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通路確認は、もはや作業に近かった。リンクは校舎内を進みながら、
床の継ぎ目、天井の影、空気の流れを一つずつ拾っていく。
同時に、シーカーストーンの画面に意識を割く。
《リンク。位置は把握しています 。通路の確認と報告を続けてください。》
「罠は減っていない。
だが、配置は単純だ」
リンクの声は低く、落ち着いている。
《ええ。 向こうはあなたを“止める”より、“消耗させる”つもり》
ゼルダのチャットは続く。
《けれど……それは、あなたに通用しない》
三階まで吹き抜けになった図書館。
縦に広がる空間は静かで、
古い紙の匂いだけが残っている。
「落下誘導はない。 代わりに、視線を奪う構造だ」
梁の位置を確認し、そのまま通過する。
次は実験室。
取っ手に触れず、扉の縁を押して開ける。
薬品棚は整い、床も乾いている。
「……何もしていない部屋だ」
《罠がないのですね 》
数学の教室。
黒板の途中式、机の配置。
ここも問題はない。
《残っている部屋は?》
ゼルダの問い。
「二つだ」
リンクは歩みを止めない。
やがて、廊下の突き当たり。
一つの扉の前で、足が止まった。
張り紙。
――
「アリスの部屋」
「はいるな」
――
リンクは無言で、
背中のマスターソードに手をかける。
抜刀。
しかし――
剣は沈黙したままだ。
音も、光も、反応もない。
「……反応しない」
《ええ》
ゼルダの声は、迷いなく続く。
《それは、“そこに敵がいない”という意味。 あなたの剣は……「彼女」の判断は、正しい》
リンクは一瞬だけ考え、
そっと扉を開けた。
中は、小さな空室。
何もない。
歪みも、異界も、気配もない。
ただの部屋。
「……噂と違うな」
以前、
教員たちが交わしていた話を思い出す。
――アリスの部屋は、限りなく広い別世界。
――教師でも管理できない。
だが、現実は違う。
「でも。理解した」
リンクは静かに言った。
《ええ》
ゼルダの声が、はっきりと重なる。
《教員たちは、制御できない存在を恐れます。 そして今、この世界で最も制御できないのは……。あなた》
リンクは少し黙って答える。
「……俺が、標的になったわけか」
リンクは青く古い扉を閉める。
背を向け、足早に廊下を去る。
その背後で、
建て付けの悪い扉が軋み、
わずかに半開きになる。
次の通路。
床に張られたワイヤー。
リンクは助走もつけず、
バク宙で越えた。
着地。
――3階で床が抜ける。
氷水。
二階分、落下。
「……水か」
水中で体勢を整え、
即座に回復。
縁に手をかけ、静かに上がる。
《露骨になっています》
ゼルダの声。
《焦りを誘っています。 判断を誤らせるための》
図書館の別入口。
扉を開けた瞬間、
上からカッターの刃。
リンクは半歩引くだけで避ける。
続いて倒れてくる本棚。
――ビタロック。
時間が止まる。
リンクは本棚を足場にし、
崖を登る要領で二階へ戻った。
「……通路は、ほぼ把握した」
《ええ。 残るのは、一部屋だけです。》
リンクは三階へ向かう。
いや、その上。
「先に屋上だな」
窓を開け、壁に手をかける。
外壁は古く、脆い。
「登れる」
屋上。
広場も設備もない。
ただ、古い屋根だけが広がっている。
リンクは校舎を見下ろす。
先ほど開けた窓は、
すでに閉められていた。
だが、問題はない。
寮から校舎へ通じる、
開け放したままの侵入口がある。
《リンク》
ゼルダの声が、静かに響く。
《あなたは、もう十分に見ています。 罠も、通路も、 この世界の“扱い方”も》
「……ああ」
リンクは短く答える。
《残る一部屋に答えがなくても、 それは間違いではありません》
ゼルダは文章を続けるり
《あなたが歩いたその軌跡こそが、 この世界の正体を示しています》
リンクは屋上で一度だけ立ち止まり、
次の行動を選ぼうとしていた。
教師ではない何か。
昨晩から続く、あの蠢き。
「……行く」
それが、
“最後の一部屋”へ向かう合図だった。