サトゥヌシア / グラム・ディオール
ヒノト・グレイマン その他、エルフ族複数名
◆魔族軍 セノの配下(魔族領 在中)
四天王 織田弓弦 / 風の使徒 エル=クラウン
シグマ=マスタング / ルルリア=ミスティア
ドラフ=オーク その他、魔族軍新兵複数名
◆アダム討伐班(移動中)
エルフ族長 ロード・セニョーラ / キル・ドラゴレオ
◆単独行動(エルフ帝国 在中)
生きた伝説 シルフ・レイス / ルーク・キルロンド
◆アダム一派
三王家 アダム=レイス(魔族領)
エルフ帝王 アザミ・クレイヴ(エルフ帝国)
シニア=セニョーラ(アザミ・クレイヴの手中)
帝国軍 参謀 シュバイン・ヴァグズ(エルフ帝国)
帝国軍 隊長 シュヴルス・エルス(エルフ帝国)
その他、エルフ帝国軍複数名
◆キルロンド襲撃(キルロンド 在中)
魔王の娘 リリア=サトゥヌシア
三王家 ディアブロ=エスタニア
その他、キルロンド王国の生存者、不明。
並びに、四天王 セノ=リュークの所在不明。