猪狩徹也たちに稽古をつけるためにカフェからほど近い山下公園に九人で向かっている。美紅たちにもう用はないが、稽古を見たいというからついてくることを許した。
徹也が神妙なことを言い出した。
「総長に稽古をつけていただけるのはうれしいですが、ドレスが汚れてしまわないか心配になります」
「覚えていないのか? 千人の横浜連合と戦ったときも余はドレスを着ていたが、戦いが終わっても泥一つついていなかった。稽古とはいえ、余のドレスを汚すつもりで本気で立ち向かってくるといい」
「ありがとうございます。勝てるとは思っていませんが、本気で挑ませていただきます」
「その心意気だ」
そのとき、短髪で黒服を着た男が余たちの進行方向で腕組みして立っているのに気づいた。行く手を阻んでいるわけでもあるまいとこちらが少し進行方向を変えると、男の方もそれに合わせて立ち位置をずらしてきた。
「あのおっさん、ケンカ売ってるのか?」
徹也はそう言うが、それほどおっさんではない。年上には違いないだろうが、おそらく三十歳にもなっていない。色白の真面目そうな男だ。
徹也たち四人が血相を変えて突進していった。黒服の男は背は高いが、華奢でケンカが強そうにはとても見えない。逃げ出すだろうなと思ったが一向に逃げる様子がない。徹也の手が男の黒ネクタイの根元にかかろうとしたとき、徹也たち四人の姿が一瞬で消えた。
美紅たちは訳が分からないという顔をしているが、余には見えた。徹也たちは黒服の一撃で吹き飛ばされたのだ。四人まとめて。
只者ではない。この男も転生してきた勇者だろうか? 海瀬世羅とタッグを組まれたら面倒なことになりそうだ。
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