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「なんだ? レト王子は、肉が嫌いなのか?」
「僕の国では、肉を食べないんだ。
動物を大切にしているから狩猟も禁止されている」
「動物が大切なのはオレの国も一緒だ。
尊い命を頂くから、彼らのために祈りを捧げている。
ノウサ様は、神といわれている動物だから何匹いても絶対に食べないけどな」
「ぐぅ……」
「この耳の長い動物はノウサ様っていうんだ。
初めて見るけど、可愛い寝姿をするね。
僕の国では、馬が神とされているよ。
今は絶滅寸前でね。
馬という動物の名前が人の記憶から途絶えないように、僕は自分の相棒を馬と呼んでいる」
「足が速そうな生き物が、いつの間にか戦場で消えたと思いきや、そういう理由があったとは。
まっ、グリーンホライズンの人間の走力も侮れないがな」
「クレナイノレーヴェンの戦闘力には圧倒されると聞いていたけどね」
「略してクレヴェンな。
もうすぐ王になるオレが国の名をそう変えたんだ。
世界地図でも、そう書かれるようになるだろうな」
「国の名前が少し変わるだけでも、歴史に影響することだよね。……すごいな。
僕は国のために何もできてないから尊敬するよ」
「ハハハッ。意外と考えが似ているところがあるのかもな。
……かけらに興味を持つところも」
「まさか、セツナ王子もかけらに……!?」
和やかな雰囲気になろうとしていたところだったのに、私の名前が出てきてからふたりの王子の表情が曇る。
私がどちらの国に味方しているのか気になるんだろうか……。
そんなことより、今は違う国の王子たちが話し合っている特別な機会。
戦争を止めるために、私も動き出さないといけない。
「王子たちには悪いけど、先にいただきます!」
勇気を出して、この状況を変えるために持ってきてもらった料理を遠慮なく口いっぱいに頬張る。
二人の王子が揉めないように食事の話題に切り替える作戦。
「いい匂いがするし、美味しいね」
こんがりと焼かれた肉の後にパイナップルと同じ見た目をした甘酸っぱい果物を食べてみると、油っぽさが消えてさっぱりとした味になる。
癖になりそうな味だ。
「肉も果物もすぐ食べ終わっちゃいそう。
三人とも早く食べないとなくなっちゃうよ。
レトは、肉がダメなら果物は食べられるかな?」
そう言って勧めると、レトは初めて見るような目をして果物を恐る恐る手に取る。
きっと、この果物はグリーンホライズンにない食べ物なんだろう。
「いっ、いただきます。
……これは、瑞々しくてとても甘いね。
身も心も満たされるような感じがする」
「どれだけ栄養がない物を食っていたんだ?」
「栄養がないわけではないよ。
セツナ王子たちは、グリーンホライズンで採れた野菜であるジャガを食べてみるといい」
「土臭くて石みたいな物体だな……」
レトは自分が寝ていた布団の近くに置いていた袋から、ジャガを取り出した。
洗って切るところまでライさんがやってくれて、お得意のジャガ煮の調理を開始しようとする。
一口サイズで大雑把に切られたじゃがいもを見ていると、ある料理が思い浮かんできた。
「いい考えがある!
レト、私が料理を作っていいかな?」
「分かったよ。かけらがそう言うなら任せる」
「食べても大丈夫な油が欲しいんだけど、クレヴェンにある?」
「肉を焼いた時に落ちる汁を固めた物ならこの小屋にあるぞ。
火を起こす時に使えるからな」
「それは使えるかもしれない。
少し分けてもらえないかな?」
「いいぜ。食べられる物を作ってくれよ」
渡された油は白い色をしていて、触れるとベタベタする。
少し柔らかいけど牛脂に似ていた。
囲炉裏の火力を上げてから鍋の中にその油を置いて溶かし、切られたジャガを炒める。
食事として出された肉を串から取って鍋に入れ、全体に熱が通った感じになったら完成だ。
「肉とジャガ炒め。
グリーンホライズンとクレヴェンの食材を合わせた料理だよ」
「…………」
出来上がった私の料理を見て、三人は眉を八の字にして半分口を開いているだけで、何も言わなかった。
静かになって、ジュウッと焼ける音だけが小屋の中に響き渡る。
「とっ、とにかく食べてみて!
受け入れられるかどうかは、その後に決めて欲しいの。
箸はないから、この空いた串を使って取ってね」
そうお願いしてみると、敵対している三人は顔を見合わせてから私の料理に手を伸ばす。
「動物の肉を使っているから、この料理を食べていいのか判断が難しい。
……でも国を変えるために、他国の文化を知ることも重要だよね。
ジャガだけ食べさせてもらうよ」
「ジャガか……。
ほくほくして甘さもある優しい味だな。
肉と相性も良くて食事のボリュームも増す。これは使えるな」
「悔しいけど、悪くない野菜。
子供も好きそうな味かも」
「これが肉の風味か。
ジャガの土臭さがなくなって香りもいいし、水で煮るよりも食欲が湧いてくるね。
民も喜んでくれそうな気がする」
三人が良い感想を言ってくれて安堵した私も作った料理を食べてみる。
ベーコンやウインナーの代わりに、焼いた肉を使ったジャーマンポテト。
調味料がないから味はシンプルだけど、元の世界で食べていた物に段々近づいている気がした。
「美味しいのは、かけらが作ってくれたおかげでもあるね」
「こんなかたちで、かけらの手料理が食べられるとは思わなかったな。
知っている女性に飯を作ってもらうのが、ここまで美味しいとは」
「出会ったばかりなのに、かけらのことを知っているって言えるんだね」
「それはレト王子も同じだ。
出会ってからまだ両手で数えられるほど、日にちが経ってないんだろ?」
「レト、セツナ。
食材を焼いただけだし、そんなくだらないことで争わないで」
料理を食べ終わった頃に気づいたけど、敵だと思ったセツナとライさんといつの間にか馴染んでいる気がする。
レトも両手を床につけ、背中を少し後ろに倒してリラックスしているように見えた。
まだはっきりと分からないけど、これは良い兆候なのだろうか。
さっきの料理で二つの国の王子の距離が少しでも近づいていたらいいのにな……。
「ふぁあ……。美味い飯を食ったら、眠くなってきた」
「これに塩や調味料があったら、もっと美味しくなるんだけどね」
「塩か……。
海の水を蒸発させて作る白くて細かい粒な」
「セツナ王子は塩を知っているのかい!?」
急に声を張り、前のめりになって囲炉裏の向こう側にいるセツナに問いかけるレト。
「何なんだよ!?
病人なんだから、無理して大きな声を出すなって。
……塩の情報が欲しかったら、かけらと交換な」
「かけらと……!?」
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