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やってきたのは商店街。2日前にも来ているが、本日は本格的な買い物がしたいというミューゼとパルミラの希望で、残り2日のうちの1日を海以外の観光に使う事にしたのだ。
「どこかオススメはあるのよ?」
「この前お店は大体見て回りましたし、それ以外の場所は……子供が楽しめる場所かどうかは……」
「それは困るかな。アリエッタとピアーニャちゃんが退屈で寝ちゃう」
「わちはコドモではないのだが!?」
(どこに行くのか楽しみね~。色の練習に夢中かもしれないアリエッタの為に、お土産話いっぱい持って行かないと)
アリエッタ(エルツァーレマイア)と一緒に行動しているのは、ピアーニャ、ミューゼ、パフィ、パルミラの4人。すっかり仲良くなったパルミラは、護衛ついでに一緒に楽しんでいる。
ピアーニャがいる時点で護衛も何も無いのだが、そこは体裁と観察を兼ねている。
「ああ、そういえばミューゼさんが好きそうな巨大植物園がありますね、いってみます?」
「植物園!? 行きたい!」
ある程度ヨークスフィルンについて知識を持っているパルミラが、最初からくたびれているピアーニャに代わってオススメスポットを提示した。その場所にはミューゼが食いつく。
「それでは待ち合わせまでのんびり参りましょうか」
「楽しみなのよ。ね、アリエッタ」
「?」
行き先を巨大植物園に決めた一行は、のんびりと歩みを進めるのだった。
「ぴあーにゃ、だいじょうぶ?」(疲れてるよわよね。おんぶしてあげなきゃ)
「ひっ……なんでせなかをむけるのだ……」
「アリエッタの頑張りを無視したら駄目ですよ。はい乗って乗って」
「うぅぅぅ~~~~……」
「後でいっぱい褒めてあげるのよ」
ピアーニャを可愛がって、頑張って褒められ、そして甘える。それを当たり前にしてアリエッタが甘えやすい環境を作る。
エルツァーレマイアの計画は、ピアーニャの本心以外に関してはおおむね順調に進んでいた。
一方、別の場所ではネフテリアがアイスクリームを買っていた。
「んーおいしー」
「テリアはコナッシュ味だし? じゃあボクは……」
ネフテリアに続き、同行しているクリム、フレア、オスルェンシス、ツーファンが次々にアイスを選んでいく。
流石に全員で動くのは大人数過ぎるという事で、分かれて行動をしている。しかし、王族が少人数で動くのは周りが許さないので、少し離れた所にフレアの護衛が付いてくるという、ちょっと怪しい状態になっている。
王族の関係者はそれに慣れているが、一般人のクリムだけは、気になって仕方がない様子。
「なんか一斉にジーっと見られてて怖いし……」
「なんだかごめんなさいね」
「すぐに気にならなくなりますよ。それに便利ですよ」
「どういう事だし?」
意味が分からず首を傾げるが、ネフテリアはイタズラっぽい笑みを浮かべてすぐに分かると言うだけ。
とりあえず今は気を紛らわす為に、ツーファンと料理トークを続ける事にした。
「ちょっと待ちなさいツーファン。その危険なアレンジの話はよくないわ……いやそんな『なんで?』な顔で見ないでくれる?」
冷や汗をかきながら2人の話に割り込むフレア。
「悪意を持って王に近づく者を排除できますから」
「その実験にわたくし達を使うのはどうかと思うのだけど!?」
「大丈夫ですよ」
「何が!?」
王族に対してなんの遠慮も無いツーファンを見て、クリムはしばし考えた。
(なるほど、料理は食べる物って考えで動いてたけど、危険排除もできるし。食べる武器って便利かもしれないし)
「えっと……クリム? 何か恐ろしい事考えてない?」
パフィのように戦えないクリムにとって、料理で何かが出来るという事は重要なのである。アリエッタに何かを教える事が出来ても、パフィやミューゼのように何かから護るという事が出来ないのは、実は少し不服だったのだ。その代わりに美味しいものを食べさせていたのだが。
しかしラスィーテ人の能力では、人体に害のある食べ物を作る事は出来ない。作れるのはあくまで『食べる事が出来る』料理なのだ。
(でも、『美味しさ』を極限まで減らした料理なら、アリエッタを狙う外敵を排除する事だって可能かもしれないし!)
