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少しだけ遡り、貧民街での騒動が収束した夜。帝都では雨が降り始めていた。暖かいシェルドハーフェンとは異なり、冬の帝都は相応の寒さとなる。冷たい冬の雨は焼け出された貧民街の人々を容赦なく凍えさせた。

貧民街ではマリア率いる一派が懸命に救助活動や支援を行っているが、凍える雨は彼等の体力も等しく奪う。更に先の騒ぎによる放火で支援物資を集積していた建物が一棟焼け落ちたため支援に支障を来していた。

焼け出された人々のための家屋も足らず、彼等の努力にも関わらず相当数の凍死者を出す結果となってしまった。

そんな最中、中心人物であるマリアは活動を一段落して用意された教会で祈りを捧げていた。

彼女としては夜通しでも活動に参加したかったが、パーティーへ参加するために帝都へ来ている立場のため体調面を優先するしか出来なかった。

「お姉ちゃん、そろそろ休んだら?」

祈りを捧げるマリアに聖奈が声をかける。戦闘による疲れはなかったが、衣服が傷付いてしまったので姉とお揃いの修道服を身に纏っている。

「そうね……今日はご苦労様。貴女が無事で良かったわ、聖奈」

妹へ笑みを向けるマリア。それを見て、聖奈は気まずそうに視線をそらす。

「完璧とは言えないよ。結果的に一人死なせちゃったからさ」

「貴女のせいじゃないわよ。ラインハルトから殉教について聞いたけれど……次からは自爆を禁止するつもりよ」

「それがいいよ。お姉ちゃんの治癒魔法なら大抵の怪我は治せるからね」

昼間の戦いで一人が負傷、そのまま敵を道連れに自爆して果てたと聞いた時は、流石の聖奈も眉を潜めた。そんな真似をされても姉は喜ばない。わずか半年の付き合いではあるが、姉の性格を熟知していた。

「はぁ……どちらにせよ、これ以上の騒ぎは勘弁してもらいたいわね。明後日は忙しくなるんだから」

「パーティーだっけ?やっぱり私も参加しないといけないの?」

「当たり前じゃない。明後日には屋敷に戻って準備、明明後日はいよいよパーティーよ。今から憂鬱だわ。その資金や食料を使えば、どれだけの弱者を救えるか」

姉の嘆きを聖奈は受け流した。彼女自身も弱者救済の理念を理解しているわけではないし、今の帝国貴族にそれを求めることそのものが不毛だと理解しているからだ。

「そう考えられるなら、今頃もっと良い国になってるよ」

「そうね……さあ、今日はもう休みましょう。また明日も早いわよ」

翌朝、レンゲン公爵家の別荘でもから慌ただしく従者達が動き回っていた。先の戦闘の後始末は全て暁に任せ、いよいよ二日後に迫ったパーティーへ向け最後の調整が行われていた。

屋敷にはパーティーに参加する西部閥の貴族達が続々と打ち合わせのために来訪し、カナリアとジョセフィーヌはその対応に追われていた。

当然それは使用人として潜り込んでいるシャーリィ、エーリカ、セレスティンも例外ではなかった。後始末をマクベスに任せて日中は休むまもなく働き続けた。

夜になり、ようやく一段落して皆が休息を取っているとカナリアが秘密裏にシャーリィを呼び出した。いつものことなので特に疑問を抱かずに私室へと向かったシャーリィは、そこでレンゲン母娘との密会に参加する。

「シャーリィ、ここ最近慌ただしかったけれど、ようやくこの時が来たわ。貴女の条件はパーティーへの参加だったわね?」

椅子に腰かけて優雅にシャーリィを迎えたカナリアは、自身の向かいに座るよう促した。つまり、ジョゼの隣である。大切な一人娘の隣に座らせる。これがどれ程の信頼を得てい証となるか分からないシャーリィでなかった。

「はい、お姉様。対価としては充分な働きをご覧にいただけたと自負していますよ」

「もちろんよ、シャーリィ。貴女がパーティーに参加するのは規定事項だわ。ただし、当初の予定とは少し変えるわよ」

「と言いますと?」

使用人の一人として参加する。

それが当初の予定ではあったが。

「第二案を採用することにしたの。貴女には私の身内としてパーティーに参加してもらうわ」

「それは……。」

シャーリィとしても考えていた案であり、カナリアと話し合ったこともある。ただ、少しでも目立たないようにするため使用人として参加する案が採用された経緯がある。

「情勢が変化したわ。今回の騒ぎの裏には間違いなくマンダイン公爵家が居る。あの狸親父にこんな真似は出来ない。間違いなく令嬢の仕業よ」

「フェルーシア……」

幼い頃の社交界で何度も対立した公爵令嬢を思い出して、シャーリィは表情を歪める。

当時から色々と腹黒い一面があった彼女も今では自分と同じ十九歳。第二皇子との婚約もあり巨大な権力を持つ彼女の存在は、シャーリィにとっても非常に厄介だからだ。

「更に言えば、つい先ほど通達が来たのよ。パーティー会場には最小限の使用人のみ連れていける。うちだと、筆頭従士と……セレスティンの二人が限界なのよね」

「嫌らしい通達ですね、護衛すら駄目なのですか?」

「駄目よ。けれど、参加したいのよね?」

「ええ、東部閥には間違いなくあの日の真相を知る人間が居ますからね。流石に尻尾を見せることは無いでしょうけど」

「なら、頑張りなさい。貴女は今からシャーロットよ。私の身内で、ジョゼの妹分ね」

「「はい??」」

カナリアの言葉に、シャーリィとジョセフィーヌは二人揃って首をかしげた。

「私は重鎮達の相手をしないといけないから、ジョゼの側に居るのは難しいのよ。かといって、この子も社交界に慣れている訳じゃないわ」

「だから私を?」

「背丈も低いし、ちょうど良いわ。シャーリィにならジョゼを任せられる」

小柄なシャーリィは、十九歳でありながら十五歳になるジョセフィーヌより小柄である。確かに妹分とするにはちょうど良い。

「つまり、ジョゼを悪い虫から守りつつ情報を集めろと」

「そう言うことよ。お願いできるかしら?」

「これは別料金ですよ、お姉様」

「あら、身内なんだからサービスしてくれないの?」

「お姉様相手にサービス?そんな恐ろしい真似出来る筈もありませんよ。だって、とんでもないタダ働きをさせられてしまいますから」

「あらあら、強かになったじゃない」

「お姉様には敵いませんよ」

笑みを深める二人の間で右往左往するジョセフィーヌ。その様子を見守っていたレイミは、腹黒二人に挟まれた哀れな妹分にそっと激励の念を飛ばすのだった。

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