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僕は机の上に寝そべっていた。
その態勢のまま僕は、怠惰な僕は億劫に黒板を眺める。
そこには、さも当然の如く先生がいて、何かを書き連ねている。
ああ、あれは確か平家物語の一節だったはずだ。
「祇園精舎の鐘のこえ、諸行無常の響きあり。
沙羅双樹の花のいろ、盛者必衰の理をあらわす」
その言葉の意味がわかっている人は、今こう、例え僕と同じように緩慢に聞いていたとしても、僕とは違いそれは自分には当てはまらないなどと嘲笑でもしているのだろうか。
残念ながら僕はそんなに他人事のようにはなれない。
じゃあ君たちが若し100年後には全員死んで、或いは夭折するかも知れず、そして死んだ後は子供が代を重ねれば重ねるほど忘れられると、或いは子供などいず、一代で絶すると言われて何かを頑張れるだろうか。
僕は頑張れない。
ニヒルに笑って「ああ、そうだね。その通りだ。世界は僕など必要としちゃいない。世界に必要なのは、せいぜいこの我が身に豊富に蓄えられた栄養だけだろう」としか答えられない。
僕の存在証明は世界が担保してくれない。
だったら何を頑張る必要があるだろうか。
刹那主義に生きるのが、最善の選択なのではないだろうか。
「烏間くん」
そんな時、後ろから呼ばれた。
背中にはソフトタッチなシャーペンの先の感触がする。
やれやれ、またあいつか。
面倒なやつだ。
なぜならこれで起き上がらないと授業内容の確認と称して僕をカフェに連れ込むのだから。
僕の放課後は生憎のんびりするということで埋まっていてね。
ここは無視してドナドナされるよりも素直に起き上がるのが吉ってもんだ。
なに。
僕は後ろを振り向いた。
そこには麗艶な黒髪を後ろで束ね、くりりと丸い目を瞬かせ、薄い唇の、端正な顔立ちをした少女がいた。
名前は確か三枝だったはずだ。
下の名前も何回か言われた気がするが、忘れてしまった。
「今寝てなかった?」
彼女は、僕が寝ている態勢になっていることを知りながら尚も、意地悪く微笑むと僕を試すかのような質問をしてくる。
生憎それに乗ってキャッキャと高校生らしくはしゃぐつもりはない。
寝ていたよ。だってつまらないんだもの。
「へぇ、随分と余裕があるじゃん。万年赤点すれすれの烏間くん」
それとこれとは別でしょ。だってテストでいい点を取っても取らなくても授業のつまらなさは変わらないんだから。
「そうやって屁理屈ばっか言う」
ここで最後の詰めをしたかったが、これ以上言うと先生の耳目に入り、そりゃあ閻魔様もびっくりな鬼の顔で怒鳴られるので、前を向いた。
ここでまた寝てしまえば、三枝という魔女にドナドナされてしまうので、重い瞼を上げ、先生の話に聞き入った。