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無事討伐が終わり、パルミラとラッチをぶらさげたまま、近くに見える星へと移動を開始した。そこから星間移動を使って帰るつもりである。
ピコピコピコ ピコピコピコ
「ん?」
突然の電子音に、ピアーニャは首を傾げる。音の鳴る方を見ると、アリエッタを見守るマンドレイクちゃんが座っている。
「あ、コールフォンね。マンドレイクちゃん、出してくれる?」
伸ばした蔓を引っ込めながら、振り返って頼むミューゼ。マンドレイクちゃんが再び頭を開けて、音が鳴りっぱなしのコールフォン親機を取り出す。
「? さっき、コキはぜんぶカイシュウしただろ?」
「うん、コキは全部回収しましたよ」
「ん?」
どういう事か聞こうとしている間に、コールフォンはアリエッタの傍に置かれ、蔓に掴まっていたパルミラとラッチを回収し終えたミューゼが横に座る。
すぐにアリエッタがコールフォンを起動した。
『あ、繋がったしー』
「はいはーい、こちらミューゼ。丁度仕事終わったよー」
「くりむ、おはよっ」
通信相手はクリムだった。
その声が聞こえた瞬間、ピアーニャとネフテリアが驚愕の顔で硬直した。
『仕事終わったし? 今日帰ってくるし? 帰るなら何か作って待ってるし』
「えーっと、総長どうします?」
「ぅえ゛? あ、あーえーと……」
「とー…とりあえず、今日はシーカーみんなで打ち上げとかするから、クリムには悪いけど……」
混乱し、口ごもるピアーニャに代わって、ネフテリアがなんとか返答する。
『そうだし? 分かったし。また明日連絡するしー』
「うん、ごめんねー。明日帰るよ」
『はーい。それじゃあアリエッタ、ばいばーいだしー』
「? ばいーばいーしー?」(おお? なんか意味ありげな言葉……だけど、ちょっと間違えたかも)
「ふふっ」
ちょっと間違えるアリエッタを微笑ましく見守るミューゼ達だが、ネフテリアは内心動揺しまくっている。ピアーニャに至っては動揺を隠す事も出来ず、口をパクパクしながら、プルプル震えていた。
「みゅ、みゅ、みゅ……」
「あれ? どうしたんですか?」
様子のおかしい2人を見て、首を傾げるミューゼ。
上手く言葉が出てこない2人に代わって、事態をあまり飲みこめていないパルミラが質問を投げかける。
「お城にいた時にネフテリア様から聞いたけど、それが遠くでも話が出来る道具よね?」
「うん」
「誰と話してたの? クリムっぽかったけど」
「クリムだけど」
「……えっと、クリムもエテナ=ネプトに来てるの?」
「ううん、ニーニルで仕事してるよ?」
「はい?」
パルミラの目が点になった。
そのまま横にいるネフテリア達に顔を向けるが、2人とも茫然としながら首を横に振るだけである。
「どうかしました?」
「どっ……どうかしましたじゃないよっ! なんでクリムと話が出来てるの!? ファナリアにいるんでしょ!?」
「えっ? ………………………あっ」
『いまごろきづくなあああああああ!!』
ネフテリア、ピアーニャ、パルミラの絶叫が綺麗に揃った。
「え、えと、ほら、アリエッタってエルさん譲りの美貌の持ち主ですし? これくらい、なんとかなりますよね?」
「そっかーそうよねー、アリエッタちゃん凄く可愛いもんね。リージョン間の通信なんか、出来て当たり前よねー…ってなってたまるかぁっ!」
「うぅ……オナカいたくなってきた……」
常時アリエッタを警戒するピアーニャは、エテナ=ネプトでの超広範囲に及ぶ破壊行為でも十分参っていたのだが、ここに来てあり得ない筈の通信を目の当たりにし、とうとうお腹を押さえてへたり込んでしまった。
「ぴあーにゃ、だいじょぶ!?」
理由を理解出来ないアリエッタによる、さらなる追い打ちがピアーニャを襲う。
「ひぃ……ダイジョウブじゃないからやめて……」
「うーん、しょうがないなぁ。アリエッタちゃん、大丈夫よ~」
流石に不憫に思えたネフテリアが、慌てるアリエッタを宥め、ピアーニャを膝の上に乗せる。
ピアーニャはちょっとムッとしたが、アリエッタよりはマシと、大人しくその身を預ける事にした。アリエッタも、テリアというお姉さんがピアーニャの面倒を見てくれるという事で、安心して倒れたパフィの元に戻っていく。
この時、一連の流れを全く理解していないのは、アリエッタだけではなかった。
「ねぇお母さん。何か変な事でもあった?」
「そりゃまあ……そっか、ラッチはまだ知らないよね」
この際だからと、パルミラはラッチに通信にまつわる現状を教える事にした。ワグナージュとファナリアの技術をもってしても、中継地点を置かないと遠距離の通信が出来ない事。リージョン間の会話は、転移時に魔力が途切れる為、絶対に不可能という事を丁寧に教えていく。
「えっ、アリエッタちゃん、もしかして凄い子?」
「いや凄いなんてもんじゃないよ。いろんな意味で怖いよ」
「怖い?」
そもそも今回は、超遠距離での通信を可能にしてしまったアリエッタの協力を得る為に、最高の護衛を付けてまで広大なエテナ=ネプトの調査に同行してもらったのだ。それなのに、当たり前のようにファナリアにいるクリムと通信していた。