「あの、もしもーし……」
恐ろしい結論を導き出そうとしているクリム。なんとなく恐怖を感じているネフテリアは、肩を軽く揺さぶってクリムの思考を止める事に成功した。
「あ、折角だし。テリアも今度手伝うし」
「何を!?」
どうやら遅かったようだ。
笑顔のクリムからこれ以上聞き出す事が怖くなったネフテリアは、この場の空気から逃げるように話題を変え、次の店へと向かうのだった。
「そ、そういえばお兄様は今頃どうしているのでしょう」
「男だけで見て回りたいと言っていましたし、きっとどこかで遊んでいますよ」
ディランの事だからピアーニャが喜ぶような贈り物でも探しているのだろうと、平和な想像を口にするフレア。
その頃のディランは、残り2人の側仕えであるボルクスとアデルを引き連れ、娯楽場にいた。3人で釣り堀やゲームを遊びつつ、幼女観察を嗜んでいる。たまに声をかけては側室にならないかと誘い、親によって引き離され、2人に怒られるというやり取りを繰り返していた。
そこまでは予想の範疇だが、できればそんな予想が当たってほしくないフレアは考えるのを止め、次の店はどこかと催促するのだった。
そのままいくつかの店を回ると、すぐに荷物はいっぱいになった。
「おっとぉ……随分買っちゃったし?」
「結構増えちゃったかな」
お土産と食材を大量に買い込んだ一同。主にツーファンの料理用だが、そろそろ持ちきれなくなってきた様子。
そこで、ネフテリアが手を振り声を上げた。
「おーい!」
「はっ、只今!」
離れた所にいた護衛が4名、走ってやってきた。
「これ宿にお願い」
「かしこまりました!」
護衛達はせっせと荷物を持ち上げ、すぐさま去っていった。クリムは困惑している。
「これで荷物は大丈夫。便利でしょ?」
「ほあぁ……なるほど、王族って人をこき使うのがうまいし」
クリムの率直な感想に、ネフテリアとフレアは顔をしかめた。そのイメージの悪さを説得で塗り替えようとするも、クリムにとって今の印象がかなり強く、かなりの時間を要するのだった。
「ボクも専属の荷物持ち欲しくなったし。でも幼女総長しかそういうのいないし……」
「いやいや専属の荷物持ちじゃないから。しかも荷物持ちがピアーニャって」
「まぁまぁ。それよりも、もうすぐ待ち合わせの時刻よ」
ゆっくり買い物を楽しんだ後は、アリエッタ達との待ち合わせ。宿の近くでブラブラしながら待つ予定である。
途中で再び買い食いをしながら、のんびりと待ち合わせの場所へと向かう…のだが……。
「ふっ、フレア様ぁー!」
「あら、どうしたのかしら?」
護衛の1人が慌てて走ってきた。
「貴方アリエッタちゃんの護衛してたんじゃ?」
「はぁ、はぁ、はぃ、緊急事態が…起こった…のでっ…報告に…参りましたっ……」
「緊急事態だし?」
ツーファンが飲み物を出し、アリエッタ達を見守っていた護衛に与え、息を整えさせた。
護衛はそれを飲んだ後、冷静さを取り戻す為に大きく息を吐き、背筋を伸ばす。
「植物園が何かに埋め尽くされました! アリエッタ嬢達も避難しましたが、園内ではぐれてしまい、居場所は不明!」
『えっ!?』
ネフテリア達が植物園のある内陸方面を向いた。
その時、地鳴りが辺りに響き渡った。
「なっなんだし!?」
緊張する一同の中で、トラブルに慣れていないクリムだけが狼狽える。それを気遣い、ツーファンがクリムの背に手を添えながら警戒する。
次の瞬間、轟音と共にそれが襲来した。
「うわーーーー!! なんだしーーーー!?」
「ナニコレ津波ぃぃ!?」
「なんでぇぇぇ!?」
人々が行き交う海辺の街。その海とは反対の内陸側から、黄色の津波が街へと襲い掛かった。