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何も、あえて言葉にしなくても、行動で気持ちを伝えた方が本当の想いが伝わるだろうと、この胸に抱きしめようと思った。
「……何をするつもりだ?」
けど、体格差的に、そのまま抱きしめても良い位置にならない。
なので、ちょうど魔王さまは足をガッと開いて座られているので……その間に私が膝立ちになって、魔王さまを抱きしめると――。
私の胸に、魔王さまのお顔が来る。
「急にどうしたんだ」
魔王さまはきょとんとしているみたいだけれど、私は、なんだか母性がくすぐられて、甘えるのとは違った甘々な感情が芽生えてゆく。
「魔王さま……どうですか? 気分が落ち着きませんか?」
魔王さまのために抱きしめているのに、私は私で、幸せな気持ちになっていく。
この人を支えるんだ、という気持ちも、もちろん強くなっているけれど。
「なんだ。胸を舐めて欲しいのかと思ったじゃないか。違うのか?」
なぜかおっぱいを揉まれているなぁ……とは、思っていたけれど。
「ちち、ちがいますよぉ!」
大きく首を振って抗議したものの、他に良い手段が思いつかない。
「もっとこう、私の愛を感じ取ってください。その……魔王さまを、お慰めしたいんです。私」
「ほおぉ? サラ、お前」
その声のトーンは、何かイジワルを思い付いた時のものだ。
「は、はい」
「俺の昔話なんかを、誰かに聞いたな」
「うっ……」
――どうしてバレたんだろう?
「何をどこまで聞いた」
少し、怒ってらっしゃるかもしれない。
私の胸を揉む手を止めて、その大きな手で私の首根っこを掴むと――。
しがみつく仔猫を引き剥がすかのように私を引っぺがして、元の隣に座らせた。
これは、本気で怒られる前に正直に言わなくてはいけない。
「えっと……。魔王さまがお小さい時に村が……襲撃されて。そこからお逃げになれたことと。そのあと、たくさん苦労されて、お強くなられて……戦でご活躍されたことです。それで、魔王になったと」
魔王さまは、その手を私の頭の上に置くと、ぽんぽんと軽くたたく。
「……爺に聞いたか」
「は、はい。すみません、でも、魔王さまには直接聞けなくて」
恐る恐る横目で見ると、魔王さまはさも、「困った奴め」という顔をしていた。
「しょうがないから許してやる。だが、勝手に俺の過去を他人に聞いた罪……償ってもらおうか」
「ご、ごめんなさい。なんでもしますから――」
とっさにそう謝ってしまった後で、魔王さまがとても悪い笑みを浮かべていることに気付いてしまった。
――ああ、これ。
「ほお? 殊勝な事だな。その体で償わせるつもりだが、まさか、それを期待しているわけじゃあるまいな」
なんかすごいことさせられるやつ……。
「ち、ちがっ――」
でももう、手遅れだ。
私はすでに押し倒されて、逃げられないように腕を掴まれている。
別に、本気で逃げようとしたことなんて一度もないけれど……。
本能的に、逃げたくなる不安や恐怖というのは、往々にしてあるわけで、それをさえさせないという、私の本能まで捕らえたという印だった。
それは例えば、自分の体なのに、知らない反応を引き起こされる時なんかが当てはまる。
「次からは、俺の事は俺に聞け。なんでも教えてやる。お前にならな」
「え、い、いいんですか?」
えも知れぬ身の危険に緊張していたところに、意外な言葉を聞いて、ホッとしてしまった。
今の魔王さまは――油断なんて、してはいけない笑みを浮かべたままだというのに。
「だが、その度に今日の事を償わせてやろう。最初に俺に聞かなかった罰だ」
「や、そんなのズルぃです――んン~ッ」
で、結局――。
いつものように明け方まで、散々に鳴かされたあげく。
さらに、いつもと違う方を弄ばれ、いじめぬかれた。
ようやく全てが終わった後、私はなんだか……大切なものを奪われた感で呆然としていた。
――私って、どっちでもイイんだ…………という、最後の自尊心を奪われて。
「え、まって。これ、私が悪いとかだっけ……?」
魔王さまが、満足したのか私の頭を撫でてから、寝室を出て行った後のこと。
……頭がボ~っとしていて、しかもぐるぐると、破けた薄っぺらい自尊心もまだ思考の奥で回っていて、うまく考えられずにいる。
そんな感傷にも似た想いの中で私は、魔王さまはやっぱり、『魔王』なんだなと、呆けながら思っていた。
優しくても、欲望には忠実なところとか。
私をいじめて嬉しそうに微笑む嗜虐性とか。
だけど最後にはまた優しくして、心も奪っていくところとか。
「わるい人……」
というか、結局のところは、どうするんだっけ。
人間に……商工会ギルドの会長に、魔王さまはお会いになるんだろうか。