結論から言うと僕の企み、三枝にドナドナされないように授業をさも聞いているようにすると言う試みは失敗に終わった。
三枝は授業態度如何に関わらず僕をカフェへ連れて行ったのだから。
やれやれ、本当はそんなことよしてほしいのだが。
例えホワイトモカが僕の趣向に合って、また、手頃だからと言ったって、貧乏な高校生には手痛い出費であることは変わりないのだから。
それにーー
僕は店員さんの方を一瞥する。
そこにはさも訳ありげに微笑む店員がいた。
なまじりには僕たちを捉えている。
僕としては店員さんのこの視線も辛いのだ。
なんで平凡な僕が大の大人、若しくは大学生からまるで世界の神秘のようにみられないといけないのか。
僕をみたとしてもあるのは、例えば平均的な男子生徒が見えるだけで、店員さんの瞳の奥にあるような神秘などないだろう。
「何を惚けているの」
前を向くと、そこには膨れっ面の三枝がいた。
何、大人なお姉さんに見惚れていただけだよ。
僕は肩をすくめて見せる。
「ふーん、落ち着いた雰囲気がいいんだ」
彼女は不機嫌そうに目を背けるとラテを飲み干した。
で、今日は何をするんだ。
「知らなーい」
おいおい、冗談言ってくれるなよ。君が僕を連れ出したんだから。
「私のようなキャピキャピした子は馬鹿だからそんなことすぐ忘れちゃうもん。なんならあの大人っぽい雰囲気の人に教えて貰えば?」
三枝はこちらを一瞥すると、目を不機嫌そうに細め、再度外方を向いてストローを噛んだ。
やれやれ、僕はいつから彼女のご機嫌取りまでしなくちゃならない奴になったんだ。
それをするのは三枝の彼氏の筈で、三枝の心など皆目見当がつかない僕では力不足であるのだが。
僕は一つため息をすると、腕時計を見る。
この腕時計は両親に誕生日プレゼントとして買ってもらって、電波式だから云々。
僕の腕時計自慢は置いておいて、時間ならまだあるから僕は三枝にこう尋ねた。
何か買う?
僕は顎で近くのショッピングモールを指す。
「そうこなくっちゃ」
三枝は俄に目に輝きを取り戻すと、僕の手を引いて猛スピードでショッピングモールに向かった。
そう、こうすれば何故か彼女の機嫌は治るのだ。
だったらこれからは逡巡せずにこうすればいいだって?
いいや、これにはちゃんと犠牲も払わなくっちゃならないのさ。
それは何か。
僕ののんびりする時間が減ると言うことだ。
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