打ち上げが終われば、シーカー達は解散である。
最後の方で行動を共にしたミケミケとシェラーは、折角だからと一緒に食べていた。仲良くなったというよりは、称え合っている程度の付き合いではあるが。
「あーあ。アリエッタちゃんに、あ~んしたかったなー」
「突撃すればよかったのに」
「……王族に混ざる度胸はないですよ」
「ニーニルで活動してるらしいから、仕事してたら会えるでしょ。それより、パルミラさん」
帰路につくべく外へと向かう途中、ボロボロになって捨てられているパルミラを見つけた。
呆れたように見下ろすシェラーに対し、ミケミケは心配そうに声をかける。
「あー…お疲れ様です。大変ですね、王族に仕えるのも」
「なんの…これしき…ですよ……」
パルミラとシェラーは以前からの知り合いで、パルミラがシーカーに用事がある時は、優先的にシェラーに仕事を頼む程度の仲なのだ。
「パルミラさんが王様に『お前ボールな』って言われて変形させられて、王族の方々にぶつけ合いされた時は、大爆笑しましたよ」
「ちょっとシェラーさん!?」
「ははは……ウケたようで…なにより…です…」
「いいんですか!?」
ボロボロになっているせいで、コントに目覚めかけているのか、それとも自暴自棄なのかが分かりにくい。
いろんな意味で心配するミケミケの手を引き、シェラーはパルミラを放置して帰る事にした。
「それじゃ、また」
「はい…さよなら……」
「えっ? えっ? ちょっと!?」
「気にしないで。割といつもの事だから」
こうしてパルミラは1人、打ち上げ会場となったホールに取り残された。
「あれ? パルミラお母さんはどこ?」
「さぁ? 食べ過ぎたんだったら、どこかで休んでるでしょ」
打ち上げ終了後、ミューゼ達は本部の執務室へと通されていた。同行していたロンデルや、合流したラッチも一緒である。そして当然、王族も同行している。
何故かマンドレイクちゃんがリリに付き添われ、全員に飲み物を配っていたりする。
「なんで来るのよ……?」
「そんな邪険にしなくても……ちゃんとした仕事なのだぞ……?」
パフィからの王族に対する風当たりが、だんだん強くなっている。
「エテナ=ネプトのホウコクだからな。さすがにイロイロありすぎて、テリアだけではセイリしきれんだろ」
「そーゆーコト。ってゆーかまだ分かってない事もあるし」
そう言って、ジト目でミューゼを睨みつけた。コールフォンに謎が残ったままだという事を覚えていたミューゼは、なんとなくそっと視線を逸らす。
「そ、そうだった。アリエッタちゃんの道具が凄すぎて、誘拐されるかもしれないんだった」
『そこんとこ詳しく』
「いやジュンバンにはなすから、おちつけ」
ガルディオとフレアは、ネフテリアから大まかな概要だけを聞いていた。流石に他のシーカー達のいる所でする話ではなかったので、これまで大人しくしていたが、ずっと気になっていた様子である。
ピアーニャはロンデルと共に、エテナ=ネプトで何があったのかを詳細に語っていった。
「やはりアリエッタ嬢の力がなければ、ドルナの相手は難しいか」
「まぁ消滅までやろうとすると、そうですね」
ドルナ討伐の手順は、半透明になっている部位を破壊し、破壊した事で出てきた本体をアリエッタが着色した武器で討伐する事。これが現時点で可能となっている方法である。
「ノシュワールが鉱物になった時はどうしようかと思ったけど、パルミラが来てくれてよかったよ」
「アリエッタに撃ってもらうの、怖かったですからね」
「う?」(一体何の話してるんだろ? 難しい事話してるのは解るんだけど)
「そのパルミラお母さんが来ないんですけど。大丈夫なんですか?」
「ああ、問題無い。後で一緒に帰るからな」
「そうですか」
その頃パルミラは……城のメイド達によって、ホールの隅に転がされていた。後片付けの邪魔だったらしい。
後で会えるならいいやと、ラッチも一旦忘れる事にした。離れて過ごす事には慣れている。
「もう巨大なドルナが現れる可能性は無いと思うか?」
「……ドルネフィラーから、どれだけ夢が零れたのか分からないから何とも。でも今の所は、エテナ=ネプトとヨークスフィルンでしか巨大化してないわ」
「あのうごきからして、ドルナはジブンがドウカできるコトは、しらないのだろう。マオウもそのようなソブリはなかった」
スラッタルにしても、ノシュワールにしても、本来は狂暴な動物に狙われる小動物でしかない。ネフテリアの魔法から逃げようとして、体を鉱物の塊に押し付けた事で、溶け込むように同化していったのを見たネフテリア達は、本能と偶然によって同化という現象に至ったと、結論付けたのだった。
「今後もドルナについては、リージョンシーカーの仕事として続けていくのでしょう?」
「うむ」
「まぁ…ドルネフィラーからの干渉でもあるからね。知らない人にとっては謎の生き物になるけど」
「流石に星や山程の大きさの生き物になるとなぁ……対処も大変だろうな」
流石に家サイズや星サイズとなれば、動くだけで被害が発生する。
元々そういう生物が存在し、何かの形で共存しているリージョンであれば、シーカーが積極的に干渉し過ぎる事はしない。例えば、パフィの故郷であるラスィーテでは、悪魔による人の食用放牧自体は、そのリージョンの生態系としてピアーニャや各リージョンの上層部に容認されているのだ。
今回の騒ぎは、ドルネフィラーという外的要因によるトラブルだった為、リージョンシーカーが全力で取り組んだという訳である。もちろん交流の無いリージョンに関しては、元々どうしようもないのだが。
「あの可愛らしい武器を持って、今後も逞しい殿方達が暴れまわるのね……ふふっ…あははは」
フレアはピンクの花が沢山書かれた武器を、厳ついおっさんシーカーが掲げる姿を想像し、笑いだしてしまった。
「可哀想だから…放っておいてやれよ…ぐふっ」
「やだ想像しちゃった…ひひっ」
釣られてガルディオとラッチも笑い出す。フレアはすっかりツボに入ってしまったのか、咳き込む始末。
慌ててアリエッタが駆け寄り、フレアの背中をさすり始めた。
「げほっ…アリエッタちゃんありがとおぉぉ! ほらお膝においで~」
「あう、ふれあさま? だいじょうぶ?」
「大丈夫になったわ。よしよし」
「にへへ」(おお、ママと違ってお母さんっぽい!)
