テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
第8話:親友からの誘い
若井side
バイトを終え、バックヤードで着替えをしていると、スマホが震えた。
画面には、親友である元貴からのLINE。 「今から駅前のカフェ、来い。話がある」いつもながら突然で、少し面倒に思いながらも、俺はすぐに返信した。
元貴に呼び出されるときは、大体ロクな話ではないか、あるいは本当に重要なことのどちらかだ。
カフェに着くと、元貴はすでに窓際の席に座っていた。
いつもと変わらない、少し不思議な雰囲気をまとい、俺がくるのを待っていた。
「よ。わざわざ呼び出して、どうしたんだよ」
俺が向かいの席に座ると、元貴は何も言わず、俺の目の前にLINEの画面が開いてあるスマホを置いた。
「これ、綾華から」
元貴の言葉に、俺は眉をひそめた。
「は?綾華って、誰だよ」
「涼架の友達って言えばわかるよな。お前が素っ気ない態度取って、泣かせそうになった子の親友だよ」
元貴の口から涼架の名前が出た瞬間、俺の心臓は跳ね上がった。
「…なんで、お前がそのこと知ってんだよ」
俺は努めて冷静を装ったが、声が少し震えたのを自覚した。
「俺、綾華とクラス一緒なんだよ。お前、夏祭りの誘い断ったんだろ?しかも、なんで?なんて聞いて、向こうめちゃくちゃ落ち込ませたって」
元貴の言葉は、俺の行動を正確に言い当てていた。
俺は、言い訳することもできず、ただ俯いた。
「…断ったってか、忙しいって言っただけだ」
「ああ、そうかよ。でも涼架にはそう聞こえなかったんだよ。あいつは、勇気出して、バイト先に来たんだろ?」
元貴は、俺の目を真っ直ぐ見つめてきた。
その瞳には、いつものふざけた調子じゃなく、真剣な光が宿っていた。
「おい、若井。お前、いつまでそんな不器用な狼を演じてるつもりだ?せっかく向こうが気持ちを向けてくれてるのに、全部怖がって遠ざけて。お前、屋上であったっていう涼架のこと、本当は気になってんだろ?」
「うるせぇ…」
俺の喉から出たのは、それだけの言葉だった。
図星だったからだ。涼架の静かな視線、彼女の描く絵、そして彼女が口にした「胸の奥がぎゅってなる音」という感想。
全部が俺の心を占めていた。
「なぁ、若井。お前はさ、『強い狼のように振る舞いたい』って思ってるかもしれないけど、俺からしたら、ただの臆病者だぜ。こんなんじゃ、いつか本当に後悔するぞ」
元貴の言葉は、俺の胸に強く突き刺さった。
「…分かってるよ。俺だってあんな言い方したかったわけじゃねぇ。ただ、急すぎて、どうしたらいいか…」
「そうだろうな。だから今回は、俺と綾華も一緒だ」
「は…?」
俺は顔を上げた。元貴は、少しだけ得意げに笑っている。
「だから、お前、夏祭り行けよ。俺と綾華と、お前と涼架の四人で。そうすれば、お前も二人きりじゃなくて安心するだろ?もしなんかあったら、俺が全部フォローしてやるから」
元貴の提案は、まさに俺の不器用さを完璧にカバーするものだった。
二人きりになるプレッシャーがない。そして、元貴という親友が隣にいてくれる安心感。
「…なんでそこまで、すんだよ」
俺は、元貴の優しさに戸惑いを隠せない。
「当たり前だろ!お前のたった一人の親友だからな。それに、涼架も綾華もいい奴だし。お前が、ちゃんと恋をする姿、俺が見てやりたいんだよ」
元貴はそう言って、俺の肩を力強く叩いた。
「…分かったよ。行く。夏祭り」
元貴は満面の笑みを浮かべた。
「よし!決まり!じゃあ、当日楽しみにしてるぜ、な、『狼』さん」
俺は、元貴の軽口に小さく笑った。
この夏、俺が一人で演じていた「狼」は、もう終わりにしよう。
今は、親友の助けを借りて、勇気を出して一歩踏み出す時だ。
次回予告
[嬉しい報告]
next→❤︎500
コメント
3件
元貴〜!(泣)みんないい人!
まじで神作作ってくれてありがとう…
この後が楽しみすぎる!