これでは来てもらった意味が無い……どころの騒ぎではない。
遠距離だけに留まらず、異界通信が出来るとなれば、コールフォンの価値は計り知れない。そしてそれを創れるのも使えるのも、アリエッタただ1人。
「つまり、こんな能力が誰かに知られたら、アリエッタちゃんを狙う誘拐事件が多発するかもしれないってこと」
「ええっ! それ大変じゃん!」
「うん、大変よ」
(誘拐どころか、戦争に発展しかねない案件だけどね……)
実はピアーニャが胃痛になっているのは、今後アリエッタ達をどう守るか、その能力をどう隠すかなどで悩んでいる為である。絡まれるのを嫌がりつつも、なんだかんだで真剣に心配しているのだ。
「ねぇミューゼ。やっぱりお城に来ない?」
「嫌ですよ。お城なんて人の暮らす場所じゃないですし」
「……そこまで言っちゃう?」
ミューゼごと保護するために、もう一度王城暮らしに誘ってみたが、絶対に嫌だという姿勢を崩さない。それに、以前の事件や変態王子のせいで、無理に命令する事も出来ない。
「いっそ、ミューゼの家を城壁で囲ってしまえば……」
「こらこら……」
アリエッタの異常な存在価値のせいで、ネフテリアの考えも迷走し始めるのだった。
「皆のもの、この度のエテナ=ネプトの巨大ドルナ討伐、ご苦労であった!」
『光栄ですっ!』
「堅苦しいのはここまでだ。城ではないので普段通りで頼む。では沢山食べてくれ!」
『おおっ!』
参加した全てのシーカーを本部のホールに集め、宴会が始まった。
乾杯の音頭をとったのは、ネフテリアに呼ばれたガルディオ王。
「いや何故ですかね?」
王城から運ばれてきた大量の料理に手をつけつつ、ミューゼは疑問をポロリと口にした。
「テリアの呼び出しよ。パフィちゃん達の為に、わざわざこっちまで出向いて来たの」
「いや何故ですかね!?」
王城でパーティーを開いたり、賛辞を贈る為にシーカーを王城に集めるならば、理解出来る。
しかし、いきなり呼び出した挙げ句、料理持参でシーカー全員を労い、しかも王妃がミューゼ達とテーブルを共にするというのは、普通であれば全くもって意味が解らない。
シーカー達や受付嬢達も、最初は混乱していたが、王族や総長達がミューゼ達の所に群がっているのを見て、ホッと安心して料理を食べ進めていた。
(えっ、あたし囮にされてる?)
「テリアから大体の事は聞いてるわ。詳しい事は後で話すけど、今は食事を楽しんでちょうだい」
「とか言って、私の腰に手を回さないでほしいのよ。いや自分で食べれるのよ。離せなのよ」
「全くだフレアよ。いくらなんでも羨ましいぞ。」
「あら貴方もパフィちゃんの隣に?」
「うむ」
「うむじゃないのよ!? 王様が何してるのよ!」
(むっ……)
「ん? アリエッタどうしたの?」
パフィの様子を見てアリエッタが立ち上がる。
ガルディオを引っ張って椅子から離し、続いて椅子を引っ張ってパフィから離す。しかもテーブルとは逆方向に向けて設置した。
「アリエッタ嬢よ。確実に傷つく地味な嫌がらせを、一体どこで覚えたのだ……」
しょんぼりするガルディオを放っておいて、フレアにも同じ事をし始めた。
「えっと……」
(あとは僕とぴあーにゃの椅子をぱひーの横に並べて……)
なんとなく大人2人にパフィが狙われていると察したアリエッタによって、ミューゼとアリエッタでパフィの両側をガードする配置が完了した。ついでにピアーニャの両側はアリエッタとネフテリアによって固められている。ピアーニャは甘やかしから逃げられない!
「ふんす!」
「すまんアリエッタ嬢。許してくれ。もうしないから……」
「おふざけが過ぎました。反省してます」
王による謝罪の言葉も、アリエッタには意味が通じない。
そんな王族のぞんざいな扱いが常時繰り広げられ、むしろ周囲のシーカーや使用人の方が戦慄している打ち上げは、途中でリリによる無茶振りで無理矢理盛り上げられ、ギスギスしたまま終わらずに済んだのだった。それどころか笑いに包まれ、円満に終了した。
「俺、王族のコントって初めて見たわ」
「わたしも……」
「王様と総長が王冠投げ合い始めた所で、腹筋が限界だったよ」
「オレはあのガラの悪い商人を演じてたネフテリア様が、逆からドア開けられて潰された所で、思いっきりお茶噴出して大変っ…ぶふっ」
いくらなんでも、手段選ばな過ぎである。国で一番偉い人達がそれで良いのだろうか。
「まぁ庶民の心を掴める王族って、大事だと思うぜ?」
「そうね。あーおかしかった。あの方達は、ただ頭が固くて賢いだけじゃないみたい。そんな国なら、今後もここで頑張ろうって思えるもの」
なんとなく良い結果になった様子。
成り行きとはいえ、いきなりコントをやらされ、ボロボロになっている関係者はというと、
「あそこでお父様から髪の毛を全部むしって、ペシッって叩いて戻すとかだったら……」
「おいやめろ」
「いいわね。ディオ、カツラ被る気はない?」
「まだハゲたくないのだが!?」
「あと自己紹介の所は……」
なんと、次回に向けて反省会を始めていた。権力者達が揃って何かに目覚めようとしている。
「えっ、次もあるの?」
『えっ。あ……』