ナオト(『第二形態』になった副作用で身長が百三十センチになってしまった主人公)が外に出ようとした時、フィア(四大天使の遺伝子を持つナオトの守護天使)がそれを止めた。
「ナオト様。こんな大雨の中、どこに行くおつもりですか? まさか、この雨を降らせているモンスターのところに行って『お願いだから、もう雨を降らせないでくれ!』なんてことを言おうとしているわけではありませんよね?」
「うっ、そ、それは……」
「どうやら図星のようですね」
「ああ、そうだよ。お前の言う通りだよ。けど、俺はこの雨がずっと止まないような気がするんだ」
「止まない雨はありません。もし、あるのなら、とっくにこの世界は雨水に支配されています」
「それだよ、フィア。もし、それが狙いでこの雨を降らせているとしたら、誰かが止めるべきだろ?」
「その誰かになるおつもりなんですね」
「そ、そうだよ、悪いかよ」
「いえ、一人の命で解決できるのであれば、喜んで自分の命を差し出そうという考えはとても良いものだと思います。しかし、ナオト様がいなくなった世界で生き続けることが困難になる者《もの》たちがたくさんいます。それを理解していないのでしたら、私は全力でナオト様を止めます」
相手は俺が受精卵の頃から、俺のそばにいる守護天使であり、四大天使の遺伝子を持っているチート天使だ。
俺の中にある蛇神《じゃしん》の心臓の力か鎖《くさり》の力を使えば突破するのは容易《たやす》い。
けど、そんなことをすればフィアを殺してしまうかもしれない。
それにそんなことをすれば、他のみんなが襲いかかってくる。
とあるアパートの一室でモンスターチルドレンやハーフエルフの相手をできるほど、俺は器用じゃない。
さて、どうしたものかな。
「そこを退《ど》いてくれ、フィア。お前は俺の守護天使なんだから、俺が何をしようと監視してるだけでいいはずだろ? だから、頼む。行かせてくれ」
「少し前の私なら、ナオト様を止めはしなかったでしようが、今は違います。だって、本来の守護天使には不可能な守護対象に干渉できるのですから」
「そうか。なら、仕方ないな」
彼はこの部屋から出るために彼女の額《ひたい》にずつきをしようとした。
しかし、それをする前に彼は彼女に抱きしめられてしまった。
全《まった》く身動きが取れないほど、強く……強く抱きしめられた。
「離せ! フィア! 俺を止めないでくれ!」
「ここで止めなかったら、私はきっと一生後悔します。それに、みなさんに恨《うら》まれながら生きていける自信もありません」
「俺は別に死にに行くつもりなんてねえよ!」
「その気がなくても、最悪の事態に陥《おちい》る可能性はあります。なので、私は全力でナオト様を止めます」
「わ、分かった! 分かったよ! 外に出るのはやめるから離してくれ! 骨が折れる!」
「ナオト様の体は骨が折れても、すぐに再生しますし、心臓を貫いても貫いた物体を養分にして、修復してしまいます。なので、私はしばらくこのままでいることにします」
「そ、そんなー!」
別に彼女が彼を抱きしめたかったからではない。
本気で彼を止めるために、こんなことをした……のだと思う。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!