テラーノベル
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こはる
遂にやって来た学期末試験本番の日。合宿施設の前に集まる生徒たちは、最終チェックに余念がない。
大きなリュックを背負う者、逆に動きやすさを重視し最小限の装備で挑む者など様々だが、各パーティごとに分かれ円陣を組む様子は、気合も十分といったところ。
ネストが指示を飛ばしながら、注意事項などの確認が終わると、次に行うのは二つのくじ引き。
一つは担当冒険者。いわゆる試験官の抽選と、もう一つはスタート順の抽選である。
全員がヨーイドンで一斉にスタートする訳ではなく、間隔を開けてスタートする方式だ。元の世界で言うところのラリーなどと同じ形式である。
これは早さを競う試験ではない。もちろん全てにおいて完璧で、且つ最速で帰ってこれた場合は加点もあるのだろうが、それよりも全員が一斉にスタートすることによって、ダンジョン内部が生徒たちで溢れ返ってしまうという事態を防ぐという意味合いが強い。
全員一緒にダンジョンクリアでは意味がないのだ。生徒たちの自主性や協調性を見るためにも、出来るだけ重ならないようにとの配慮がなされているのである。
その抽選結果に一喜一憂する生徒たち。そしてアレックスがパーティリーダーとしてくじを引く順番が回ってくると、当たり前のようにフィリップを引き当てた。
同じようにもう一つの箱からくじを引き、それを確認するとアレックスは喜びのあまり声を上げる。
「よっしゃぁぁぁ!!」
両手でガッツポーズをすると、パーティメンバーに温かく迎えられるアレックス。引き当てたスタート順は一番最後。
この試験はスタートが遅いほど有利。ダンジョンに到達する時間が遅ければ遅いほど、魔物とのエンカウント率が減るからだ。
先に入った生徒たちがダンジョン内の魔物を倒してしまっているからである。
二つのくじ引きが終わると、生徒たちに手渡されるのは一枚の地図。それはとても簡易的な物だ。
コット村からダンジョンの場所までを示すための物であり、決してダンジョン内部の地図ではない。間違って別のダンジョンに入ってしまう事故を防ぐためでもある。
それを見て声を上げたのは、フィリップだった。
「九条。入口はこっちでいいのか?」
「ああ。何か問題でも?」
「いや……」
フィリップがそれに反応を見せたのも当然だ。試験に使うルートは正門側。炭鉱ルートではなかった為、戸惑っているのだろう。
炭鉱側は言わば天然の迷路だ。シャーリーのように精度の高いトラッキングスキルを所持しているならまだしも、一般人には遭難必至の規模である。
そんな所を冒険者でもない生徒たちに超えろと言うのは酷であるし、それを教えるということは、家の合鍵を渡すようなもの。
恐らくは自分たちだけ炭鉱を早く抜けることでアドバンテージを得ようとしていたか、ショートカットにでも利用しようと考えていたのではないだろうか。
何やらアレックスと揉めているようだが、俺には関係のない事だ。
試験期間は五日間。その間に目標を達成し帰還するまでが採点範囲。
最初のパーティが出発すると、次のスタートまでに三十分の時間を空けるのが決まりだ。
出発するタイミングでパーティのリーダーに帰還水晶が手渡されると、村人たちに頑張れと声を掛けられ、少々照れながらも村の門を後にする生徒たち。
それから八時間後。ようやく最終パーティであるアレックスたちの出発時間である。
日はほぼ沈んでいる。ある意味それが最後尾のデメリット。出発してすぐに野宿の準備をするのか、眠い目を擦りながらも進行するのかは自由だ。
リーダーのアレックスに、ブライアン、アンナ、レナの四人に加え、試験官のフィリップ。
その中でレナだけが少し浮いているようにも見えるのは、荷物持ちを任されているからだろう。
「ほら、仕舞っておけ」
「はい」
マグナスから受け取った帰還水晶をアレックスから受け取るレナ。女性に全ての荷物を一任するのはいかがなものかと思うが、これは試験。俺はそれに口を出せない。
出来る事と言えば、僅かばかりの応援だけ。
「頑張れよ」
「チッ……」
素直に応援してやっているのに返ってきたのは舌打ちだ。その中でレナだけが俺に軽く頭を下げた。
まあ、打ち解けたとは思っていないが、愛想を返す余裕もないとは……。
とは言え、緊張している様子もないのは余裕の表れなのだろう。自信過剰とは言わないが、それが身を滅ぼさぬよう影ながら祈るばかりである。
――――――――――
「【|魔法の矢《マジックアロー》】!」
生徒が放った魔法の矢は見事スケルトンを貫くと、骨の身体は音と立てて崩れ去った。
後は、動きの遅いゾンビたちの処理だけだ。盾役の冒険者がそれを押さえている間に、始末すればいいだけ。学院の生徒たちなら簡単なことである。
「バイスさん! 離れてください!」
一人の生徒が指示を飛ばすと、バイスは打ち合わせ通りの動きを見せる。
「【|火炎球《ファイアーボール》】!」
振りかぶった杖の先からバスケットボールほどの火球が現れ、それがゾンビに直撃すると、周りを巻き込み燃え盛るアンデッドたち。
アンデッドは炎に弱い。学院で学ぶ魔物学の知識である。それを存分に発揮し戦う生徒たちには勢いがあった。
続々と倒れていく数匹のゾンビを目の前に、初めて魔物を倒した喜びをハイタッチで分かち合うバイス組の生徒たち。
「イェーイ!」
「余裕だったな!」
「ええ。くじで一番を引いた時にはどうしようかと思ったけど、試験官にはゴールドプレートのバイスさんを引けたし、楽勝ね!」
それを見て立ち尽くすバイスは冷静であった。試験官として生徒たちを客観的に見定める為だ。
魔法の威力は駆けだし冒険者と比べても強力で、戦闘中の動きも悪くない。だが、それだけであった。
(近くの仲間の存在を考えない広範囲に影響を与える魔法の使用……。それに魔物を倒した後の騒ぎよう……。喜ぶ気持ちもわかるが、静かにしなければ新たな魔物を呼ぶだけだ……)
バイスの思った通り、騒ぎを聞きつけたであろうスケルトンたちがぞろぞろと姿を現し、バイスはそれを見て溜息をついた。
(やれやれ……。弱い魔物しかいないとはわかっていても、素人のお守りは大変だ……)
「新手よ!」
「よし! 今度は俺に任せろ! 【|氷結輪舞《アイシクルロンド》】!」
頭上に現れた無数の氷の矢がスケルトンたちに降りかかり、ボロボロと崩れていく様は見ていて麻薬のような快感を得られる事だろう。
自分たちには敵はいない。まるで自分が世界最強の魔術師にでもなった気分にテンションも上がるというものだ。
それを抑えられないからこそ、調子に乗って命を落とす冒険者が多い。
試験とは言え、それを体験出来るのは学院ならではだろう。ついでに挫折を味わうにはちょうどいい機会である。
バイスはそれを知っていても話さない。試験中の助言は許可されていないと言うのもあるが、何事も経験が肝心だからだ。
身をもって味わうのも、一つの学習なのである。
(スケルトン如きに使う魔力量じゃない……。倒した魔物の加点を含めても二点の減点だな……)
彼らは開け放たれた封印の門を前に、意気揚々と足を進めるのであった。
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