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PM11:18。自分の吐息で湿った液晶に映るその時刻は、僕の乾いた脳をアドレナリンで潤した。スマホをパジャマのポケットの下に滑らせ、布団の外の空気を存分に吸い込む。周囲を一瞥するが、先ほどまでスマホを眺めていた暗順応していない眼には、黒色のノイズしか見えなかった。
布団に横になり、ずらすように重い毛布を身体から剥がしてゆく。母親の居る布団の奥にはもっさりとした妹の像がありこちらが時間通りに起きてくるか、足手纏いにならないか観察していたようだ。
四つん這いになり冷えたフローリングに手をつき、胸に重心がかかるのが分かった。敷布団の端をまさぐりながら襖へ直進してゆく、妹は襖の斜め前で目を擦っていた。妹に手で合図をし、覚悟を決め襖の引き手に手を掛ける。妹を先に出させ、40cmほどの隙間に身体を滑らせて寝室から抜け出し、2階の踊り場に出た。
セピア色の無機質な蛍光灯の光が、先ほど暗順応したばかりの網膜を突き刺す。階段にゆっくりと足を乗せ、妹もそれに続いた。階段の中央にある縦に建て付けられた手すりは、体重をかけても音が鳴らない。という知識は、前に幾度となく繰り返した夜更かしの産物である。
慎重に抜き足差し足で歩みを進めていくうち何度か大きい音が鳴ったが、運良く母親に気付かれずに二人で一階の廊下へ到達する事が出来た。もうあとはリビングに行って目的のテレビ番組を観るだけだ。
三時間の間二枚の毛布に覆いかぶされ、中でスマホを眺めて暇を潰すというような苦悶の末、リビングに着いた。壁に掛かったアナログ時計は12時2分を指していた。リモコンを片手にテレビの電源ボタンを恐る恐る押し「ガション」と鈍いような軽いような音がし、テレビに電源が通る音がした。画面にはしばしの沈黙が流れた、すぐさま音量-のボタンを連打する。
僕は安堵し、ソファに腰を掛けた。
けたたましい呼び声が2階から聞こえ。母国語混じりの金切り声は、恐怖よりも諦めや空虚感を煽っていた。時計を見ると、驚きではないが午前2時を回っていた。とっくに目的の番組は終わっているが、二人はリビングに居た。
自分はテレビ番組が観たかったのではなく、リビングに降りてスマホをいじる口実が欲しかったのだろう。