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「誕生日って、一年で一番死亡率が高い日なんだって」
「……なんでその話を誕生日にしたの。」
「いや、だから気をつけてほしいなって」
教室の椅子に反対向きで座り、アマネは俺に言う。ふわりとした黒髪に着崩した制服のアマネは、放課後に残って教材を開く俺とは対象的にスマホをポチポチと小刻みに叩いている。
「そっちこそ誕生日にお勉強なんて偉いね。俺じゃ考えらんない」
「テスト近いし当たり前だろ。お前と違って俺は真面目なの」
そう言いながらも目の前のソイツについ目が向く。彼は俺になど目もくれず携帯とばかりにらめっこをし続けている。そのスマホカバーには女の子の証明写真が挟まれてあった。
「彼女?」
「うん。この前仲直りしたばっかだから連絡多いんだよねー。」
「めんどいんなら無視すればいいのに」
「無視したらそれはそれで面倒になるからさ。」
少し伸びをしてアマネはまた同じ体制に戻る。誕生日なんだし、少しくらいこっちに目をくれてもいいんじゃないかと思うが、口には出さずに沈黙が流れる。コイツなんかとは、そのくらいの距離感が一番合っている気がした。
「てか、そんなに彼女と話すのが楽しいんなら会いに行けばいいのに。そっちだって誕生日なんだから」
アマネは一瞬手を止める。そして携帯を軽く伏せ、少し腰を反らしてまた伸びをしながら口を開く
「別に、誕生日くらい一番好きな相手といて何が悪いの」
少し驚く俺を無視し、アマネはまた携帯を叩き出す。本当に掴めない奴だ。
アマネとは中学のときに出会った。当時はあまり友達もおらず、窮屈な学級委員という役職を惰性でこなしていた俺に、なぜか隣のクラスのヤンチャな奴が声をかけてきたのが始まり。
ソイツの第一印象は、当時校則で禁止されていたワックスで髪を遊ばせ、学ランの前を全開に開けて過ごすようなtheチャラ男。学級委員で真面目だけが取り柄な人間として生きてきた俺には、とても対象的に思えた。
ソイツはアマネといって、クラスも違う俺にいつもついてきては何も楽しくお話もせず「じゃね〜」と去っていくような、見た目とも相反せず物凄く適当な男で。奇遇にもソイツは俺と誕生日が同じ日で、そんな共通点だけでなんだか親近感も湧いた俺達は惰性のようにつるむ仲となる。そんな不思議なお友達との交流を続けていくうちに、なぜだか分からないが、最初こそ面倒だった友達関係に心地よさを見出すようになっていった。
ソイツは適当な性格な割に頭が悪いわけではなく、案外勉強もできるやつで。俺が3年間頑張って掴みとった進学校に、ソイツは難なく一緒に合格して。クラスが離れているけれどこうして、前と同じような関係性は続いている。
最終下校時間になり、もう暗くなった道を二人で歩く。クリスマスが近いこともあり、ツリー、星、動物などの形に沿って街は嫌なほど煌めいている。
「今年初めて人とイルミネーション見たかも」
「マジ?真面目くんは凄いね。」
「そっちの不真面目くんはどうせ彼女と見に来てるんだろ」
俺の言葉にアマネは笑う。ズレたマフラーを指で直し、どこか遠くに目線を向けて呟く
「そうでもないよ」
「ふーん。」
「なに、非リアな真面目くんは俺が彼女と来てないって聞いて嬉しいの?」
「うるせ、そんなわけ無い」
そう返すと、アマネは細めた目をそのままにして俺に向ける。
「安心してよ、俺は非リアな真面目くんのために、来年も一緒に見てあげるからさ。」
その瞬間、吸い込んだ空気が喉にぶつかる。そんな俺に微笑みかけるアマネに対して俺は
「お前が彼女と別れたらな!」
と笑った。
冷たい街にサイレンが鳴り響く。空からはパラパラと雪が降って、その白と対象的な赤の光が着々と集まる野次馬達をざわつかせる。
「え、これなんの騒ぎ?」
「なんか通り魔があったらしいよ、犯人はその場で捕まったらしいんだけど……怖いよね」
怖い物見たさなのか、そんな話をしながら歩く人が様子をうかがう。
「……。」
目の前に転がるソレは何かに包まれ、複数の救急隊員にストレッチャーに乗せられ救急車に仕舞われていく。
嫌になるほど現実感がない感覚。救急隊員のに「ついてくるか」という問いを断り、俺はそこに立ち尽くす。
「誕生日って、一年で一番死亡率が高い日なんだってさ。」
「だから、気をつけてって言ったのに。」