コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
──彼の携帯が鳴り、
「少し電話をしてくるから」
と、席を外した。
すると、マリアさんから、
「彩花さん、突然のことで驚かせたかと思うけれど、あの時は本当にごめんなさいね、誤解させるようなことをしてしまって」
そう言って、再び頭を下げられた。
「いいえ、そんな……もう謝られないでください。マリアさんのことを知れてよかったなって、私も思ってるので」
「ありがとう」
私の答えに、彼女が柔らかな微笑みを口元にたたえる。
その優しげな笑顔を見ていたら、もしかして彼にアドバイスをした、曰く”その道のプロの女性”って、彼女のことなんじゃないのかなと感じた。
フロアの方を窺ってみるも、まだ彼が戻る気配はなさそうで、「あの……」と、思い切って訊ねてみた。
「何かしら?」
「あのもしかして、貴仁さんに以前にアドバイスをされた方は、マリアさんだったのでは?」
いただいた名刺にある、『橘マリア』という名前に、ふと目を落とすと、半ば確信めいた思いが湧いた。
「ええ、そうなの……」と、彼女がやや申し訳なさそうにも頷く。
「私の答えのせいで、あなたにもご迷惑をかけちゃったみたいで」
「ああ、いえ!」と、首を横に振って返す。
「確かに最初はなんてぶっきらぼうな人でとも思ったんですが、初めのそういう無愛想な風があったんで、後で彼の率直な気持ちがわかった時に、逆にその落差に惹かれてしまったと言うか……」
自分でも何をまたのろけてとは感じたけれど、彼女と話していると、不思議と何でも打ち明けられそうで、貴仁さんもそんな気持ちだったのかなと思えた。
「そう、よかった……」ホッとしたように、マリアさんが口にする。
「若社長の方から、突然に『どういう男性が好みで』なんていうことを聞かれたから、普段はそういうことを気にされる方でもないのに、もしかしたら誰かいい人が……とも感じて、一つだけ忠告をしておいたのだけれど」
「忠告を、ですか?」
何だろうと思い聞き返した私に、
「あまり気負わずに、飾り気のないありのままの姿で、その女性に接するのが一番大切だからって」
マリアさんが言って、
「私が話したことは、彼にはないしょね」
艶やかなルージュの引かれた唇に、シーッと人差し指を当てた。
(ああ、だから三度目のパーティーの時には、彼は私に正直な思いを明かしてくれたんだ)
そう気づくと、思わずクスリと笑みがこぼれた。
「二人だけでも、乾杯しましょうか?」
「はい、喜んで!」
カチンとグラスを合わせると、
「彼とは順調かしら?」
そうマリアさんから問いかけられた。
「ええ、はい」
女性の私から見ても、とても綺麗な人で、そばに寄られただけでもちょっと照れくさく感じる。
「そう、よかった。彼は女性経験があまりないみたいで、時々少しだけ女の子のあしらいが上手くなくてということもあるようだけど、そういうところも含めて受け入れてあげてね」
「それは、もちろんです!」
勢い込んで言い、
「貴仁さんのそんなところも、可愛くって好きで……あっ……」
そこまで喋って、自分はどれだけのろけていてと赤面をした。
「ふふ、彼の方もあなたの可愛らしいところが好きって言ってたから、本当に好き合っているのね」
彼女が、作り直した水割りを私に手渡して、
「若社長を見ているとわかるわ。どんなにあなたのことを愛しているのかが」
柔らかい笑みを向けた。
「ありがとうございます」
お礼を伝えると、
「お二人で、お幸せにね」
彼女から祝福の言葉が投げかけられ、胸がいっぱいになった。