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「なんか、海の中にいるみたいだな」
ぽつりと、豆さんがつぶやいた。
外をぼんやりと見ていた私は、思わず勢いよく彼の方を見る。当然ながら豆さんはびっくりした顔をしていた。ごめんなさい。
「え、何か驚かせた?それとも叙情的なオッサンは気持ち悪い?」
「…そういう自虐ネタはいらないですよ」
おじさんにも見えないですから大丈夫です、と補足してあげながらも、今私も同じことを考えていたのでつい、と私の挙動不審の理由を伝える。
「豆さんに思念を読み取られたかと思いました」
「俺そんなことできねぇよ」
「できても不思議じゃないですけどね」
洞察力が優れている彼のことなので、相手の動きや言葉からロジカルに思考を組み立てることは苦じゃないはずで。実際、他のコンサルタントと話をしている時は、会話の途中で相手の意図を察している場面によく出くわす。
「まあそうね。でも弓家さんは結構読むの難しい気がするなあ」
「え、読み取ろうとしてたんですか!?」
「違うわ。日常会話してて、結構反応が読めないなって思うことが多いよ」
「…なんかすいません?」
私が阿呆で、思考回路がはちゃめちゃなんだろうか。
頭が悪くて彼を手間取らせているなら申し訳ないなと謝れば、だからそうやってすぐ謝らないの、と諭すような笑みを浮かべられる。余裕ある笑顔は心に悪い。
特に今日の私の脆い心には劇薬だ。
「それがね、楽しいのよ」
「楽しい…」
「そ。読めないのが、楽しい」
相変わらずの笑みでそんなことを言うから、きっと本心なんだと思いたい。何が彼を楽しくさせているのかわからないけど、楽しいと思ってもらえてるならいいかな…。
心臓がそろそろ痛くなってきたんだけど…心臓って痛みを感じます?
「…それはよかったです」
「はい、そうなんです」
逃げるようにメインディッシュの副菜をフォークでつつけば、ふ、と目の前でかすかな笑い声が聞こえる。今の私には顔をあげる余裕はないので聞こえなかったことにさせてもらおう。
楽しさと、緊張感がないまぜになった夜は楽しい。少しだけお酒に手伝ってもらいながら、無事にデザートまで終えられた。
「ご馳走様でした」
途中で席を立ったわけでもないのにいつの間にか支払いは完了していて、財布を出す隙も与えられなかった。何度もお礼を言えば「何をどうしたら弓家さんに支払わせる世界線があるの」と呆れられた。
「えっとなんでしょう…私がものすごいミスをして、そのお詫びとか?」
「まず弓家さんがミスをする前提が想像つかないね」
再び2人でエレベーターに乗りながら話を続ければ、豆さんが楽しそうに笑う。深海に宝石が散らばっていたような夜景は、エレベーターが地上に向かうにつれて現実的な光に変えられていくから、魔法が解けたようでちょっと虚しくなる。
「本当にありがとうございました」
ラウンジを利用するゲストや宿泊客で少し混雑するロビーを通り抜け、外に出る。ホテルの植栽に等間隔に並べられた間接照明が、まだ熱い空気と艶やかな木々の葉を柔らかく照らしている。
「タクシーですか」
酔って熱が籠った頬には、この湿った風すら気持ちいい。
車寄せで列をなして客を待ち構えるタクシー乗り場に豆さんを送って、私は近くの駅から帰ろう。そんな算段を立てていた。
「んーちょっといい」
何かを思案するような表情になった豆さんは、珍しく煮え切らない言葉で私を誘う。
うめぼっち

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「…なんでしょう?」
「少し歩いていい?」
すぐだから、と。
珍しい誘いもあるもんだな、と少しだけ驚くけれど、もしかしたらタクシーを乗る位置を変えたいのかもしれない。
少しだけでも豆さんと話せる時間が増えるなら、それはどんな理由でもきっと嬉しい。
「もちろんです」
と頷いて歩き始めれば、やっぱりさりげなく私の歩調に合わせてくれる。
思わぬボーナスタイムに、さらにプレゼントを受け取った気分だ。
「歩かせてごめん」
「いえいえ、これぐらい大したことないです。ところでどこへ?」
「オフィス」
「え!?」
流石に予想していなかった答えで、思わず隣を歩く彼を見上げる。確かに彼は酔ってなかったし、もしかしてこれから一仕事するのだろうか。