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私がしっかりしなければ…………。
小さい頃に、兄上に絶望した。
諦め癖があり、王家の長男にしてチャラチャラと女の尻ばかり追いかける兄上。
遠くに住んでおり、エルフとのハーフの兄上。
もう、国を納める世継ぎになるのは、私だけだ……。
「ねえ、貴方、どうしてそんなに苦しい顔をしていつも剣を振るっているの?」
「お前は……どこから来た……!」
いつも一人で使っている王城内の裏庭に、黒髪の長い女が木の上から声を掛けてきた。
「ふふふ、お散歩してたら迷っちゃったんだけど、ここの木を登れば貴方の練習が見られて面白いの」
その木をよく見てみると、子供でも届きそうな枝が、王城の外にまで伸びていて、侵入経路は直ぐに分かった。
「貴様……王城への立ち入りは許可がなければ捕まるんだぞ……。分かっているのか……?」
「あはは! だからこうして、地面には降りていないじゃない! 貴方が降りてもいいよ、って言ってくれたのなら、それは許可を得たことになるでしょうけど」
そう言うと、女はニコニコと笑みを浮かべさせた。
緊張感のない奴だ……。
一人寂しく鍛錬の日々が続いていたからか、誰かにこの心の奥にあるモヤモヤを打ち明けたかったのか、よく分からなかったが、私は先程の質問に答えることにした。
「先程の質問だが、強くなる理由は私が王だからだ。この国の民を守る為、強くなり、この身を盾に守る。それが、王としてのあるべき姿だからだ」
腑に落ちなかったのか、女は目を丸く、私のことをじーっと眺めていた。
「貴方、王様なの?」
「次代の王だ。王になってから鍛えたんじゃ遅い」
「へぇ。私もね、お姫様なんだよ!」
そう言うと、女はぱあっと明るく微笑んだ。
既に、キルロンドが一国の王として収めた後だと言うのに、何を言っているのかとも思ったが、まだ自分を王家だと思い込んでいる元王族……つまりは貴族院の子供なのだと理解した。
「そうか、貴様も王家の者か。ならば、私と同じ、次代の国を納める責務を全うしているのだろうな?」
私はニヤリと微笑み、意地悪をしようと、話に乗っかったフリをして、自分との覚悟の差を思い知らせようと、性悪い質問を投げかけた。
だが、女は依然としてニコニコと微笑んでいる。
「ねぇ、私たち、立場は同じなんだし、そろそろ地面に降りてもいいかしら?」
いつまでもふわふわと喋る女に、多少の苛立ちを覚えたが、そんなことでは一国の王など到底先のことだ。
仕方がない、王の寛大な器を見せてやろう……。
「いいだろう……。私が許可をしたと認めよう」
「ありがとう」
再び、にこりと微笑むと、スルリと地面に降りた。
「貴方、短剣使い? なら、ソードマンね?」
「貴様、話をすり替えるな。次代の王になる責務を問うているのだ」
「うーん。そうだなぁ……」
すると、顎に人差し指を立てると、口を曲げる。
やはり、何の覚悟もしていない、みんな口だけなのだ。
そう、思っていた。
「私、国の人たちが笑っていればいいの」
「だから、その為に強くならねば……」
「貴方一人が強くなれば、国は守れるの?」
純粋な瞳に、私は何も答えられなかった。
確かに、戦争が起きれば、私一人で戦うなんてことには決してなることはない。
むしろ……私の独断が首を絞める恐れも……。
「ふふ、貴方、私と勝負しましょうよ」
「は……? 女と勝負だと……?」
「あら、私、こう見えて強いのよ?」
そう言うと、何も持っていなかった女の手には、魔法で創られた短剣が現れた。
この歳で属性の創造魔法……かなりの使い手だな……。
しかし、元王族の魔力なら、それのみに絞って鍛錬していれば、有り得ない話でもないが……。
「さあ、かかってきなさい」
剣を構えると、女はまた、余裕の笑みで微笑んだ。
舐めやがって……。
怪我さえさせなければ良い。直ぐに圧倒して、格の違いを思い知らせてやる。
しかし、どれだけ剣を振るっても、私の剣はするりするりと交わされ、全く当てられなかった。
「ふふ……やっぱり」
「クソッ……何故だ……! どうして貴様に全く剣が当たらないのだ!!」
「練習も見ていたけど、貴方の動きって固いのよ。信念がそのまま剣術にも反映されてるって感じ。一国を治める王なら、時には柔軟さも大切なのよ」
言っていることは頷ける。
だが……認めたくなかった。
「私は……神童と呼ばれ、雷帝と恐れられるまでに未来を期待されているんだ……! 貴様なんかに……!」
しかし、私の言葉は制され、目を見張らされる。
きっとこのことは、生涯忘れないだろう。
女は、同じ笑みを浮かべさせていた。
「なんだ……その魔法は……」
女の周囲には、女を囲うように、剣が360度に地面から何本も生えていて、まるで手出しが出来なかった。
岩魔法……? いや、風……水か……?
