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夜が近づき、校舎の色合いがゆっくりと変わり始めていた。夕食を終えたリンクは、食堂の出口に向かう。
騒がしさは背後に置き去りにし、足取りは変えない。
もう、この時間帯に“何も起きない”とは思っていなかった。
扉を出た瞬間、
軒下の空気が、わずかに歪む。
(……来る)
視線を上げた、その直後。
屋根の一部が、音もなく外れ、落下してきた。
リンクは跳ばない。
避けない。
――ビタロック。
落下途中の屋根が、
空中で止まる。
時間が引き伸ばされ、
リンクは歩調を一歩だけずらす。
次の瞬間、
拘束が解け、
屋根は地面に叩きつけられた。
周囲の生徒が息を呑む。
「な、何今の……」
「危なかった……」
リンクは振り返らず、
そのまま廊下へ入った。
(仕込みが雑だ)
廊下は、いつもより静かだった。
半分だけ開いたロッカー。
中は暗く、
誰も気に留めない配置。
だが、
リンクの歩幅が、半拍だけ変わる。
ロッカーの奥で、
張力が解放される音。
輪ゴムで組まれた簡易装置が作動し、
コンパスが弾き出される。
一直線。
胸元を狙った軌道。
リンクは、背中の盾を引き寄せる。
――ハイリアの盾。
ジャストガード。
甲高い音とともに、
コンパスは弾かれ、
床を転がって止まった。
「今の……飛んできた?」
「誰かの悪戯?」
リンクは、盾を元の位置に戻し、
歩き続ける。
階段の踊り場。
足音が近づく。
「――あっ」
教員が、
不自然なほど大きくよろけ、
リンクの進路に倒れ込んできた。
視線が合う。
一瞬だけ、
指先に 毒針。
リンクの腕に、
浅く触れる。
だが、
何も起きない。
表情も、変わらない。
「大丈夫ですか?」
リンクが声をかける。
教員は、
言葉に詰まり、
曖昧に笑って立ち去った。
「俺には効かないな」
リンクは腕を一度だけ振り、
そのまま歩を進める。
やっと、
教室に戻ってきた。
扉を閉め、
人気のない空間で、
リンクはようやく立ち止まる。
静かに、
初めてこの世界で怪我した自分の状態を確認する。そして、気づく。
もともと38個あったハートの器。
――今は3つ。
(……減っている)
がんばりゲージは、
以前と変わらず、最大。
だが、
ハートの器は、明らかに固定されている。
(この世界に入った時点で、「 設定」された……か)
残りは、
二つと、四分の三。
さっきの毒針の針のダメージ。
致命ではない。
かすり傷の範囲。
リンクは、
小さく息を吐く。
「……服の強化に協力してくれた
大妖精やゼルダに、感謝しなければならないな」
独り言は、
誰にも聞かれない。
そもそも。
ハート三つの時点で、
リンクは異常な存在だった。
鍛え抜かれた身体。
強化された装備。
積み重ねられた経験。
この学校の“暗殺”では、
手を付けられない。
「それでも、削ろうとはしてくるだろうな。
どんぐりを食べたリンクは、
教室を出た。
寄り道だ。
罠は、増えるだろう。
教師たちも、焦っている。
だが、
問題はない。
通路を進みながら、
シーカーストーンを起動する。
《リンク?無事?》
ゼルダの文字が浮かぶ。
『全く問題ない。
暗殺は続いているが、致命には至らない』
《……数が増えているのですね?》
『ああ。 だから、不意を突かれる前に、通路を把握する』
リンクは歩きながら、
校舎の構造を頭に入れていく。
行き止まり。
視界の悪い角。
高所と死角。
『この世界、 ハートの器が固定されている可能性がある』
《……それは》
『がんばりは減っていない。今回の罠は 戦闘より、“生活”を削る構造だ』
文字が、一瞬止まる。
《気をつけて。 それは……》
『分かっている』
リンクは、
通路の先を見据える。
暗殺は、
夜まで続くだろう。
だが、
それ以上に気になるのは――
…昨晩、
耳に届いた、あの気配。
(……まだ、来ない)
教室泊の時間が近づく。
エンゲルと、
バブルと合流するまで。
リンクは歩みを止めない。
この学校全体を、
把握するつもりだった。
敵が、
どこから来るのか。
そして――
教師ではない“何か”が、
どこで蠢いているのかを。