シヴァの物騒な言葉を否定する事無く、当たり前の様に方法について話し出したコユキと善悪に向かい、ピッチリとした正座で真っ直ぐに向き合う骸骨、ベル・ズール・イーチ。
「ぼ、僕、悪い骸骨じゃないよ! な、名前はえっとぉ、そうだっ、ス、スケルトンリンだよ! てへへ」
「「嘘を言えっ!」」
善悪とコユキがネーミングセンスのゴロの悪さを同時に突っ込んだが、私個人としてはイーチがあのゲームの事を知っていた事の方が驚きであった。
「どれ、本当の事を話すのであれば手荒なことはしないで置いてやろう、どうだ? 正直に話すか?」
アスタロトの問いに何度も頷いて同意を示す骨に、アスタロトも一度だけ大きな頷きを返して質問を投げ掛ける。
「まずお前の本当の名を聞こう」
「は、はい、先程は緊張して偽りの名を告げてしまいました、申し訳ありません、実は私の名はスケルトンリンでは無いのです」
分かり切った事を言われて黙っていられるコユキではない。
「サッサと本当の名前を言いなさいよ! 喰っちまうわよ! ガアァっ!」
「は、はい! イーチ・オラシュチエ・ダキア・ブレビスタですっ! それが私の本名でっす!」
アスタロトが意外そうな顔で確認の声を上げた。
「ブレビスタ? お前ダキア王、ブレビスタなのか?」
「ええ、ええ、そんな風に呼ばれていた頃が私にも有りました」
遠い目をして言うダキア王、ブレビスタ…… いや目は無いんだけどね。
「ダキア人がバアルに従ってるなんておかしいだろう、お前らは一神教、唯一神(ゆいいつしん)であるサルモクシスにしか恭順しないと決めてたのではなかったか? なぜ異教の神バアルの配下に……」
コユキが飽きちゃったのだろうか、事情を知りたかったのか、しかとは分からなかったが口を挟んだ。
「ねえアスタ? このお骨って王様なのん? 誰?」
アスタロトが世界史に興味の欠片(かけら)も無いコユキに教えてくれた、優しい。
「あ? ああ、こいつは紀元前二世紀に興ったダキア人初の王者、ブレビスタらしい、カエサル始めローマの皇帝、総督、将軍達を悩ませ続けた戦上手だな! ペルシアに数世紀越えで一矢報いた勇者、英雄王の側面も持つバリバリの武闘派でもあるんだ! ただし、強さに比例する様にその宗教観も又、極端でな、今で言う所の原理主義以上、快楽虐殺者以下って所だな、サイコパスだっけか? あの感覚に近い数十万の奴らを平気な顔で率いていた、まあ、超ヤバい奴って事だよ、ちょ、ソレって、ヤバメ? じゃね? って感じだな! 兎に角気が荒い事で有名、手が付けられなかったそうだ、現在で言えばルーマニアか? 黒海の西に円形の祭事場を無数に作り唯(ただ)一人の神、雷神サルモクシスだけに忠誠を誓った男だぞ! その狂信は治世や立法にまで及んでな、サルモクシスの代弁者たるザモルクスっていう巫覡(かんなぎ)の言う事だけを聞き、自身はザモルクスの指定した洞窟の中で政治を行う程だったんだぞ! 一途と言えば一途だが極端だろ? 唯一神とその代弁者だけに全てを委ねたんだ、後、信じていた物と言えば唯一神サルモクシスに変わって世界を巡り監視を続ける疾風たるベンディス、ヴォルグスだけだったんだからな!」
いっぱい話したアスタロトの横で頷き続ける骸骨、ブレビスタをチラチラ見ながら善悪が言う。
「なるほどね、極端な唯一神信仰でござるなぁ、確かにそんな王様がバアルに従っているのはおかしいのでござるよ、ねえ、ブレビスタ君? なんで?」
ブレビスタは正座を崩さずに穴だけになった双眸(そうぼう)を善悪に向けて答える。
「なんでって、バアル殿の言う事を聞いてここを守護、守り抜いたら会わせてくれるって言われたからですね、尊い(たっとい)サルモクシス様に」
コユキが首を傾げながら聞き直したのである。
「ん? なんかそれって可笑しくない? たった一人の神様を信じていて、神の意志を聞く相手も側近のザモルクスだけなんでしょ? 関係ないバアルの言葉を信じるのってホコタテじゃん!」
「言われてみればその通りですね…… 自分でも分かりませんっ! なんであの少年? 少女? あの者の言葉を信じてしまったのやら……」
ブレビスタは|愕然《がくぜん》としていた、恐らくイーチショック! 状態だったのであろう……
そんな彼にアスタロトは笑顔で話し掛ける。
「まあでも結果だけ見れば良かったじゃないか! 望みが叶ったんだからな!」
アスタロトのブッ込みに善悪とコユキが驚きの声を上げた。
「「ええ、ま、まさか!」」
勘が良いのか、空気を察していち早く立ち上がり両手をコユキと善悪に向けて伸ばしているイーチの前でアスタロトが告げた。
「彼らが唯一信じている最高神サルモクシスとは別名ルキフェル! ここに並び立った我が兄コユキと善悪なのだよぉ! そしてぇ?」
オルクスとモラクスの二柱が進み出て言うのであった。
「どうも、ザモルクスです」
「ヴォルグス、ダヨ」
「「えええ――――!」」
驚き捲る二人に向けてイーチは言うのであった。
「モヌマ、ダ!!」
二人はまたもや声を合わせた。
「「アンタ、|訛って《なまって》るじゃん!」」
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