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家を出てからおふくろや親父から何度も着信はあるが電話にはでなかった。
着信拒否をするまで関係を切りきれず、憎んでいるのに憎み切れない。なにかとても中途半端であることはわかっているし、あいつと同列にならないためにじいさんの養子に入ることを考えているが、まだ踏みきれずにいる。
このマンションで瞳と過ごすことだけが俺にとっての安らぎになっていた。
そんな中、町田事業所のAさんから聞いた話に愕然となった。
「愛人社員さんに死亡退職金がでたんだけど」
就業実態のない社員。
たしか
「三島貴江だっけ」
「そう、その人。いったい誰の愛人だったんだろう?給与の六ヶ月分でてたから手切れ金とかかな?うらやましい」
心の中で、三島亮二の母親そして親父の愛人だよと答えて気分が悪くなった。
親父は俺も会社も裏切っていた。
じいさんに頼りすぎるのも良くないとは思うが、今の俺にはまだ何の力もない。
俺が会社に入る頃にこのデータが消される可能性がある。だからいつかの為に備えるため、じいさんに頼んで三島貴江のデータを全て揃えてもらうことにした。
スマホに着信が入り通知を見ると“フミさん”だ。
親父かおふくろに頼まれたんだろうか?
かと言って無視するわけにはいかず電話に出た。
『お坊ちゃまお久しぶりです』
子供の頃からずっとあの家で働いてくれているから俺はフミさんにとってはいつまでも子供のままなのかもしれない。ちょっとこそばゆい気持ちになる。
「お元気でしたか」
『ありがとうございます。元気でやらせていただいてます』
「ところでどうかしましたか?」
『実は、ハマダマオさんという方がいらっしゃいまして、坊ちゃんを出せと門のところで少し騒ぎになりまして。外出していると伝えてもまったく言うことを聞いてもらえなかったので警備会社へ連絡をして連れていってもらいました。それでお坊ちゃまには伝えておいた方がいいと思いまして』
マオが家に行ったのか。
「迷惑を掛けてすみません」
『だれもいらっしゃらない時でしたので、旦那様も奥様も亮二さまもこのことは知りません』
面倒な事にならなくてよかった。
「助かります。いつも本当にありがとう」
『わたしでは何のお力にはならないでしょうが、何かありましたらいつでも連絡をしてくださいね』
親父やおふくろには言わないでくれていたんだ。
女を連れ込んでいた時も、おふくろに追求された時以外は何も言わないでいてくれた。
「なにかあったら相談にのってもらいます
『甲斐家のお坊っちゃまはお坊っちゃまだけです。それでは』
あの家の中でフミさんだけが俺を心配してくれていたんだ。
血のつながりなんて些細な事なのかもしれない。
マオは俺があの家にいると思っているということは、一人暮らしをしているのは知られていないのだろう。
なんにしても異常だ。
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