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花 火 の 残 り 香 .(上)
8月の真夏の夜
空は花火で彩やかだった
海の波音など耳に届かず
祭りで楽しむ人の声で掻き消されていく
気づけば空に咲いていた花も
星屑のように落ちていく
海辺で君と見た忘れられない記憶
時間が止まっているように感じたひととき
止まればいいと願った私と君
理想的な物語になれないなんて百も承知よ
だから理想を追い求めるのはやめて
君といれたらそれでいいと人生を投げ捨てた
君と島で飲んだ度数のきついお酒に酔って
酔ったということを理由に身体を重ねた
優しく抱きしめてくれる君の手が好きで
よくそれにしがみついてた
諦めの悪い幼稚園児みたいに
そんな
美しい昔に想いを寄せる
変わってしまった君の愛のカタチ
でもきっと
君から見て私も同じなんだろうね
誰かにしがみついていたい
なんて我儘すぎる女だもの
でも
でもね本当は気づいてたの
島から出れない私と
島から出た君は何も変わってないって
時間の針が手で戻せるのなら
私はきっとあの日の花火祭りの時まで
いやそれよりもっと前
戻りたいと馬鹿な妄想をする
それくらい馬鹿な妄想をするくらい
君との時間がどんな宝石や星よりも
眩しくて仕方がなかったの
優しい君が
“世界は優しすぎる格言で溢れてる”
“だから君も僕みたいな臆病な人間に縋るより”
“そんな格言に縋るのもいいかもしれないよ”
そんなことを言われても無理だった
優しい言葉や名言や格言
縋ったって結局泡のように無効化される
消えないものが欲しくって
君を選んだの
歳をとってよぼよぼになっちゃっても
君以外の優しい完璧な男の人がいたとしても
君以上の人にはなれないし
君なのは変わらないでしょう?
また8月の夏の夜
昔とは違う状況
あゝ、早く上がって
お願いです
彼の手が冷たくなって行くのが伝わる
その度に強く握る
ひゅ~…ぱっ!
先程よりも強く彼の手を握った
そしたら彼もまた強く握り返した
綺麗なキラキラ夜に咲く花
星屑のように散っていく
それを何度も何度も連続で
見惚れているうちに
彼は安心したのだろう
私の手から海のように冷たい手が
するりと落ちていった
それと同時に
花は散って
私の恋も終わった