(このままアリエッタちゃんを手懐ければ、きっとパフィちゃんも)
(アレ絶対何か企んでるのよ……)
その後も話は変わり、コールフォンの話で盛り上がる。
その機能については、エテナ=ネプトへ行く前に説明してあったが、ガルディオ達が実際に見るのは初めてだった。
「コールフォンの、コキ? 1つ下さらない?」
「イヤなのよ」
フレアの要望がパフィによって即却下されるのも、もはやお約束となりつつある。
「どーせ渡したら、毎日かけてくるのよ」
「あら、当たり前じゃない」
「やめろなのよ!」
遠距離での通信が欲しい…というよりは、ただ単純にパフィと話をする機会が欲しい様子。
パフィの方はアリエッタに手間をかけさせてまで、王妃と話したいとは思っていない。
「で、コールフォンは違うリージョンとの通信を可能にしてしまってるんだけど……」
「本当に信じ難いな」
「それに気づいたのは、クリムから呼び出しがあったから。でも、あの時コールフォンの本体はアリエッタちゃんの手から離れて、マンドレイクちゃんの中に仕舞っていたのよ」
「うむ。アリエッタのどうぐは、アリエッタがふれているか、ふれたあとにうごかさないコトが、キドウじょうけんなのだが……ミューゼオラよ、どういうコトだ?」
アリエッタが使っていないのに、クリムからの通信を受け取った。その理由が分からない2人は、ミューゼを問い詰めた。
「いや実は忘れてたんですけど、家にあるコールフォンのオヤキをアリエッタが改造?しまして。動かしていないオヤキから、違うオヤキに繋がるようにしちゃったんですよ。しかも家のは凄く頑張って作っちゃって、誰でも使えるようになったんです」
『………………』
アリエッタの力は地味に進化を遂げていた。
つまり、クリムはミューゼの家から、アリエッタが起動してから一切動かしていない親機を使って、ミューゼ達が持ち歩いていたコールフォンへと通信したのである。
「うむ。アリエッタ嬢の価値は、留まる事を知らないようですな」
「はぁ、まったくだ。どうホゴしろというのだ」
「私達がしっかり保護しますよ」
「あーはいはい。アリエッタのチカラは、できるだけタニンにみせないようにな」
「はーい」
ミューゼとパフィは護る気満々。というか、アリエッタに何かあった時は、ピアーニャでも恐れる程に愛情は深い。実際に王城も壊している。
(まぁ、身辺警護については問題ないでしょうね。パフィちゃんもいるし)
(この娘の事を大々的に公表したら、間違いなく狙われるしなぁ。保護者は城を嫌がるし。やはりテリアに任せるのが一番だな)
(お父様とお母様が真剣に考えてるわね。そんな事よりミューゼとお風呂入りたいわ。ぐへへ)
(ど、どうしよう。ふれあさまって優しすぎる。抜け出そうにも力が出ない。これが本物の母性……)
様々な思考が巡る執務室。全員打ち上げで疲れていたのか、徐々にウトウトとし始めていた。アリエッタが眠ってしまった為、今日の所は解散とし、ミューゼ達はマンドレイクちゃんによって用意された部屋で、宿泊する事になった。
詳細を聞けたというよりは、パフィに会えて嬉しいガルディオとフレア。この場は一旦ピアーニャとネフテリアに任せ、執務室を後にした。現在パルミラと一緒に過ごしているラッチも、その後について行く。
ホールに残されたパルミラはというと……なんと広いホールの中心に1人、丁寧に布団まで被せられて眠っていた。
「すぅ、すぅ……むにゃ……」
「……お母さん」
とても丁重に雑な扱いを受けているパルミラを、ラッチ達は何とも言えない顔で眺めるのだった。