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7月の夕方。
空を見上げながら、私はふと紫龍のことを考えていた。
その姿が本当に見えるわけではない。
けれど、どこか遠い空の向こうを、大きな龍がゆっくりと飛んでいるような気がした。
すると――
ジジジジジ……
静かだった空気の中で、蝉たちが鳴き始める。
まるで「ここにいるよ」と知らせるように。
木々の間から聞こえる声は、一匹ではなく何匹も重なり合い、夏の訪れを告げていた。
私は立ち止まり、その音に耳を澄ませた。
その時だった。
時計を見ると、17時30分。
「カァー」
どこからか、一羽のカラスが鳴いた。
続いてもう一声。
「カァー」
夕日に染まる空を横切りながら、カラスはゆっくりと飛んでいく。
その姿を見つめていると、不思議と胸の奥が静かになった。
蝉の声。
カラスの声。
風の音。
それらが重なり合い、まるで紫龍が言葉ではなく自然の音で語りかけているようだった。
『夏が来るよ』
『今日も一日、おつかれさま』
そんな声が聞こえた気がした。
紫龍は姿を見せない。
けれど、蝉の鳴き声の中に。
夕方のカラスの声の中に。
そして、空を見上げた時の懐かしい感覚の中に。
静かに存在しているのかもしれない。