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「はじめまして、マリアです」
あいさつをされて、「は、はじめまして……」と、ややうろたえつつ返した。
「若社長には、いつもごひいきにしてもらっていて。それで外で会った時に声をかけさせていただいたんだけど、どうやらそれが彼女さんに勘違いをさせちゃったみたいだからって、そう聞かされて……ごめんなさいね」
水割りを作りながら話す彼女に、やっと合点がいく。
「そ、そうだったんですね……。彼が何にも言ってくれずに、急にここに連れて来られたから、最初はよくわからなくて……」
貴仁さんに限って……とは思っていたけれど、ようやく自らの取り越し苦労だったことが知れて、ほぅーっと安堵のため息をこぼすと、
「……まぁ」と、彼女が驚いたような一声を発した。
「若社長ったら、彼女を黙ってここに連れて来たの? 女性のことはもっと考えてあげないとって、いつも話してるのに」と、喋って、「ねっ、彼女さんもそう思うでしょ?」と、クスリと微笑んで見せた。
「えっ、ええ」と、釣られるように頷くと、いつの間にか気持ちが和んでくるのが感じられた。
「乾杯、しましょ? 三人で」
グラスを互いに合わせると、
「若社長、こういう場はいくらビジネスでよく使うからと言っても、女性のお客さまはそうは行き慣れないところなんだから、ちゃんと事前に話さなきゃダメなのよ?」
マリアさんが軽くたしなめるようにも話して、
「ああ、うん、そうだったのか……。行けば事足りるだろうと思っていてな……すまない」
なんだかたじたじな貴仁さんに、私も肩の力が抜け思わず頬を緩ませた。
「可愛らしい方ね」
高級クラブのホステスである華やかな装いの彼女から、にっこりと笑いかけられて、少しばかり恐縮していると、
「ああ、とても可愛くて。私の自慢の婚約者だ」
なんて貴仁さんが口にして、それこそ顔から火が出るんじゃないかと思った。