「ほら、魔法を使ってもいいのよ? 雷帝……だったっけ? 雷魔法なら、当てられるんじゃない?」
「な、舐めるな……!!」
”雷魔法・雷弾”
バチッ……! と、左手から雷の弾を放出する。
キィン!
「なっ……」
しかし、雷の弾は女の剣によって裂かれた。
「ざんね〜ん! 当たらなかったね! 当たり前じゃん! 魔法で創った剣なんだから、魔法じゃ壊せないよ! 貴方がもっと高火力な魔法を使えたなら、話はまた違っていたかもだけどね」
そう言うと、ニシシと笑っていた。
戦意喪失、いや、私は悟ったのだ。
この女は、私よりも強い。認めることもまた大切なことだ。
私は、そっと剣を降ろした。
「貴様、何故そんなに強いのだ……?」
「そうね。強いて言うなら、私は姫だから、かな」
「それは……私が言ったことだろう……!」
「あははっ! 貴方の言葉とは意味が違うのよ」
そう言うと、魔法を解きながら、静かに私に近付く。
そして、ポンと、私の頭に手を置いた。
「肩の力を抜きなさい。全てを守れる人なんていないの。でもね、一人一人と向き合うことなら、努力で叶うはず」
「向き合う……? 誰と……?」
「貴方が、これから守りたい人たちよ。王だから、仕方なく守るわけじゃないでしょ? それが理由なら、貴方はこれから先、強くはなれないわ」
頭から静かに手を下ろすと、再びニコッと微笑む。
その笑顔に、私はいつの間にか、苛立ちは消え去り、胸の鼓動が早まっているものを感じていた。
「大切だから守るの。大切だから、強くなれるのよ」
そう言いながら、私を通り過ぎ、静かに歩く。
なんだか恥ずかしくて、目で後を追えなかった。
「あ、あの……名前は……?」
振り向かずに、私はボソッと名を尋ねる。
「私? もう会えないかも知れないけど、いつか会えた時のために教えておこうかな。私は……」
振り向いた時には、女の姿はいなくなっていた。
まるで、幻を見ていたかのような、不思議な感覚に襲われたのを強く覚えている。
それから私は、何の為に強くなるのか、王になるとはどう言うことなのか、考えるようになっていた。
大切なもの……王だから守る責務があるのではない。
王であるから、国民が大切なのだ。
「私の名は……」
また会えたら、礼が言いたかった。
もう会えないかもと言っていたその女とは、この先のどこかで、なんとなく会える気がしていたから。
そしてまた剣を交わし、強くなったと認めてもらいたかったから。
「リリア・サトゥヌシア」
奴が魔王の娘と分かったのは、魔族共に魔族の集落へと連れて来られた後のことだった。
女は、嘘偽りなく、紛れもない姫だった。
――――――――
戦況
◆キルロンド生(魔族領 在中)
レオ / リオン・キルロンド 兄弟 / ファイ・ソルファ
キラ・ドラゴレオ / ニア・スロートル
キース・グランデ / ユス・アクス
イーシャン / リューシェン・ブロンド 姉弟
ロス・アドミネ / グロス・ラドリエ
キャンディス / クラウド・ウォーカー 兄弟
ララ / ルル / モモ・フレア 三姉妹 / ゴヴ・ドウズ
アイク・ランド / アズール・ウォール
リゲル・スコーン / シャマ・グレア
リリム・サトゥヌシア / グラム・ディオール
ヒノト・グレイマン その他、エルフ族複数名
◆魔族軍 セノの配下(魔族領 在中)
四天王 織田弓弦 / 風の使徒 エル=クラウン
シグマ=マスタング / ルルリア=ミスティア
ドラフ=オーク その他、魔族軍新兵複数名
◆アダム討伐班(移動中)
エルフ族長 ロード・セニョーラ / キル・ドラゴレオ
◆単独行動(エルフ帝国 在中)
生きた伝説 シルフ・レイス / ルーク・キルロンド
◆アダム一派
三王家 アダム=レイス(魔族領)
エルフ帝王 アザミ・クレイヴ(エルフ帝国)
シニア=セニョーラ(アザミ・クレイヴの手中)
帝国軍 参謀 シュバイン・ヴァグズ(エルフ帝国)
帝国軍 隊長 シュヴルス・エルス(エルフ帝国)
その他、エルフ帝国軍複数名
◆キルロンド襲撃(キルロンド 在中)
魔王の娘 リリア=サトゥヌシア
三王家 ディアブロ=エスタニア
その他、キルロンド王国の生存者、不明。
並びに、四天王 セノ=リュークの所在不明。