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僕には中学三年生の兄がいた。
兄には恋人がいた。
学があった。体力があった。
僕に無いものを持っていた。何度も何度も兄を恨んだ。妬んだ羨ましかった。
時折兄は、彼女を連れて見舞いに来た。
自慢なのか、元気づけようとした兄なりの気遣いなのか。どちらにせよ僕にとっては不快だった。
僕には愛してくれる人がいない。
学もない。体力もない。
誰が僕を愛するのか。
僕は12で死んだ。
病気だった。
死ぬ直前、思い切り兄を恨んだ。呪った。
(許さない許さない許さない。きっと兄さんが生まれる時に僕のもの全部持って行ったんだ。ずるい。兄さんばかり、兄さんばかり幸せになって、愛されて、走り回って。)
本当は呪えるなら誰だって良かった。
ただ、病院から出たことのないような僕だから。知っているのは兄だけだった。
父も母も、僕を産んでくれたから、呪う気にならなかった。医者やら看護婦さんは、僕が生きられるように尽力してくれていたのを知っているから。呪う気になれなかった。
本当は、兄さんと、
外で走り回ってみたかっただけなんだ。
次に僕が見た景色は、死んだ僕だった。鏡を見ると僕は兄さんになっていた。
初めてのどこも痛くない辛くない体に驚いてあまり覚えていないが。
死んだ僕が酷く醜かったのを覚えている。
その日、僕は走って帰った。
初めてだったかもしれない。走ったのは、全速力で走ったのは、こんなにも風は心地いいものなのかと驚いた。
でも考え無しに走ったものだから家なんてどこか分からない。例え帰ることがあっても親の車で運ばれて、着くのを待つだけだったから。
「…!奏斗くん!?」
「あ…やっほ、」
彼女だ。兄さんの彼女に見つかった。
そうだ、この女なら家を知っているかもしれない。
「どうしたの?奏斗くん。」
「あ、あはは、……家に帰ってる途中で」
「?ふーん、ねぇ、私も行っていい?」
「いいよ」
助かった。家の方向がわかる。
……
彼女はまだ一緒に居たそうだったが。好みじゃなかったから無視して家に帰った。
「…ここが、兄さんの部屋」
病室で飽きるほど見たアニメで飽きるほど見るようなThe充実した生活みたいな部屋だった。
ベットに寝転がり混乱した頭を休めようとしたが。
(兄さんはどうなったんだろう)
僕の身体に、?入れ替わったってこと、?じゃあ火葬されて死んじゃうんじゃ。
………でも、助けられない。そんなこと説明してどうなるんだ?火葬されなくたってきっとどうにもならない。だって動けるなら動いてるだろう。そもそも兄さんが僕の体にいるっていう確証もないんだから。
でも、でも、でも、
「奏斗、朝よ、辛いのは、わかるけど、学校があるし、朝ごはんもできてるし、」
心配そうな顔だ。
「…ごめん、起きるよ、」
リビングへ下りて久しぶりなような、記憶では食べたような、食べたことないような、家の食事。
(美味いと感じるべきだろうけど、病院食ばかりで、慣れていないんだよなぁ、体はこっちの方が慣れているのだろうけど。)
母が心配そうな顔で
「奏斗、学校行けそう、?辛いなら休んでもいいけれど。…明日から夏休みでしょう、?荷物とか、あるんじゃないの?」
「大丈夫、いくよ」
行ってみたいから。
スマホで学校を検索する。
パスワードは…病室で、見た。兄さんが母さんに電話する時パスワードを入力するのがよく目に入っていたから。
部屋で準備をしていると
(…中学って、スマホ持ってっちゃダメなんだよな、?)
しっかり地図を見て、行き道を頭に叩き込んで向かった。
(暑い、普通の子はこんなに暑い中行くのか。)
………
「…奏斗くん…」
「…?」
心配そうな顔をした。兄さんの彼女が走ってきた。
「なんか、いつもより、暗くない、?」
「…そう、?」
わかんないよ、いつものテンションとか
僕は兄さんじゃない。
授業中だって、
「えっと、今日は…」
黒板の日付を見た先生が僕を当てた
「おい…?奏斗?お前なら余裕だろう?」
「……」
「…調子悪そうだな…座っていいぞ、?」
僕は黙って座った。
周りからはどうしたのかと言う声が聞こえる
(小声でも聞こえるっつーの、)
兄さん、耳いいのかな。僕も耳が良かったし。兄さんに似たのかな。耳の良さだけ。
(だからいっつもイヤホンつけてんのか)
僕は放課後逃げるように帰った。
帰っている途中、兄さんのことだからもしかして部活があるのかもしれないと頭をよぎったが。何部かも分からない、それに部活に耐えられる気がしないから、帰った
……
(荷物重いし最悪。)
「ただいまー、」
「奏斗…そういえば自転車で行かなかったわね、今日」
(兄さんって自転車で学校行ってたのか。…僕なんも知らないな、兄さんのこと)
部屋でうずくまる、
(無理だ。兄さんみたいに人間もできてない。)
(兄さんのこと知らないし)
1回から母さんの声が聞こえた。
「ちょっとー!奏斗ー!おともだちきてるわよ!」
部屋に兄さんの彼女が来た
「ご、ごめん急に来ちゃって。奏斗くん。元気なさそうだったし、いつもみたいに弟くんのお見舞いかな、って思って、病院に、…行ったんだけど…」
泣き出した。
「は、な、なんでお前が泣くんだよ」
「だって、だって…」
ボロボロ泣き始めて、泣いた女の扱いなんて分からなくて。
「ご、ごめん、」
「なんで謝るのよ…」
泣きながら無理して笑ったのが僕ですらわかった。
「…だから、今日…なんだか元気なかったんだね、…ごめん」
「お前が謝ることじゃ、」
「椿」
「は?」
「いつもみたいに椿って呼んでよ」
「…つ、ばき…」
「うん」
椿…初めて僕の見舞いに来た時も、そう名乗っていたのを思い出した。
「そうだ、!夏休み中に大きな夏のお祭りがあるでしょう?それ行こうよ!そしたら元気出るかもしれないよ?」
「…わかった」
無意識に言ってしまった。
「じゃあ決まりね!」
しばらく兄さんの彼女……椿は話を好きに1人で、ペラペラ話し、帰っていった。
「…兄さんの彼女、僕のために泣いてくれた……」
(僕も、やっと愛されるんだ。)
違う。あの笑顔も、あの涙も、真っ直ぐな気持ちも、全部兄さんのためなんだ。僕のためじゃない。
兄さんが羨ましい。あんなにいい女を手に入れているのに。
僕が死んでから3日程経った頃。
葬式が行われた。
…どうも自分の死体を見るというのは不思議な気分で。
最後の別れは今までありがとうと体に感謝をした。
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大根おろし
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大根おろし
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