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私が語り終えると、ユーヤの思い詰めていた表情が柔らぎました。


「俺も勇者じゃない」

「ふふ、知っています」


くすりと笑いがこぼれました。


「あなたはユーヤです」

「ミレ……」


私へ伸ばしかけた手を届く寸前で止めるユーヤ。

その手に私は自分の手の平を重ね合わせました。


「だが……誰もが俺に勇者であれと願っている」


いいえ、と私は首を振る。


「この世界の全てがユーヤに勇者という『役』を求めても、私はあなたがユーヤであることを願います。勇者という『役』を放棄して世界の全てがユーヤの敵になったとしても、私はずっとあなたの味方です」


私とユーヤの合わせた手の指が自然と絡み合う。


「俺は悠哉のままでいいのだろうか?」

「貴方はユーヤのままでいて下さい」


絡まるユーヤの指に力が籠る。


「これからも俺はリアフローデンにいたい」

「ユーヤがそう望むのなら」


私とユーヤの交じり合う視線。

彼の黒い瞳に熱い火が灯った。


それは彼の熱い想いの籠った火……


「俺はずっとミレの傍にいたい」

「私もユーヤと一緒にいたいです」


絡めた手と逆側のユーヤの腕が急に私の腰に回されました。


「え!?」

「俺はミレが好きだ」

「それは――ッん!?」


ユーヤは問い返そうとした私の唇をいきなり塞ぎました――


自分の唇で……


私は目を大きく見開き体を強張らせ、ユーヤの胸の中でわずかに身をよじりました。ですが、彼の力強い腕にあらがえず、彼に抱かれる誘惑はとても甘く……


しばらくして、私は目を閉じると、彼の背に腕を回して身を預けました。


どれ位の時間そうしていたのでしょうか。


やがて彼の口付けから解放され、私は小さく吐息を漏らしました。


先程まで彼の唇が触れていた部分に熱が籠っているようで、思わず私は自分の唇を指でなぞりました。指に感じるのはとても熱くて、そして僅かに濡れている感触。


私のとろりと上気した顔をその黒い瞳に映しユーヤが覗き込んできました。


「明日、俺はこの町を出る」

「ユーヤ?」


その言葉は彼との口づけにまだ少し放心していた私の意識を覚醒させました。


ユーヤの声音には迷いが感じられません。

そして、私を見詰める黒い瞳に宿るのは決意の光。


「俺は魔王を倒しに行く」

「それはユーヤが勇者だからですか?」


ユーヤは私の問いに首を振りました。


「俺はこの世界は嫌いだ。こんな世界の奴らの為に勇者なんてやってられるかって思っていた」


ユーヤの大きな手が私の頬に優しく添えられる。


「だけど俺はミレが好きだ。ミレの住むこの町を、ミレの居る世界を守りたい。だから――」


ユーヤの顔がゆっくり近づき、私の心臓は早鐘の様に高鳴りました。


「――俺は魔王を倒す。勇者なんかじゃなく悠哉として魔王を倒す。ただミレの為に。ただミレの為だけに」

「ユーヤ……んっ……」


私達の熱を帯びた唇は再び溶けて一つになりました……





次の日の早朝――


ユーヤは魔王を倒しに出立しました。

私に一言だけ言い残して――待っていて欲しい、と……


フレチェリカさんとゴーガンさんを伴い、一度もこちらを振り向かずに街道を進むユーヤ。


私は去って行く彼の後ろ姿が見えなくなるまで見送って……


彼の姿が見えなくなってしまっても、それでも私はずっとその場で佇んでいました。


町の入り口で立ち尽くしていた私を一陣の風がなぶる。

その風は少し冷たくて私は身をぶるりと震わせました。


「もう秋も近いのですね」


ユーヤの去って行った方へと吹き抜けた白い風に身を切られ、私は夏の終わりを感じたのでした……

転生ヒロインに国を荒らされました。それでも悪役令嬢(わたし)は生きてます。

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